この指灯せ

コトハナリユキ

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追いかける先に

事情

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「今のところどうなの?目星はついていたりするの…?」
「…。」

 神無咲の質問に俺は首を横に振った。なんの手がかりも掴めていない状況だ。

「なんの前触れもなく居なくなり、後日に自宅へと指が届く、そしてまた少ししてから変死体が見つかる。それが繰り返されてる…ひでぇ状況だ。」
「そうなのね…。あ、そういえばそっちにも妙な薬の話は流れて来てる?」
「あぁ少しなら聞いてる。ただ、詳しくは知らねぇ。そっちで追ってたりもすんのか?」
「えぇ。もしかしたら中学生の事件の方に絡んでるかもって話よ。」
「いじめへの反逆で、主犯が刺されてるってやつか。」
「そう。まぁ私からすれば刺された側なんて、自業自得じゃないのって思っちゃうけど。」

 腕を組みながら俯き気味に神無咲は言った。

「まぁな。だが、死人が出ている以上、簡単には片付けれる訳でもねぇ。薬のこと…なんか教えてくれよ。」
「うーん。"勇気が出る薬"ってキャッチコピーで釜山中学や川鍋中学近辺でばら撒かれているらしいの。」
「勇気か…。ふん、舐めやがって。」

 俺は空になったカップを握りつぶし、ゴミ箱へ放り込んだ。

「ま、お互いになんかいい情報あったら共有していきましょ。じゃね。」
「おぉ、おつかれさん。」

 ヒールの音を響かせて神無咲は休憩所を出ていった。俺はそれをじーっと眺めていた。…た、他意はねぇぞ。

「…そうか。わかった、ありがとう。」

 うしろでは犬窯田が電話を切ったところだった。

「どうした?」
「はい、少年課の同期からです。傷害事件です。」
「そうか、場所は?」
「場所は釜山中学。」
「また反逆か?…ひとまず行くか。」
「はい。」

 俺たちは刑事課の人間だが、今回のような特殊な事件な為、少年課と繋がっておいた方が情報が早い。だから少年課の管轄で事件があれば犬窯田に連絡を入れてもらっている。
 俺たちが現場へ一番乗りで到着すると、既に被害者と加害者は別々の病院へ搬送されたあとだった。しかし、どっちも搬送されてるってのは、どういうことだ?
 俺は現場の目撃者である紅原という生徒に話を聞くことができた。相手は中学生ということもあって、できるだけ丁寧に親切に話した。…つもりだ。
 事件は日常からいじめを行っていた侠山という生徒が、いじめられていた中島という生徒に刺されたというものだった。先日、川鍋中学であった事件とほとんど同じものだった。刺された本人が死ななかったことは不幸中の幸いだ。

「やぁ、私は月見署の雉子本だ。君が事件を一番近くで目撃した紅原くんだね。」
「…はい。」

 紅原という生徒はやけに落ち着いていて子供っぽくない…そんな印象だった。そして俺のことを見るなりすぐに目を逸らした。なんだこの態度は…。

「雉子本さんの笑顔が嘘くさいからっすよ。」
「んー?…なんか言ったかな犬窯田くん…。」
「…いえ。」

 犬窯田をひと睨みして俺は紅原と向き直った。

「さて、じゃあ聞きたいんだが、君が見た事件の状況を教えてほしいんだ。」
「僕が見たのは途中からです。中島くんが侠山くんに襲いかかって、トイレを出た廊下の窓を割ったところからです。」
「そういうことか。…じゃあトイレに中島くんが連れ込まれるのを見てはいないんだね。」
「はい。でもきっと、カツアゲかなんかする為に、侠山くんたちが中島くんを連れ込んだのは間違いないと思います。」
「…ん?間違いないというのは…?」

 少し俯いて紅原は答える。
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