この指灯せ

コトハナリユキ

文字の大きさ
上 下
64 / 73
メシアの誕生

目覚め

しおりを挟む
 学校へ行くことがなくなり、奴らにどう復讐をすればいいか常に考えていた。今思えば、家がバレていなかったことは不幸中の幸いだったかもしれない。
 
「しばらく学校を休みたい。理由は時期が来たら話すから。」

 両親にはそう伝えると分かってくれた。
 一日中家に居ると気が滅入ってしまう。夕方には一度家の周りを散歩した。何も起きない穏やかな生活を少しだけ過ごしていた。
 ある日。いつもの住宅街を散歩していると怪しげな男が気弱そうな学生に話しかけているのを見かけた。すると僕が来たタイミングで学生は逃げ去った。

「やぁ、あんたも元気なさそうだなぁ。」
「…まぁ、元気いっぱいではないかな。」
「ははは。今走ってった彼にも同じ話をしていたんだけどさ」
「?」
「あんたにも効くかもしれないねぇ。これ、勇気が出る薬なんだよね。」

 明らかに怪しかった。僕も学生同様に走り去ろうとしたが、なぜか興味も湧いてしまった。

「…へぇ。お試しはできたりするのかな?お金はある。」
「お。あんたいいね。いいぜ、1錠くらいならな…近くに公園がある。」

 僕はその男と近くにある北里公園へ向かった。道中、男に尋ねてみた。

「その薬っていうのは…いわゆる覚醒剤とかの類のもの?」
「まぁそうっちゃぁそうだが、そう簡単に言い切れるもんでもない。」
「…というと?」
「人によるが、ハイになってぶっ飛ぶだけの奴もいれば、パワーが溢れたりするやつも居るって話だ。あんたがどんな感じになるか楽しみだぜ。」
「へぇ。」

 僕らは人気のない北里公園のトイレに入り、個室で男からその薬を渡された。▼マークのついた妙な薬だった。少しだけ躊躇ったが、意を決して飲んでみた。

「…ん"!」
「え、まだ30秒も経ってねぇぞ…反応早くね?」

 非常に薬が効いてくるのが早かった。一気に身体中が熱くなり、僕の内側に押さえ込まれていた憎悪が雄叫びをあげているようだった。手が大きく震えているが寒気じゃない。これは力が溢れているんだ。切られた左耳の部分からは出血し、見えなくなった右目も熱くなる。

「…あぁあぁぁ…!」
「こ、こんな反応聞いてねぇよ…!」

 男は僕の反応を見てかなり驚いているようだった。
 そして腕の異変に気づいた。細い腕がとんでもなく筋肉質になっていた。そして気を失いかけた時、頭の奥で声が聞こえて来た。

「「「殺そう!悪人はすべて殺そう!殺すんだ!殺さなければならない!」」」

 きっと、僕が中学1年生から溜め込んできた憎悪が心の中で形を成したんだろう。

「そうだね。そうしなきゃいけないんだ。」
「なに…言ってんだ…?」

 男は僕の様子を見ようとそっと顔を覗き込んだ。その瞬間だった。

『バン!』

 凄まじい破裂音と共に僕の右手が男の頭を弾いた。そのまま扉に叩きつけられ男は脳みそを飛び散らせ死んでいた。

「…ひっ。」

 ぼ、僕がやったのか?…今の。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クアドロフォニアは突然に

七星満実
ミステリー
過疎化の進む山奥の小さな集落、忍足(おしたり)村。 廃校寸前の地元中学校に通う有沢祐樹は、卒業を間近に控え、県を出るか、県に留まるか、同級生たちと同じく進路に迷っていた。 そんな時、東京から忍足中学へ転入生がやってくる。 どうしてこの時期に?そんな疑問をよそにやってきた彼は、祐樹達が想像していた東京人とは似ても似つかない、不気味な風貌の少年だった。 時を同じくして、耳を疑うニュースが忍足村に飛び込んでくる。そしてこの事をきっかけにして、かつてない凄惨な事件が次々と巻き起こり、忍足の村民達を恐怖と絶望に陥れるのであった。 自分たちの生まれ育った村で起こる数々の恐ろしく残忍な事件に対し、祐樹達は知恵を絞って懸命に立ち向かおうとするが、禁忌とされていた忍足村の過去を偶然知ってしまったことで、事件は思いもよらぬ展開を見せ始める……。 青春と戦慄が交錯する、プライマリーユースサスペンス。 どうぞ、ご期待ください。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

闇に蠢く

野村勇輔(ノムラユーリ)
ホラー
 関わると行方不明になると噂される喪服の女(少女)に関わってしまった相原奈央と相原響紀。  響紀は女の手にかかり、命を落とす。  さらに奈央も狙われて…… イラスト:ミコトカエ(@takoharamint)様 ※無断転載等不可

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

処理中です...