この指灯せ

コトハナリユキ

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信じたくない

あの日

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 2日や3日、兄貴が帰ってこないことはよくあることだった。でも、俺はイラついていた。
 クラスには何人か、俺のおもちゃがある。そいつらは居なくなるまで、ぶっ壊れるまで、好きにしていいもので、そうしていることで、俺の周りにはいつも人がいた。…それでよかった。

 いつからこうなったんだろう…。

 でも、もう中学に入ってこれをはじめてしまった。もうやめることはできない。
 田中は1週間と経たずにクラスから姿を消した。別にいいじゃねぇか、お前は家に帰れば待ってる人が居るんだろ?
 中島は金持ちな家の息子だった。どれだけでも金を引っ張れた。気に入らなかった。別にいいじゃねぇか、お前は家に帰れば一緒に飯食う家族が居るんだろ?
 いいじゃねぇか。別にここに来なくたってよ…。

『ドン!』

 あの日。俺は気づいたら、中島に体当たりされていた。血がけっこう出てて、それで刺されたことに気がついた。
 あーこのままもう一度中島に来られたら俺、死ぬかもしれねぇ。…あれ、誰も助けに来てくれねぇ。おかしいなぁ何人かで中島を囲んでたはずなんだけどなぁ。

 …別にいいじゃねぇか。俺なんて、そんなもんだろ。

「死んだの?侠山くん。」

 誰だ…?俺が顔をあげると教室の隅から、俺たちをいつも観察してた紅原が立っていた。なんでこいつが、俺を助けるんだ…?
 それからはあまり覚えてない。俺は気づいたら病院だった。

「…生きてた。」

 頭の中でさっき起こったできごとがぐるぐると回った。そうだ…俺は中島に刺されて、紅原が間に入ってきて…。

「というか、なんで紅原が…?」

 ぜんぜん分からなかった。
 とりあえずここから出ようと思って病室を出たら、看護師に見つかってベッドに戻された。続いて医者も病室に入ってきて、体の状態を説明された。
 血もかなり出てはいたものの、臓器が傷つくほど深く刺さっていなくて1ヶ月とかからず退院できると言われた。

「深く…ない?」

 疑問だった。あんなに殺意を感じたのに、どうして深く刺さってないんだ…?あんな恐怖は初めてだった。紅原の前じゃ強がってみたが、あの時の中島の顔を思い出すのもしんどい。…手が震える。
 加えて看護師が状況を伝えてきた。親父はケータイが繋がらないし、兄貴もケータイはコールするものの繋がらないと、困った顔をしていた。親父が連絡つかないのはいつものことだけど、兄貴はいつもスマホを持っていた。なんでだ?なんで繋がらない…?

 病室を出ていく前に医者が言った。

「落ち着いたら警察から話を聞かれると思うが、無理をしないようにね。」
「…。」

 警察だと?冗談じゃねぇ。俺がなんで警察と話なんかしなくちゃなんねんだよ。

「よし…逃げよう。」

 おそらく警察も術後から少しは空けるだろう。2日目の夕方に出よう。
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