この指灯せ

コトハナリユキ

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メシアの誕生

退屈なライオン

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 ある日の休み時間、本を読んでいると教室のうしろの方から侠山たちの話し声が聞こえて来た。

「もう1年は、シメたと言っていいよな…。」
「スタートダッシュがやっぱすごかったんよのぉ。侠山のおかげ。へへへ。」
「あの初日のタコ殴りはやばかったよなー!」

 どうやら彼らは川出の事件で勢いをつけ、半月と経たないうちに1年生の全クラスの目立つ不良らを潰して来たようだった。
 僕には関係のない世界だ。この高校に来る前は中学の苦しみが続くと思い、不安だけがあった。でも、来てみると恐怖の対象だった川出はすぐに離脱し、他の不良たちも自分たちのことで精一杯。権力争いや武力抗争とは無縁の世界に生きている僕としては、平和そのものだった。
 中学の頃は、すでに不良たちのリーダーとなっていた川出が、暇つぶしで僕をいたぶっていた。彼は学校生活に退屈していた。だからいじめる対象が必要で、それがたまたま僕だった。きっと彼からすれば、その程度の話なんだろう。
 僕はこのまま3年間が過ぎると思っていた。周りの喧騒をよそに静かに本を読んでいれば学生生活を終えられると思っていた。
 "退屈な時間がある"という状況は"狂気"を生み出す最高のシチュエーションだったことを僕は知っていた。だが、川出が離脱した安堵感からか、そんなことを考えることもなかった。

「なぁ…高柳くんって言ったっけ?」
「…え。」

 読んでいた本は藤宮に取り上げられ、佐川は睨みを利かし、侠山は僕の前の席に座り、こちらをにこやかに見ていた。

「ちょっと顔貸せよ。今日からお前は、俺らのオ・モ・チャ…。」

 そう、彼らはこの三木堂高校1年生のボスとなり、すでに退屈を感じはじめていたんだ。そして僕はまた理由なき暴力と虐待を受けることとなった。
 川出が僕に中学で行ったことなどとは、比じゃなかった。力もはるかに強く、やることも想像できないものばかりだった。
 場所は関係なく毎日暴力を振るわれた。顔は1撃入れた後は治るまで殴ることはなかった。首から下はあざだらけだった。藤宮の1撃は重たく奥歯がどんどんなくなっていった。

「お前、殴られ慣れとるのぅ。…まぁそんな気はしてた。ははは。」

 そんな風に藤宮は笑っていた。

「格闘技の練習台になれ」

 と佐川の技を受けて何度も気を失った。

「軽すぎて練習にならねえなぁ」

 と逆ギレされたりもした。
 この2人は基本、ただの暴力だった。痛いし、嫌だが、これは中学で慣れてしまった部分でもあった。ただ、僕がひどく耐えられなかったのは、侠山の精神的で異常な身体的な暴力だった。

「じゃー服、脱いで。」
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