11 / 73
音が聞こえた
ボクシング部
しおりを挟む
職員室にやってくる生徒は珍しいようで、戸を開けると全ての先生方が僕を一瞥した。ボクシング部の顧問の稲田先生はいつものジャージ姿で、でっぷりとしたお腹を抱えてコーヒーを飲んでいた。
「すみません稲田先生、今いいですか?」
今まで話したこともない生徒に声をかけられ驚いた様子だったが、僕がボクシングの観戦に興味があると伝えると気さくに対応してくれた。一通りうちの中学のボクシング部について聞いた後、聞きたかったタトゥーを入れた先輩の話に入った。
「噂で聞いたんですけど、首にチャンピオンってタトゥーを入れた卒業生が居て、今度大きな試合に出るそうですね。」
稲田先生は顔を少し曇らせた。
「あぁ…藤宮のことか、あいつはボクサーとしてのセンスは凄かったからなぁ…。」
「何か、問題のある人だったんですか?」
「いや、何も…!少し、ヤンチャだっただけさ。その試合のことなら俺も聞いているよ。」
「過去に何かしたんですか?」
「…んーあ、そろそろ職員会議に行かないと、もしうちに興味があれば練習場へ見学へ行くといい、じゃ…。」
稲田先生はタトゥーを入れた先輩の話になった途端にそそくさと職員室を出て行った。それ以上付き纏っても応えてくれる雰囲気でもなかったので、僕も一旦引き下がった。
しょうがない…ボクシング部の練習場を覗いてみよう。
とりあえず、タトゥーを入れた先輩の名前は「藤宮」っていうのは分かった。彼がもう死んでるってことを僕だけが知っている。
体育館の横には武道場があり、部活の時間はそこをボクシング部と柔道部が練習で使っていた。行ってみると「なんだ一年坊、なんのようだコラぁ。」と、暇そうな先輩が絡んできた。
「入部希望で見学にきました。」
そう嘘ついてるのに「はぁ?はぁあ?」とか言われていると、別の部員が僕の噂を知ってたらしく、焦ったように部長を呼んでくれた。僕の入学時の作戦はここでも役に立ったみたいだ。
「部長の植田だ。よろしく。」
スパーリングを切り上げて部長さんがきてくれた。引き締まった体をしていて、他のチンピラ部員とは違うスポーツ選手っぽさを感じた。
「ちょっとボクシングに興味があって、稲田先生に聞いたら見学に行ってみろと言われました。」
「先生ももう知ってるのか、分かった。今日は普通の練習の日だ。好きなだけ見てってくれ。」
「ありがとうございます。…あのー、藤宮先輩って卒業生の人が今度、大きな試合に出るらしいですね。」
植田部長の表情も濁った。皆、藤宮さんの話になるとこんな表情になるのか?
「あ、藤宮さんのことを知ってるのか、誰から聞いたんだ?」
「誰からというか、そこら中で噂になってますよ。どんな人なのかなって興味もあって…。」
白々しく尋ねてみる。
「うーん、まぁセンスはすごくある人だったよ。だけど、すぐに暴力に訴えてしまうとこもあった。」
「いわゆる、不良ってことですか。」
「まぁね。この地区じゃ珍しくはないかな…。ま、好きに見ていくといい。」
植田部長は早歩きでスパーリングに戻っていった。
隅っこに座って練習風景を眺めていると、さっき絡んできた部員が隣に座ってきた。
「すみません稲田先生、今いいですか?」
今まで話したこともない生徒に声をかけられ驚いた様子だったが、僕がボクシングの観戦に興味があると伝えると気さくに対応してくれた。一通りうちの中学のボクシング部について聞いた後、聞きたかったタトゥーを入れた先輩の話に入った。
「噂で聞いたんですけど、首にチャンピオンってタトゥーを入れた卒業生が居て、今度大きな試合に出るそうですね。」
稲田先生は顔を少し曇らせた。
「あぁ…藤宮のことか、あいつはボクサーとしてのセンスは凄かったからなぁ…。」
「何か、問題のある人だったんですか?」
「いや、何も…!少し、ヤンチャだっただけさ。その試合のことなら俺も聞いているよ。」
「過去に何かしたんですか?」
「…んーあ、そろそろ職員会議に行かないと、もしうちに興味があれば練習場へ見学へ行くといい、じゃ…。」
稲田先生はタトゥーを入れた先輩の話になった途端にそそくさと職員室を出て行った。それ以上付き纏っても応えてくれる雰囲気でもなかったので、僕も一旦引き下がった。
しょうがない…ボクシング部の練習場を覗いてみよう。
とりあえず、タトゥーを入れた先輩の名前は「藤宮」っていうのは分かった。彼がもう死んでるってことを僕だけが知っている。
体育館の横には武道場があり、部活の時間はそこをボクシング部と柔道部が練習で使っていた。行ってみると「なんだ一年坊、なんのようだコラぁ。」と、暇そうな先輩が絡んできた。
「入部希望で見学にきました。」
そう嘘ついてるのに「はぁ?はぁあ?」とか言われていると、別の部員が僕の噂を知ってたらしく、焦ったように部長を呼んでくれた。僕の入学時の作戦はここでも役に立ったみたいだ。
「部長の植田だ。よろしく。」
スパーリングを切り上げて部長さんがきてくれた。引き締まった体をしていて、他のチンピラ部員とは違うスポーツ選手っぽさを感じた。
「ちょっとボクシングに興味があって、稲田先生に聞いたら見学に行ってみろと言われました。」
「先生ももう知ってるのか、分かった。今日は普通の練習の日だ。好きなだけ見てってくれ。」
「ありがとうございます。…あのー、藤宮先輩って卒業生の人が今度、大きな試合に出るらしいですね。」
植田部長の表情も濁った。皆、藤宮さんの話になるとこんな表情になるのか?
「あ、藤宮さんのことを知ってるのか、誰から聞いたんだ?」
「誰からというか、そこら中で噂になってますよ。どんな人なのかなって興味もあって…。」
白々しく尋ねてみる。
「うーん、まぁセンスはすごくある人だったよ。だけど、すぐに暴力に訴えてしまうとこもあった。」
「いわゆる、不良ってことですか。」
「まぁね。この地区じゃ珍しくはないかな…。ま、好きに見ていくといい。」
植田部長は早歩きでスパーリングに戻っていった。
隅っこに座って練習風景を眺めていると、さっき絡んできた部員が隣に座ってきた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
夜の動物園の異変 ~見えない来園者~
メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。
飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。
ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた——
「そこに、"何か"がいる……。」
科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。
これは幽霊なのか、それとも——?
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
剣客逓信 ―明治剣戟郵便録―
三條すずしろ
歴史・時代
【第9回歴史・時代小説大賞:痛快! エンタメ剣客賞受賞】
明治6年、警察より早くピストルを装備したのは郵便配達員だった――。
維新の動乱で届くことのなかった手紙や小包。そんな残された思いを配達する「御留郵便御用」の若者と老剣士が、時に不穏な明治の初めをひた走る。
密書や金品を狙う賊を退け大切なものを届ける特命郵便配達人、通称「剣客逓信(けんかくていしん)」。
武装する必要があるほど危険にさらされた初期の郵便時代、二人はやがてさらに大きな動乱に巻き込まれ――。
※エブリスタでも連載中
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる