この指灯せ

コトハナリユキ

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音が聞こえた

タブー

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「お前、ほんとにボクシングなんかやりてーのかよ?」

 察しのいいチンピラ部員だなぁと感心した。

「…もちろんです。先輩は…2年生ですか?」
「…あぁ、ってか、なんで藤宮さんのことなんか知りてぇんだよ。」
「え。」
「さっき部長に聞いてただろ。この部じゃ藤宮さんの話はタブーみてーなもんなんだよ。特に部長になんか一番聞いちゃいけねぇ。」
「…。」

 このチンピラ部員は色々と知ってそうだな。

「部ではそういう感じなんですか。僕のクラスでは藤宮さんって強い人がいるってたまに話題に出ますよ。」
「そーゆーことか、それで知りてぇって話か。まぁ藤宮さんの話できるのなんてこの部じゃ、俺くらいなもんだぜ。」
「えー…。タブーを犯せるなんて先輩かっこいいっす。(棒読み)」
「お、お前、なかなかわかってるじゃねーか。」

 顔がニヤついてる。…簡単だな、じゃあこの人に色々聞いてみよう。

「あのー先輩…藤宮さんのこと教えてもらえたら、めちゃくちゃキマるブツ渡しますよ。」
「ま、マジか…。売人やってるって話、ガチなのかよ。」
「…え?いらないんすか…?」
「し、仕方ねぇなぁ~。」

 先輩とは部活が終わったあとで、近くのコンビニで待ち合わせることにした。薬はこないだ拾ったやつを渡せばいいかな、と軽い気持ちだった。どんな効果があるか気になるしね。

「おう、待たせたな。」

 先輩は1人で現れた。集団でリンチされて薬だけとられるかも…とも思ったけど、それは心配なさそうだ。一緒にコンビニの裏へ回ると、先輩はタバコに火をつけた。

「藤宮さんって首にタトゥー入れてるらしいですね。」
「あぁ、チャンピオンて入ってたっけなぁ。イカすよなぁ。」
「…。」

 やっぱり、あの死体は藤宮さんで間違いない。もう少し聞いてみよう。

「藤宮さんがタブー扱いになってるのはなぜですか?」
「あぁ…その前にお前、ブツはちゃんとあんだろな?」
「もちろん。」

 僕はポケットからあの拾った薬をチラっと見せた。

「お!おぉ、すげぇ…。」
「あれ?先輩…まさか、初めてですか?」
「…な、な訳あるかよっ!」
「ですよね。はは…。」

 謎の背伸びをしたいようだが…まぁどっちでもいいんだけどね。
 煙を吐き出してから、先輩は話しを続けた。
 藤宮さんは佐川さんと同様に喧嘩っ早くて有名な不良で、校内はもちろん外でも喧嘩ばかりしていたらしく、ボクシングの才能はあったものの、その短気な性格が原因で部員を病院送りにしてしまった過去があった。当時も顧問をしていた稲田先生はその事件がバレるのを恐れて隠蔽し、部内では事件はタブーとされたらしい。なぜ部長に対しては特にタブーだったかというと、病院送りにされた部員は部長の親友だったかららしい。
 "そんなタブーを犯して喋る俺、かっこいいだろ。"って思ってるのがこの先輩なわけだ。

「今、藤宮さんはどこの高校に通ってるんですか?」

 分かってはいたものの、確認の為に聞いてみた。

「三木堂高校。…クズの巣窟だな。ここいらじゃ一番悪いガッコーだ。頭の悪い不良しかいねぇ。」
「僕もその高校は聞いたことあります。毎日のようにパトカーがくるような学校だって。」
「あぁ、そこの1年で目立ってる3人組の1人が藤宮さんだ。」
「ちなみに、他の2人の名前って…?」

 若干勿体ぶって話そうとする先輩だったが、少し離れたところから手を振る人影が見えた。

「おーい品川さぁん、何してんすかー?」
「?」

 陽気な声が聞こえたかと思うと、誰かが僕らの元へ駆け寄ってきた。



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