この指灯せ

コトハナリユキ

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信じたくない

蒔いた種

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 翌朝、珍客がやってきた。

「やぁ。」
「お前かよ。」

 つい昨日の礼を言う前に毒づいちまった。昨日俺のことを助けた紅原がやってきた。俺の周りの連中は1人として見舞いに来ないなか…だ。
 こいつがいつも俺たちのことを観察していたのには気づいていた。なにしに来やがった?

「最初の見舞人がお前かぁ。俺のツレはまだ誰も来てくれてねぇよ。」
「誰も君がこの病院に入院してるなんて知らないんじゃないの?…まぁ悪かったね、一番手が僕で。純粋に大丈夫かなって思ってね。」

 …嘘だな。

「ふん、嘘つけよ。…で、なんだよ。」

 人の嘘には昔から敏感なんだ。俺の周りの人間も俺の意見に従うが、それが本心かそうじゃないかなんて分かってた。

「はは、バレたかぁ…。」

 気にもしていないという風で紅原は続ける。どうやら昨日俺が刺された時に、中島がどんな感じだったのかを聞きたいらしい。

「…。」

 俺はあの時、最初に体当たりされた瞬間は驚きもしたが、怒りも感じていた。「こんな奴が俺に歯向かうだと?」そんな気持ちが心の中を占めていた。しかし刺されたんだと分かった途端に恐怖が押し寄せてきた。

"殺されるのか俺は…?ずっと、いじめをしてきたから…?そんな…。"

 ふと気づくとベッドの上で、手が震えてる。グッと押さえつけて紅原に昨日のことを話した。
 話し終えるまで手の震えが止まらなかった。…みっともねぇ。
 さらに紅原はもうひとつ聞きたいことがあると言う。
 近くの学校で長髪でモヒカンの生徒が居るかだと…?佐川くんしかいねーだろ。

「三木堂高校に佐川って人がいるけど。」

 俺は紅原からの質問の真意がわからなかった。だから"知っているだけ"という風を装った。

「佐川…くん、そう、ありがとう。それじゃ僕はこれで」
「待てよ。」

 そそくさと帰ろうとする紅原を呼び止めた。

 「なんでお前がその人のこと、知りたいんだ?」
「いや別に…ちょっと前に見かけてさ、髪型がすごいかっこ良くて…あの、僕もやりたいなーって、思って。」

 また嘘か。ロングのモヒカンがお前に似合う訳ねーだろ。なんなんだ…?

「いやぁまさか知ってるとは思わなかったなぁ…じゃあ僕はこれで。」
「おい待てや!」

 さらに紅原を呼び止めた。

「なに…?」
「あの時は助かった。お前が居なかったら俺は中島に殺されてたかもしれねぇ。」

 俺はこれだけは言っておきたかった。
 すでに背を向けていた紅原は、振り向いて表情も変えずにこう言った。

「そうかもしれないね。でも、自分で蒔いた種でしょ。」
「……それも、そーだな。」

 紅原の顔を見れなかった。

「お大事に。」

 奴は俺の病室を静かに出て行った。
 手の震えはとっくにおさまっていたが、今まで感じたことのない嫌悪感を感じた。

 誰に対しての…?
 俺のことを刺した中島に対しての…?
 そんなことを俺に対して言い放った紅原に対しての?

 …いや、俺自身にだ。

 本当はどこかで分かってたのかもしれない。俺は自分で蒔いた種に水をやった。そしてそれが発芽し開花した結果が、これだった。
 俺は抱えた孤独はあの種じゃどうにもならないこと位は、分かってたはずだった…。
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