この指灯せ

コトハナリユキ

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音が聞こえた

潜入

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 夜9時。クラブBEASTの最寄駅に到着して、谷崎と合流。
 侠山くんが復活してきた話をしたら「早っ。」って驚いていた。
 BEASTでは通常のイベントが行われていて、悪そうな人たちがすでにクラブの周りに沢山いた。酔っ払って地べたに座ってベタベタしている男女。喧嘩しそうな位にイキり立ってる男たち。声かけられるのを待ってる女たち。治安が悪いという状態を絵に描いたような無放地帯だった。
 僕らはクラブの前を一度横切って、近くのコンビニに入った。雑誌コーナーに横並びしてひと息つく谷崎。

「空也…あのさ、来てみて思ったわ。」
「なに?」
「おれらIDもないし、ガキすぎる。」
「…というと?」
「子供はこの時間絶対入れてくんない、セキュリティも硬ぇし…やっぱ入れねぇよ。」
「えー、いまさら…。」

 だが確かに難しそうだ。とはいえ、このまま収穫ナシでは帰れない。

「ねぇ谷崎、一回、行くだけ行ってみようよ。」
「きっと、つまみ出されるだけだぜ?」
「けどさ、なんか起きるかもよ?」
「…。空也って見た目より強気だよな。」
「そうかな。」

 勢いのなくなった谷崎を連れて、クラブの扉の前までとりあえず行ってみた。セキュリティの男性と目が合って、僕はとっさににこやかに会釈してみた。

「お子様は入れないよ。」
「「…。」」

 セキュリティは冷たく僕らに言い放った。やっぱりダメなのか。

「やっぱダメじゃんかよ。」
「んー…。」

 僕が考えているとすぐ近くで、さっき見かけたイキリ立った男たちが喧嘩を始める寸前であることに気づいた。2人が爆発寸前なのを互いの友達が「まぁまぁ…」と抑えようとしていた。

「なるほど…。」
「え?」

 ひらめいたぞ。
 この暗がりの中、僕のこの低身長を生かし、揉めている男2人に気づかれないように近づいていく。

「ちょ、空也…?」

 谷崎は足を止め、僕を目で追っているようだった。
 爆発寸前の男をうしろから止めている友達の背後に来て、両手で『どん』と押してみた。その勢いで片方の顔面に手が当たって、喧嘩が勃発!

「空也、なにしてんだよ!」
「あぁ!喧嘩だ、喧嘩ぁー!」

 僕はセキュリティに聞こえるように囃し立てた。

「おい!なにしてんだ!やめろ!」

 やはりクラブの目の前で喧嘩が起きたら、セキュリティは止めざるを得ない。喧嘩の仲裁にセキュリティが入っていき扉はガラ空きになった。

「今だよ谷崎、中へ行こう!」
「マジかよ。」

 僕らはクラブに潜入した。捕まったら最悪は警察に突き出されるかもしれないけど、まぁその時はその時だ。
 ひとまず、目立たないようにフロアの端っこへ行って、入場という難関の攻略を互いに讃えて、小さくガッツポーズ。

「やった!」
「お前やべぇよ…!入れたよ。しかも金も払ってない。」
「多分ここ、実はゆるいクラブなんじゃないかな?ドア入ったらもう一度チェックがあると思ってたけど無かったしね。」
「あー、そーなのかもなぁ。」

 とはいえ監視カメラはあるだろうし、あんまりウロウロして目立つのはよくない。できるだけ早く情報を掴んでとっとと出るんだ。

「どの辺りに居ればいいのかな?」
「だいたい見てればわかるんじゃねぇかな。目的が音楽やダンスでも、ナンパでも、暇潰しでもない奴は独特の雰囲気が出てる思う。」

 しばらくフロアを眺めているとバーカウンターのそばで、深くキャップを被った男が前歯のない長髪の男に声をかけて、2人でやらしくニヤついてトイレへと消えていくのが見えた。

「あの人たち。」
「…うん、そだな。いこうぜ。」

 僕らも彼らを追ってトイレの扉にぴたりと張り付いた。中からは話し声が漏れてきた。









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