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お祭り前夜

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「小兄様、ほんとにこれで合ってるの?」
「…多分」

 リュカとナルシュ、二人の目の前には枯れ草を食むピコピコがいる。その首には緑のリボンがかけられ大きな鈴がついていて首を振る度にカランカランと鳴った。体には赤いケープを羽織って、それには大振りの花の刺繍が刺してある。

「これがトナカイとかいうやつなの?」
「いや、トナカイには角があるらしい」
「鹿とは違うの?」
「知らん」

 二人がどうしてこんな話をしているかと言うと、クリスマスが近いからだ。けれど、この王国でクリスマスを知る人はいない。かくいう二人もつい先日知ったばかりなのである。

 事の発端は、やはりというべきななんなのかナルシュである。このナルシュ、軍事国家である泣く子も黙る帝国のやんごとなき方々と親交を深めている。愛するエルドリッジと晴れて番になった折に届いた祝いは短剣だった。

『エルドリッジが不粋なことをした時に切り落とせ』

 不穏な文と共に届いた両刃のそれはとても鋭く、上から落とした試し斬りの紙が音もなくスパリと切れたらしい。柄は装飾を無くし持ちやすく、その代わり鞘には宝石が散りばめられた美しい品だ。エルドリッジは縮み上がり、ナルシュは嬉々として寝室にそれを飾っている。

 そんな帝国にはクリスマスなる行事があるという。年に一度、年の瀬に全ての子らに夢を与える日として祭りが開かれるらしい。それにリュカとナルシュは乗っかるためにピコピコを着飾らせたのだ。

「どうせ、誰も知らないんだからこれでいいだろ」

 そんなものかなぁ?とリュカは首を傾げたが、ナルシュは満足気に腕を組んでいた。


 そんなことがあった夜、仕事を終え邸に帰ったアイザックを待っていたのはのリュカだった。

「今帰っ…は?いやいや、リュカ?」
「アイク、おかえりなさい。これどうですか?」

 頭のてっぺんからつま先まで紅白のリュカがくるりと回った。仕草と顔は文句無しに可愛い、しかしそのナリはなんだ?ダボダボの赤い服に同じくダボダボのズボン、頭にも真っ赤な帽子が乗っていて、襟や袖や裾には白いファーがたっぷりとあしらってある。

「これね、サンタとかいう夢を配る人なんです。似合う?」
「似合わない」
「即答ですか」

 リュカとナルシュがなにやらやっていることは知っていた。今度のピコピコの日はちょっと趣向を変えたことをやる、と報告も受けている。しょんとしょげかえるリュカは大層愛らしいが、その格好はどうだろう?
 紅白じゃなければいけないのなら、もっと体に沿った意匠で…そうだな、襟元はもう少し開いた方がいい。上着は尻が隠れるか隠れないかの微妙な丈で、下は思い切り短いズボンでもいいな。それで膝まである靴下を履かすのはどうだろう…いや、いっそ上着の丈も短くしてしまうか。臍が見えるくらいで…

「…アイク?お仕事忙しい?また皺が寄ってる」
「いや?」

 そんなことを考えていたら、いつの間にか私室で着替えさせられていた。

「これにね、白いお髭をつけます」
「却下だ!なぜ髭をつける?おかしいだろ!?」
「サンタとかいうのが白いお髭のお爺さんなのです」
「だったら、本物の爺さんがいるだろ。ソルジュでもグレイでも」
「アイク、グレイはまだお爺さんと呼ばれる歳ではないですよ」

 きょとんと丸める目が可愛い、これをどうやればお爺さんになるというんだ。


 翌日、アイザックは登城するなりまっすぐ警ら室へと向かった。エルドリッジは既に登城しており、執務机の上でペンを走らせていた。

「よう」
「よう、じゃない。ナルシュのせいでまたリュカがおかしなことを言っている!」
「あぁ、あれだろ?白髭の爺さん」

 クックックと笑うエルドリッジ、まぁ座れとソファにアイザックを促し自分もその対面に腰を下ろした。

「俺は可愛いリュカを髭の爺さんにするつもりはない」
「あまり機嫌を損ねない方がいいんじゃないか?ナルはとても楽しみにしていたぞ?」

 足を組み不敵に笑うエルドリッジに対して、アイザックは不満気な顔を隠そうともしない。

「ひとついい事を教えてやろう。ナルはあんなだからな、子らが楽しいことは自分も楽しい!みんなを楽しませるのはもっと楽しい!って奴なんだ」
「それが?」
「皇女からの手紙には続きがある。ナルはすっかり忘れちまっているようだが…」
「だからなんだ」
「あのな?クリスマスってのは子らのための祭りではあるんだが…それは昼間の話だ」

 勿体つけるようなエルドリッジの話しぶりにアイザックは若干イラついてきた。

 ──夜は大人の時間だ

 ニヤリと笑うエルドリッジにアイザックのイライラが吹っ飛んでいったのは言うまでもない。






※お久しぶりです!
続きはクリスマス付近に。
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