天使の毒

香坂

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今日はついに、テスト。
さっきーはめちゃくちゃ無理していたそうです。
あ、大翔からの情報なのです。
五教科。今日木曜日一日目は国語と理科と英語。
国語と英語が私は得意なので頑張ります。
え?理科はどうしたって?……聞かないでください。
数学は計算が得意。理科と社会は本当に死んでます。はい。
けど英語と国語はずば抜けて私天才なんですよ!?
一年の時の最高点は英語が九十八点。国語が九十二点。

「さっきーどう?」
「分かんない。てか何で俺に聞く?」
「だってー……」

大翔が三組にいるという事はさっきーは親友と離れた。
なら、二組でさっきーと仲いい人は『桐谷 徹也』
読みは(きりたに てつや)良くありそうな名前ですね。
さっきーと幼稚園が一緒で幼馴染みらしいです。
徹也はバスケ部で本当に体力があるんですよ。男子の
千五百mやってくれるんです。あ、体育祭の話ですよ?
ていうか、話変わってますね。だから私は徹也に
聞いた方が一番早いだろうかなと。さっきーどうかなと。

「自分で聞けよ、ほら!今一人だし!」
「……周りに」
「周りなんて気にすんなって。翔だって寂しがってるし!」

寂しがってるの、かな?
ただ一人で三時間目英語のテストの予習じゃないの?
だって、何か集中してるっぽいし……。
今話しかけても、あーうん?とかしか言わなさそうだし。
まずコミュ障のさっきーがまともに話してくれる?
……絶対にない。あったとしても珍し過ぎて暴れるかも。
嫌、それはないけど。暴れるなんて本当にないからね?
うーん、話しかけていいのかな?
さっきーは自分の机で頭を抱えて肘を付いている。
……何を悩んでるの。私はさっきーの姿を見て呆れながらも
笑顔を保っていた。よし、もうこの際話しかけよう。

「さっきー大丈夫?」
「え?うん」
「英語の復習?」
「……うん、ここ分かる?」

私は何故かさっきーに英語の文章問題を聞かれた。
※It was there that recently say? という問題だった。
うーん。この答えを書けってことだよね?

「これは、最近いい事ありましたか?だよ」
「そうなんだ。」

本当にマジでありがとう。と笑顔で感謝してくるさっきー。
この笑顔に私はどのくらい期待させられたのだろうか。
この笑顔に私はどのくらい救われたのだろうか。
この笑顔に……どのくらい感謝すればいいのだろうか。
馬鹿な私には分からない事。
さっきーと出逢うまで本気で人を好きになった事なかった。
こんなに人を好きになる事があるんだなと私は実感した。
さっきーは長男で、周りからも天然だけど妹の面倒を
ちゃんと見ているしっかり者のお兄さんって感じなのに。
ホントはちょっと、嫌かなりすぐ顔に出やすくて拗ねると
顔背けたり嫌な事があったら嫌って言えないくせに
顔には嫌って書いてあるように凄い拗ねるから。
長男なのに末っ子みたいな拗ねっぷりだから本当に
弟みたいに可愛い所も多い。しかもそれに天然が足されて
本当に優しい所も、ホントに私は大好きで……
さっきーは、……言葉にできない程努力してるんだと思う。
嫌、言葉に出来てるねこれ。とか言うと今私が話してた
いい感じの雰囲気が台無しになるから心の中で言うとします

それからテストが終わった。
私は多分本当に今回やばいかもしれません。
さっきーは……どうだったのかな。
学年一位なんて目指さなくていいよ。
多分、さっきーも忘れてるだろうから。
けど徹也は言ってたの。毎日四時間勉強してたって。
無理しないでって言ったのに……
さっきーのそういう所は頑固なんだよなぁ。

「さっきー」
「何?」
「……頑張ったね。お疲れ様」

今私がさっきーに言うべき事はこれしかない。
今怒ったり、注意したりしても何もならない。
なら私のせいでそんなに勉強してくれたなら。
私が言ってあげないとダメな気がするんだ。
毎日四時間勉強ばかりで本当にお疲れ様です。
サッカーも頑張ってるみたい。聞いたんだよ?
私がいつもサッカー部の後輩に言われてる事知ってる?
『佐々木先輩の彼女』っていつも言われるんだよ。
私はなんて返したらいいのか分からないからいつも避けてる
たまに肩叩かれて話しかけられる時もあるけど……
さっきーの彼女って言われて否定したくない。
そうです。とも言えないし。だから分からない。

「いきなり変なの、でもサンキュ」

はは~と呑気な笑顔でまたもや笑っているさっきー。
この笑顔に何度癒されたのかな。数え切れないや。
もう私には皆が普通思っている大切な家族がいない。
弟と、友達と親友しかいない。
私にはまだ足りない。心の傷が完全に癒えていない。
別に彼氏を作って癒そうなんて思ってはいない。
けど、……何かが足りない。
足りないの。私には足りてないものがある。
分かる。自分で自覚してる。

さっきーはさ、自分に足りないものとか分かってるかな。
私に足りないものは……『愛情』なんじゃないかと思ってる。
間違えているかもしれない、でも愛があったら私はもっと
ちゃんとさっきーにもホントの笑顔でいられたと思う。
愛情が欲しい、欲しかった。
弟がいなかったら私はどうなっていたのだろうか。
今の私はいないんじゃないかと思うとゾッとする。
さっきーにも出会えていなかったら私は人形だったかも。
人形みたく愛想がいいだけの人になって本当の自分が
いない。見えない。猫かぶりの嫌な奴だったかも。

私は、今の自分がいて本当に良かった。
さっきーにも出逢えたのはそのおかげ。
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