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声なき声を
被害者と傍観者 中島くんの話3/4
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「おい中島ぁ、ちょっと来いよぉ。」
僕が侠山くんたちの標的になって少し経った頃、僕は「もう学校には行きたくない」と思いながら日々を過ごしていた。親にも話せずに、親しい友達も居なくて、これからどうすればいいか考えていた。
『いじめ 対処』と調べれば、色んな解決策はウェブ上にあった。それでも僕は、どの選択肢も選べないまま毎日のように彼らから暴力を受けていた。「彼らが飽きるまで待つんだ。」そんなことを諦めたように考えていた。それでも少しずつ状況は悪くなる一方だった。
ある日の下校中。殴られて切った口の中が痛い。少し腫れた頬のことを母親にどう説明しようか考えていた。すると、急に知らない男の人から声をかけられた。
「なぁ君!ずっと俯いて歩いてるなぁ。」
「…え。」
僕は立ち止まって表情を変えないまま、その声がした方を見た。そこには大学生っぽい男の人が居て、バイクに跨って両肘をハンドルにかけている。一番目を引いたのは緑色の髪だった。
「なんですか。」
僕はこの日、初めて人と会話をした気がした。
「もしかして、いじめられてんのか?」
そう言うとその人はバイクから降り、僕に近づいてきた。
「…あなたには関係ないじゃないですか。」
「いいもんやるよ。」
僕の言葉は無視して、その人は手のひらを差し出してきた。その手には▼のマークが刻印された錠剤が2粒あった。危ないものだと感じた。
「だ、大丈夫です。知らない人からそういうのは…!」
「勇気が出る薬」
僕の発言はその言葉に遮られた。
「…勇気?」
余計に怪しい…。絶対にやばい薬だ。そう僕は思った。
「あぁ、そうだ。今君に足りないのは、勇気だ。」
「…。」
「これをピンチの時に使えば、必ずそのピンチを打開してくれる。」
「ど、どんな風に…?」
「それは君次第だよ。これはタダであげる。」
「え、本当に…?」
「あぁ、俺は君みたいな子達の味方だからな。」
そう言い残すと颯爽とバイクで走り去ってしまった。僕の手にはその謎の薬が残った。
「勇気…かぁ…。」
僕は"お守り"としてその薬を持ち歩くことにした。日に日にエスカレートする暴力に対して、命の危険を感じた時の為に、護身用に果物ナイフも隠し持った。
そしてあの日がやってきた。
いつもよりたくさん身体を殴打されて、僕は膝から崩れてしまい、土下座しているような姿勢になった。その時に聞こえた言葉は信じがたかった。
「おい、このままこいつの頭にジャンプして乗っかったら、どーなるかな?」
死ぬかもしれない…そう思った。その時、数日前のことが頭をよぎった。
「勇気の出る薬」
「ピンチを打開してくれる」
気づけば僕はあの薬を咄嗟に飲み込んでいた。飲み込んで数秒。身体が熱くなって、意識が朦朧とし始めた。でも、その後のことは覚えていないんだ。ただ、ぼんやりとだけど、侠山くんを襲っている感覚だけがあって、必死にその湧き上がった衝動を止めようと「僕じゃない!僕じゃない」って叫んでいる僕が、どこかに居た。そんな記憶は、頭の片隅にあった。
そして気づくと、僕はこの病院にいた。
僕が侠山くんたちの標的になって少し経った頃、僕は「もう学校には行きたくない」と思いながら日々を過ごしていた。親にも話せずに、親しい友達も居なくて、これからどうすればいいか考えていた。
『いじめ 対処』と調べれば、色んな解決策はウェブ上にあった。それでも僕は、どの選択肢も選べないまま毎日のように彼らから暴力を受けていた。「彼らが飽きるまで待つんだ。」そんなことを諦めたように考えていた。それでも少しずつ状況は悪くなる一方だった。
ある日の下校中。殴られて切った口の中が痛い。少し腫れた頬のことを母親にどう説明しようか考えていた。すると、急に知らない男の人から声をかけられた。
「なぁ君!ずっと俯いて歩いてるなぁ。」
「…え。」
僕は立ち止まって表情を変えないまま、その声がした方を見た。そこには大学生っぽい男の人が居て、バイクに跨って両肘をハンドルにかけている。一番目を引いたのは緑色の髪だった。
「なんですか。」
僕はこの日、初めて人と会話をした気がした。
「もしかして、いじめられてんのか?」
そう言うとその人はバイクから降り、僕に近づいてきた。
「…あなたには関係ないじゃないですか。」
「いいもんやるよ。」
僕の言葉は無視して、その人は手のひらを差し出してきた。その手には▼のマークが刻印された錠剤が2粒あった。危ないものだと感じた。
「だ、大丈夫です。知らない人からそういうのは…!」
「勇気が出る薬」
僕の発言はその言葉に遮られた。
「…勇気?」
余計に怪しい…。絶対にやばい薬だ。そう僕は思った。
「あぁ、そうだ。今君に足りないのは、勇気だ。」
「…。」
「これをピンチの時に使えば、必ずそのピンチを打開してくれる。」
「ど、どんな風に…?」
「それは君次第だよ。これはタダであげる。」
「え、本当に…?」
「あぁ、俺は君みたいな子達の味方だからな。」
そう言い残すと颯爽とバイクで走り去ってしまった。僕の手にはその謎の薬が残った。
「勇気…かぁ…。」
僕は"お守り"としてその薬を持ち歩くことにした。日に日にエスカレートする暴力に対して、命の危険を感じた時の為に、護身用に果物ナイフも隠し持った。
そしてあの日がやってきた。
いつもよりたくさん身体を殴打されて、僕は膝から崩れてしまい、土下座しているような姿勢になった。その時に聞こえた言葉は信じがたかった。
「おい、このままこいつの頭にジャンプして乗っかったら、どーなるかな?」
死ぬかもしれない…そう思った。その時、数日前のことが頭をよぎった。
「勇気の出る薬」
「ピンチを打開してくれる」
気づけば僕はあの薬を咄嗟に飲み込んでいた。飲み込んで数秒。身体が熱くなって、意識が朦朧とし始めた。でも、その後のことは覚えていないんだ。ただ、ぼんやりとだけど、侠山くんを襲っている感覚だけがあって、必死にその湧き上がった衝動を止めようと「僕じゃない!僕じゃない」って叫んでいる僕が、どこかに居た。そんな記憶は、頭の片隅にあった。
そして気づくと、僕はこの病院にいた。
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