61 / 73
メシアの誕生
退屈なライオン
しおりを挟む
ある日の休み時間、本を読んでいると教室のうしろの方から侠山たちの話し声が聞こえて来た。
「もう1年は、シメたと言っていいよな…。」
「スタートダッシュがやっぱすごかったんよのぉ。侠山のおかげ。へへへ。」
「あの初日のタコ殴りはやばかったよなー!」
どうやら彼らは川出の事件で勢いをつけ、半月と経たないうちに1年生の全クラスの目立つ不良らを潰して来たようだった。
僕には関係のない世界だ。この高校に来る前は中学の苦しみが続くと思い、不安だけがあった。でも、来てみると恐怖の対象だった川出はすぐに離脱し、他の不良たちも自分たちのことで精一杯。権力争いや武力抗争とは無縁の世界に生きている僕としては、平和そのものだった。
中学の頃は、すでに不良たちのリーダーとなっていた川出が、暇つぶしで僕をいたぶっていた。彼は学校生活に退屈していた。だからいじめる対象が必要で、それがたまたま僕だった。きっと彼からすれば、その程度の話なんだろう。
僕はこのまま3年間が過ぎると思っていた。周りの喧騒をよそに静かに本を読んでいれば学生生活を終えられると思っていた。
"退屈な時間がある"という状況は"狂気"を生み出す最高のシチュエーションだったことを僕は知っていた。だが、川出が離脱した安堵感からか、そんなことを考えることもなかった。
「なぁ…高柳くんって言ったっけ?」
「…え。」
読んでいた本は藤宮に取り上げられ、佐川は睨みを利かし、侠山は僕の前の席に座り、こちらをにこやかに見ていた。
「ちょっと顔貸せよ。今日からお前は、俺らのオ・モ・チャ…。」
そう、彼らはこの三木堂高校1年生のボスとなり、すでに退屈を感じはじめていたんだ。そして僕はまた理由なき暴力と虐待を受けることとなった。
川出が僕に中学で行ったことなどとは、比じゃなかった。力もはるかに強く、やることも想像できないものばかりだった。
場所は関係なく毎日暴力を振るわれた。顔は1撃入れた後は治るまで殴ることはなかった。首から下はあざだらけだった。藤宮の1撃は重たく奥歯がどんどんなくなっていった。
「お前、殴られ慣れとるのぅ。…まぁそんな気はしてた。ははは。」
そんな風に藤宮は笑っていた。
「格闘技の練習台になれ」
と佐川の技を受けて何度も気を失った。
「軽すぎて練習にならねえなぁ」
と逆ギレされたりもした。
この2人は基本、ただの暴力だった。痛いし、嫌だが、これは中学で慣れてしまった部分でもあった。ただ、僕がひどく耐えられなかったのは、侠山の精神的で異常な身体的な暴力だった。
「じゃー服、脱いで。」
「もう1年は、シメたと言っていいよな…。」
「スタートダッシュがやっぱすごかったんよのぉ。侠山のおかげ。へへへ。」
「あの初日のタコ殴りはやばかったよなー!」
どうやら彼らは川出の事件で勢いをつけ、半月と経たないうちに1年生の全クラスの目立つ不良らを潰して来たようだった。
僕には関係のない世界だ。この高校に来る前は中学の苦しみが続くと思い、不安だけがあった。でも、来てみると恐怖の対象だった川出はすぐに離脱し、他の不良たちも自分たちのことで精一杯。権力争いや武力抗争とは無縁の世界に生きている僕としては、平和そのものだった。
中学の頃は、すでに不良たちのリーダーとなっていた川出が、暇つぶしで僕をいたぶっていた。彼は学校生活に退屈していた。だからいじめる対象が必要で、それがたまたま僕だった。きっと彼からすれば、その程度の話なんだろう。
僕はこのまま3年間が過ぎると思っていた。周りの喧騒をよそに静かに本を読んでいれば学生生活を終えられると思っていた。
"退屈な時間がある"という状況は"狂気"を生み出す最高のシチュエーションだったことを僕は知っていた。だが、川出が離脱した安堵感からか、そんなことを考えることもなかった。
「なぁ…高柳くんって言ったっけ?」
「…え。」
読んでいた本は藤宮に取り上げられ、佐川は睨みを利かし、侠山は僕の前の席に座り、こちらをにこやかに見ていた。
「ちょっと顔貸せよ。今日からお前は、俺らのオ・モ・チャ…。」
そう、彼らはこの三木堂高校1年生のボスとなり、すでに退屈を感じはじめていたんだ。そして僕はまた理由なき暴力と虐待を受けることとなった。
川出が僕に中学で行ったことなどとは、比じゃなかった。力もはるかに強く、やることも想像できないものばかりだった。
場所は関係なく毎日暴力を振るわれた。顔は1撃入れた後は治るまで殴ることはなかった。首から下はあざだらけだった。藤宮の1撃は重たく奥歯がどんどんなくなっていった。
「お前、殴られ慣れとるのぅ。…まぁそんな気はしてた。ははは。」
そんな風に藤宮は笑っていた。
「格闘技の練習台になれ」
と佐川の技を受けて何度も気を失った。
「軽すぎて練習にならねえなぁ」
と逆ギレされたりもした。
この2人は基本、ただの暴力だった。痛いし、嫌だが、これは中学で慣れてしまった部分でもあった。ただ、僕がひどく耐えられなかったのは、侠山の精神的で異常な身体的な暴力だった。
「じゃー服、脱いで。」
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
四次元残響の檻(おり)
葉羽
ミステリー
音響学の権威である変わり者の学者、阿座河燐太郎(あざかわ りんたろう)博士が、古びた洋館を改装した音響研究所の地下実験室で謎の死を遂げた。密室状態の実験室から博士の身体は消失し、物証は一切残されていない。警察は超常現象として捜査を打ち切ろうとするが、事件の報を聞きつけた神藤葉羽は、そこに論理的なトリックが隠されていると確信する。葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共に、奇妙な音響装置が残された地下実験室を訪れる。そこで葉羽は、博士が四次元空間と共鳴現象を利用した前代未聞の殺人トリックを仕掛けた可能性に気づく。しかし、謎を解き明かそうとする葉羽と彩由美の周囲で、不可解な現象が次々と発生し、二人は見えない恐怖に追い詰められていく。四次元残響が引き起こす恐怖と、天才高校生・葉羽の推理が交錯する中、事件は想像を絶する結末へと向かっていく。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幽子さんの謎解きレポート~しんいち君と霊感少女幽子さんの実話を元にした本格心霊ミステリー~
しんいち
ミステリー
オカルトに魅了された主人公、しんいち君は、ある日、霊感を持つ少女「幽子」と出会う。彼女は不思議な力を持ち、様々な霊的な現象を感じ取ることができる。しんいち君は、幽子から依頼を受け、彼女の力を借りて数々のミステリアスな事件に挑むことになる。
彼らは、失われた魂の行方を追い、過去の悲劇に隠された真実を解き明かす旅に出る。幽子の霊感としんいち君の好奇心が交錯する中、彼らは次第に深い絆を築いていく。しかし、彼らの前には、恐ろしい霊や謎めいた存在が立ちはだかり、真実を知ることがどれほど危険であるかを思い知らされる。
果たして、しんいち君と幽子は、数々の試練を乗り越え、真実に辿り着くことができるのか?彼らの冒険は、オカルトの世界の奥深さと人間の心の闇を描き出す、ミステリアスな物語である。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
霊山の裁き
聖岳郎
ミステリー
製薬会社のMRを辞め、探偵となった空木健介。登山と下山後の一杯をこよなく愛する探偵が、初の探偵仕事で事件に巻き込まれる。初仕事は不倫調査の尾行だったが、その男は滋賀県と岐阜県の県境に位置する霊仙山の廃屋で死体で見つかった。死体は一体誰?さらに、空木の元に、女性からの手紙が届き、山形県の霊山、月山に来るように依頼される。その月山の山中でも、死体が発見される。転落死した会社員は事故だったのか?
とある製薬会社の仙台支店に渦巻く、保身とエゴが空木健介によって暴かれていく山岳推理小説。
ピエロの嘲笑が消えない
葉羽
ミステリー
天才高校生・神藤葉羽は、幼馴染の望月彩由美から奇妙な相談を受ける。彼女の叔母が入院している精神科診療所「クロウ・ハウス」で、不可解な現象が続いているというのだ。患者たちは一様に「ピエロを見た」と怯え、精神を病んでいく。葉羽は、彩由美と共に診療所を訪れ、調査を開始する。だが、そこは常識では計り知れない恐怖が支配する場所だった。患者たちの証言、院長の怪しい行動、そして診療所に隠された秘密。葉羽は持ち前の推理力で謎に挑むが、見えない敵は彼の想像を遥かに超える狡猾さで迫ってくる。ピエロの正体は何なのか? 診療所で何が行われているのか? そして、葉羽は愛する彩由美を守り抜き、この悪夢を終わらせることができるのか? 深層心理に潜む恐怖を暴き出す、戦慄の本格推理ホラー。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
陽キャを滅する 〜ロックの歌声編〜
花野りら
ミステリー
ロボット・AIを駆使するスマートスクール陰陽館高校に、
死神タナトスから脅迫状が届いた。
『天宮凛が自殺したのはお前たちのせいだ』
私立探偵・玉木ヨシカは、JKになって調査をはじめるなか、
神楽六輔が薬物入りのお茶を飲んで倒れ、教室はパニックに!
ヨシカは、犯人を捕まえることができるのか!?
SNS、盗撮などで人の弱みを握るタナトスの目的は? 正体は?
次世代のネット社会にひそむ、ミステリ&サスペンス。
登場人物 紹介
玉木ヨシカ(たまちゃん)・・・探偵(20)
温水幸太(ぬこくん)・・・・・サッカー部エース(17)
大村隆平(りゅ先生)・・・・・担任教師(26)
神楽六輔(ロック)・・・・・・バンドヴォーカル(16)
月乃城王子(王子)・・・・・・ハーフ美少年(16)
内藤翔也(ナイト)・・・・・・剣道部(16)
桜庭二胡(バニー)・・・・・・人気動画配信者(16)
西園寺絵理(エリザベス)・・・お嬢様(16)
別奈ゆり(ゆりりん)・・・・・ゆるふわロリ(16)
菖蒲美玲(委員長)・・・・・・学級委員長(16)
日向小春(こはる)・・・・・・陰キャ(16)
神楽誠(校長)・・・・・・・・陰陽館高校創始者(57)
白峯梨沙(リサ)・・・・・・・スクールカウンセラー(26)
天宮凛・・・・・・・・・・・・退学した女子生徒(16)
タナトス・・・・・・・・・・・陽キャを滅する存在(?)
ヘルメス・・・・・・・・・・・暗躍する存在(?)
アイ・・・・・・・・・・・・・人工知能(?)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる