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俺が殺した
後輩の指
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あの薬の話を聞いてからしばらく経った頃のことだった。
1本の電話で俺の平凡な日々は変わり始めた。
「は?消えた?…いやうちには来てねぇ。」
その電話は後輩の1人からだった。トシオと連絡が3日もとれないらしい。そんなこと今まで一度もなかった。俺もすぐにトシオに電話をかけたが、コールのみで出ることはなかった。
「うーん…。」
家出・事件に巻き込まれた・女・いろいろと可能性を考えたが、喧嘩ばかりしてるトシオからは喧嘩しか想像ができなかった。
俺は実家を出て一人暮らしをしていて、少し地元からは離れていた。仕方ないから、弟の悟里にもこのことを伝えて町中を探してもらった。
「だめだよ兄貴…トシオくん、どこにも居ない。」
電話の向こうの弟の声は、かなり疲れた様子だった。
「…そうか。悪かったな。」
「いや、それはいいんだけど…数十人で探し回って、このちっさい街のどこにも居ないし、誰も何も知らないなんて、おかしいって。」
「そうだな。なんなんだ一体。」
「分からない。…あ、そういえば今、変な薬が出回ってるって話は聞いたよ。」
「変な…?」
「うん、詳しくは分かんないんだけど、住宅街とかで売ってたりするらしいよ…。」
「なんだそりゃ。なんで住宅街なんだよ。」
「さぁ…?」
俺は電話を切って、前に聞いた薬の話を思い出したが、関係があるとは思えなかった。
その翌日。また後輩から電話が入った。
「指…?指が、トシオの家に届いたのか?」
居なくなったトシオの家に"指がランプに入れられて届いた"という。トシオのものかどうかは、分からなかったらしい。
悪戯にしては手が込みすぎてるし…それ以前に、人の指が届くってイカれてるだろう。話がぶっ飛びすぎていて、どうしたらいいか分からなくなったが、なぜか悟里が言っていた"変な薬"のことを思い出した。
「…調べてみるか。」
俺は夜になるのを待ち、クラブBEASTへ向かった。前にそこで売人の1人から"陰キャラにしか効かない薬"の話を聞いていたからだ。
悟里と売人が言っている薬は同じかは分からないが、トシオの失踪と同じ時期に出てきた話だ。繋がる可能性はゼロじゃない。
相変わらずタバコと香水の匂いがきつい場所だ。おれはひとまずカウンターへ向かった。
「よーう久しぶりぃー。」
「おすー。」
俺は運良くあの薬の話をしてくれた売人を見つけた。世間話もそこそこに俺は本題に入った。
「そー言えばさ、前に聞かせてくれた"陰キャラにしか効かない薬"って、まだあるのかよ?」
「あぁーあれか。ぜんぜん売れねぇから困ってんだよ。ふつーに住宅街で売ってる奴らも居るらしーがよー…。」
イラついた表情で売人はタバコに火をつけた。
住宅街…どうやら当たりらしい。
「そうなのかぁ。まぁお前はクラブでしか捌かねぇもんなぁ。」
「あぁ…しかし、なんでだよ。お前にだってありゃ効かねーぞ。」
「…まぁいいじゃねーか。あれ俺に売ってくれよ。」
怪訝そうな表情で売人は煙を吐き出した。
「…は?使えねぇのにどーすんだよ。」
「ほんとにおれに効かねーか試してみてぇんだよぉ。」
「だめだ。お前、どーせ転売するつもりだろ。俺は直で仕入れてんだよ。変なとこで捌かれたら俺が困る。」
確かに元締めとは揉めたくはねぇ…。話してる感じからして雲行きは怪しいし、話を変えてトイレに連れ込もう。
「いやいや!そんなんじゃねぇよ。…わかったよ!じゃーたまに買ってるやつ…アレくれよ。」
「…わかった。じゃあ一旦。」
売人はトイレへと視線で俺を促した。
トイレではとりあえず、たまーにやってる薬を少し買ってやった。
「なぁなぁ、ちなみにあの変な薬ってなんて名前なんだよ?」
「お前なんなんだよ…ったく、ありゃ"CRY"ってんだよ。▼マークが錠剤に刻印されてる。」
「へぇーそりゃ分かりやすいじゃねぇか。」
「…え?」
俺は売人をボコボコにして"CRY"を盗み、クラブから逃げた。
1本の電話で俺の平凡な日々は変わり始めた。
「は?消えた?…いやうちには来てねぇ。」
その電話は後輩の1人からだった。トシオと連絡が3日もとれないらしい。そんなこと今まで一度もなかった。俺もすぐにトシオに電話をかけたが、コールのみで出ることはなかった。
「うーん…。」
家出・事件に巻き込まれた・女・いろいろと可能性を考えたが、喧嘩ばかりしてるトシオからは喧嘩しか想像ができなかった。
俺は実家を出て一人暮らしをしていて、少し地元からは離れていた。仕方ないから、弟の悟里にもこのことを伝えて町中を探してもらった。
「だめだよ兄貴…トシオくん、どこにも居ない。」
電話の向こうの弟の声は、かなり疲れた様子だった。
「…そうか。悪かったな。」
「いや、それはいいんだけど…数十人で探し回って、このちっさい街のどこにも居ないし、誰も何も知らないなんて、おかしいって。」
「そうだな。なんなんだ一体。」
「分からない。…あ、そういえば今、変な薬が出回ってるって話は聞いたよ。」
「変な…?」
「うん、詳しくは分かんないんだけど、住宅街とかで売ってたりするらしいよ…。」
「なんだそりゃ。なんで住宅街なんだよ。」
「さぁ…?」
俺は電話を切って、前に聞いた薬の話を思い出したが、関係があるとは思えなかった。
その翌日。また後輩から電話が入った。
「指…?指が、トシオの家に届いたのか?」
居なくなったトシオの家に"指がランプに入れられて届いた"という。トシオのものかどうかは、分からなかったらしい。
悪戯にしては手が込みすぎてるし…それ以前に、人の指が届くってイカれてるだろう。話がぶっ飛びすぎていて、どうしたらいいか分からなくなったが、なぜか悟里が言っていた"変な薬"のことを思い出した。
「…調べてみるか。」
俺は夜になるのを待ち、クラブBEASTへ向かった。前にそこで売人の1人から"陰キャラにしか効かない薬"の話を聞いていたからだ。
悟里と売人が言っている薬は同じかは分からないが、トシオの失踪と同じ時期に出てきた話だ。繋がる可能性はゼロじゃない。
相変わらずタバコと香水の匂いがきつい場所だ。おれはひとまずカウンターへ向かった。
「よーう久しぶりぃー。」
「おすー。」
俺は運良くあの薬の話をしてくれた売人を見つけた。世間話もそこそこに俺は本題に入った。
「そー言えばさ、前に聞かせてくれた"陰キャラにしか効かない薬"って、まだあるのかよ?」
「あぁーあれか。ぜんぜん売れねぇから困ってんだよ。ふつーに住宅街で売ってる奴らも居るらしーがよー…。」
イラついた表情で売人はタバコに火をつけた。
住宅街…どうやら当たりらしい。
「そうなのかぁ。まぁお前はクラブでしか捌かねぇもんなぁ。」
「あぁ…しかし、なんでだよ。お前にだってありゃ効かねーぞ。」
「…まぁいいじゃねーか。あれ俺に売ってくれよ。」
怪訝そうな表情で売人は煙を吐き出した。
「…は?使えねぇのにどーすんだよ。」
「ほんとにおれに効かねーか試してみてぇんだよぉ。」
「だめだ。お前、どーせ転売するつもりだろ。俺は直で仕入れてんだよ。変なとこで捌かれたら俺が困る。」
確かに元締めとは揉めたくはねぇ…。話してる感じからして雲行きは怪しいし、話を変えてトイレに連れ込もう。
「いやいや!そんなんじゃねぇよ。…わかったよ!じゃーたまに買ってるやつ…アレくれよ。」
「…わかった。じゃあ一旦。」
売人はトイレへと視線で俺を促した。
トイレではとりあえず、たまーにやってる薬を少し買ってやった。
「なぁなぁ、ちなみにあの変な薬ってなんて名前なんだよ?」
「お前なんなんだよ…ったく、ありゃ"CRY"ってんだよ。▼マークが錠剤に刻印されてる。」
「へぇーそりゃ分かりやすいじゃねぇか。」
「…え?」
俺は売人をボコボコにして"CRY"を盗み、クラブから逃げた。
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