この指灯せ

コトハナリユキ

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音が聞こえた

逃げ足

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 でかい声で話してくれるからか、クリアに会話が漏れてくる

「クラブじゃなかなか最近は売れねぇんだよ。やべぇよ。」
「クラブ自体もけっこうふつーの奴も遊びに来るようになってきたからなぁ~みんな薬なんかやらねぇんだよな。」
「ってか、新しいクスリなんかよぉ。"効かねぇ効かねぇ"ってクレームだらけだぜ。」

 新しい薬…。もしかして例の"CRY"のことか…?

「あれお前クラブに居るやつなんかに売っても効かねぇよ!」
「は?なんでだよ。」
「お前よぉ、仕入れる時にちゃんと話聞けよな。"CRY"は誰にでも効くもんじゃねんだよ。あれは"心の弱さに効く薬"だぞ。」
「はぁぁ?なんだそれ。▼マークがついてる位しか知らねぇ。」
「俺も詳しくはわかんねーけど、とにかく単純に言えば陰キャほど効くんだよ。だからクラブのパリピなんかには効かねんだよ。」
「じゃお前、どこで売ってるわけ?」
「おれは"CRY"だけは住宅街とかで気弱そうなやつに売りつけてるよ。」
「はぁーん、なるほどな。…キマるとどーなんだよ?かなり飛ぶのか?」
「や、どんな効果かまでは俺も知らねぇけどさ、…あ、でも最近、それ売ってた奴が死んだって話は聞いた。」
「え、買った奴が、じゃなくて?」
「そう。しかも頭が爆発してたらしーぜ?」
「…いや、ガセだろさすがに。」
「そうなんかなぁ。」

"おい、もう充分だろ。"と谷崎が僕の肩を叩く。"確かに。"と僕も頷く。

『ガチャ…。』
「!!」
「…あ?おい、ガキが紛れてんぞ。」

 あ、やばい2人とも出てきた…!僕たちが慌てて身を隠そうとしていると後ろの方から声が聞こえた。

「おぉー!おつかれぃー!」
「え?あ!…お前、ミロク…!!。」

 緑の髪色をした陽気な男が"帽子"と"歯抜け"の2人に声をかけてきた。僕らはその隙をついた。

「行こう!」
「おぉ…!」

 過去一番の逃げ足でクラブを出て行った。

「はー…!はーっ!」
「ぜぇー、ぜぇー…。げほ、げほっ!」

 普段走ることなんて滅多とないし、クラブも怖かったし、心臓が破裂しそうだった。全力で最初に集合した駅まで走り抜けた。無事に戻ってこれて良かった。
 各々自販機で飲み物を買って一息。

「ミロクって、人…?たまたま居てくれて、助かったな。」
「…うんー。」
「ぜんっぜん顔見れなかったけどな。」
「…んー、そうだね。」

 いや、何か違う気がする。走り出す寸前に僕はあのミロクって男と目があった。あれは、たまたま売人たちに声をかけた仲間なんかじゃない。僕たちを逃がしてくれたんだ。…理由は、わからないけど、仲間同士が偶然会ったような雰囲気とは少し違った気がする。

「けどなんか、ミロクって名前はさ、おれ知ってる気がすんだよなー…!」

 両手で顔を覆いながら谷崎が言う。すでに飲み干した缶コーラが転がっていた。

「~~…やっぱダメだ。出てこねー!」
「あははは。」

 なんとか記憶を辿ろうとしたらしいけど、なにも思い出せなかったらしい。僕はなんだか久しぶりに笑った気がした。

 クラブへ潜入してみて分かったことをまとめよう。

・僕が拾った薬は"CRY"で間違いない。証拠は刻印された▼マーク。
・"CRY"は普通の薬とは違い、心の弱さに効く薬(だから品川先輩には効果がなかった。)
・陰キャラに効く為、陽キャラが集まるようなクラブなどではなく、住宅街などで売られている
・効能は不明
・"CRY"を扱った売人が死んでいる。

 僕も缶コーヒーを飲み干した。

「なんかさ、ずっと気になってるのがね…。」
「なんだよ?」
「侠山くんに反旗を翻した中島くんに、すごい違和感を感じたんだ。」
「違和感か…どんな?」
「うんー…。」

 僕は「あの時」のことを思い出した。

「そうだ。…あの華奢な中島くんの体が、やけに大きく感じた。」
「なんだよそれ。」
















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