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明日への扉 裏

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リルーシェは緊張していた。
今日はジェフリーが茶会に来る。
茶葉はジェフリーが好きな香りのものを、茶菓も幼い頃ジェフリーが好んで食べていた薄いクッキーにジャムが挟んであるものを用意し、自身もいつも以上に着飾った。
濃いエメラルドブルーのドレスを纏ったリルーシェは美しく、ジェフリーは目を細めた。

「今日はどうした?この後予定があるんだ。手短かに頼むよ」
「ボストン男爵令嬢とお会いになるのですか?」
「彼女はただの友人だよ。婿入りしたら窮屈な生活になるんだ。少しは羽根を伸ばさせてくれよ」

そう言ってニヤリと笑うジェフリー。
そうですか、と俯くリルーシェがなんだかぼんやり見えるな、とジェフリーが思い始めた時には視界が暗転していた。


タイラー邸使用人部屋空き室---

「イザベル様。本当にこのようなことをして大丈夫なのですか?」

シルヴァスタイン家私兵トーマスが手際よくジェフリーを脱がしていく。
椅子に座らせ後ろ手に結び、猿轡を噛ませ目隠しをする。
本番はこれからですよ、とイザベルは満足そうに眺めた。


リルーシェは目の前で起きている出来事から目を離せなかった。
イザベルが声をかけ、冷水が落とされる度怯え青ざめ小さく悲鳴をあげる男。
キャラメルブラウンの髪にエメラルドブルーの瞳。甘いマスクで長身痩躯の彼は令嬢達からも人気の美丈夫。
その彼がみっともなく情けない姿を晒している。
最初こそ、威勢が良かったがそれも段々失われ小さく震えている。

なんて、なんて甘美な!
リルーシェは震えた。
目隠しの布がじわじわと濡れていく。
鼻水も流れ、止める術はない。
無様でみっともなくて、なんて愛らしいのだろう。
体の奥深くから、支配欲や征服欲がふつふつと湧き上がる。
今まで生きてきた中でこれ程高揚したことがあっただろうか。
こんなに小さな男だったろうか。
リルーシェは興奮を抑えきれず、身を乗り出し爛々と瞳を光らせる。
目隠しが取られ、絶望が混じったようなそれでいて喜びの熱を孕んだような仄暗い瞳。
リルーシェは歓喜した。
立ち上がり男の傍へ。

「許して欲しい?」
「ゆゆゆゆるして!おれが全部悪かったから!」
涙も鼻水もぐちゃぐちゃで許しを乞う男。
リルーシェは上から満足そうに眺め、外してあげて、と告げまた椅子に座った。
自由になった男は転がるようにリルーシェの足に縋りついた。
リルーシェ、リルーシェ、と何度も名前を呼ぶ。
リルーシェは爪先で男の顎を持ち上げじっと見つめた。
アメジストの瞳が愉悦に歪み紅色の唇は笑みをたたえ

「許してあげる」

そう言うと爪先で頬を撫でた。
男は安堵したように小さく笑う。
爪先で耳の輪郭をなぞり、首筋を撫で鎖骨に足の指を這わせた。

「あ、あ、リル、リルーシェ・・・」

縛られてもないのにされるがままの男にリルーシェは興奮を隠せない。

「ジェフリーは、私にこうされて嬉しいの?」
「ああああああいしてるから」
「そう」

うふふと笑いながら喉元に足で爪をたてる。ぐっと息を詰めるジェフリーが可愛くて、リルーシェはうっとりと微笑んだ。
その顔を見てジェフリーもまた興奮していた。
はぁはぁと熱い息を吐きながらされるがままになっている。


リルーシェ無双が始まり、イザベルはそっと部屋を出た。
「トーマス、あの二人はこれから大丈夫なのかしら?」
「お嬢様、人はああなるともう戻れません。行く道はあっても戻る道はないのです」
「そう・・・幸せになってくれたらいいのだけれど」
イザベルは遠い目をして呟いた。
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