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幾久しい
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海の向こうの大陸がひとつの国として統一されて久しく、未だ内部での小さな小競り合いは続き民はその長きに渡る終焉を待っていた。
あちこちで上がる火種がようやっと小さくなった頃、国交を開く為に内密に皇女は動きだした。
戦で失ったものは大きい、復興の為にも文化的にも他国の知識を借り受けようという算段であるという。
その最初の国がここコラソン王国であった。
「ふぅん」
「ナル、わかってないだろ」
「わかってるよ、あっちとこっちで仲良くしようってことだろ」
そう言ってナルシュはワインを一気に呷った。
もっとなみなみと注いでくれりゃいいのに、と思ったが尻を叩かれたくはないのでぐっと飲み込む。
「難しいことはわかんないよ。きっとリュカだってそうだ」
見てみろ、ナルシュはクイと顎をあげて前方を見やった。
リュカがアイザック相手にキョトンと首を傾げていた。
「あれがなにを意味するかわかんないだろ」
「わかるさ。リュカは好きなもんしか頭に残らない」
「似た者兄弟か」
「似てない。リュカはとびきり良い子だ」
「お前は?」
「とびきり悪い子」
あはは、と笑って今度はまた違う方に顎をあげた。
「そんでもってあれがうちで一番良い子で一番の苦労人」
「お前のせいか?」
「間違いない」
くふふ、と笑う顔に反省の色は見えないが親愛の情はたっぷりあった。
本来ならば父がコックスヒル家当主として参加するはず、それを名代としてジェラールが参加している。
所在なげに壁にもたれかかって酒を飲んでいた。
「義父上は?」
「持病の仮病だ」
父のエドウィンは直前になってまた倒れた。
直前に倒れることで有無を言わせずジェラールを送り込んだ。
長男は伯爵家序列三位のペンブルック家から伴侶を、次男は代々騎士を排出する名門アーカード侯爵家に、三男は三大公爵家のひとつエバンズ家に縁付いた。
誰からも注目されていなかったコックスヒル家は今や社交界の華だ。
「格好の噂の種の間違いだろ?」
「こら」
「はーい」
ナルシュは心にも無い笑みを浮かべて貴族連中に泰然と微笑んだ。
一方、その頃リュカはアイザックと共に王太子殿下と談笑していた。
「ベルフィール殿下の様子はいかがですか?」
「揚げた芋ばかり食べているよ」
「まぁ、胸焼けしないので?」
「それしか食べたくないんだそうだ」
あらまぁ、とリュカは目を丸くしてアイザックを見上げた。
今夜の夜会にベルフィールの姿はない。
セオドアはちょっぴり寂しそうだったが、その反面嬉しそうでもあった。
「会えるのが楽しみですね」
「きっとベルに似た可愛らしい子が産まれるぞ」
「そりゃ、楽しみだな」
「ザック、思ってないだろ」
「思ってるさ、お前に似た子が産まれないようにな」
「アイク!どちらに似てもきっと美しい子が産まれます」
「冗談だよ、リュカ」
抗議するような視線を受けたアイザックは肩を竦め、
セオドアはリュカはいい子だねぇ、と笑った。
「ザックは?」
「うちは・・・」
リュカは知らん顔でりんご酒を飲んだ。
リュカにはまだ子を持つ自信は無い、先日のアイザックの運命の番の件がまだ消化しきれていない。
もちろん、アイザックの自分への愛をもう疑うことはない。
けれど、喉に引っかかった小さな小骨が気にならなくなるのはまだ時間がかかるだろうし、抜け落ちるかどうかもわからない。
繋ぎ止めるように子を成すことはまだできない、そう思う。
「まだ、二人で居たいんだ」
「ま、気持ちはわかるな」
だろう?とグラスを合わす二人をリュカはただ黙って見ているだけだった。
王太子殿下と話すリュカ達を、そしてほんのちょっと口の端を痙攣させながら笑みを浮かべ挨拶に回っているナルシュ達を見ているのはジェラールである。
「はぁ、帰りたい・・・」
ゴクリとチェリー酒を飲み干したジェラールはそう独りごちた。
さっき からチラチラとこちらを見てくる視線もいい加減鬱陶しい。
聞きたいのはナルシュのことか?それとも、なんちゃってαの自分がどうやってニコラスを籠絡した、か?
苛立ちが募る原因はわかっている、あの二人と違って自分は一人だからだ。
「くだらない」
「なにが?」
「・・・ニコラス君、城の警備じゃなかった?」
声の先にいるのは騎士服姿のニコラスだった。
こてと傾げた顔は可愛いのに、出で立ちは凛々しい。
「お義父様は?」
「いつもの持病」
「あぁ、仮病ですね」
「ニコラス君は?」
「ちょっとだけ抜けてきたんです」
ペロと小さく舌を出すニコラスはいたずらが成功した子どものようで、その凛々しさとあどけなさにジェラールは鷲掴みにされた。
「もう、ニコラス君を連れて帰りたいよ」
はぁ、と嘆息しながらうっかり落ちた言葉にニコラスはつつつとジェラールに身を寄せた。
「私もです」
ひそひそと耳元で交わされる会話は誰にも聞こえないが、ただならぬ仲なんだということ知らず見せつけていた。
コックスヒル家は代々地味に細々とその血を受け継いできた。
誰からも見向きもされなかった伯爵家は一時脚光を浴びたが、それも束の間のこと。
新しい噂の種はあちらこちらに芽吹いている。
穏やかに愛を育んでいる者達に、口さがない連中は付け入る隙がないとみてコックスヒル家はまた地味な一伯爵家に戻った。
※エルナル編これにておしまいです。
もうちょい続けようか、とも思いましたがまぁこれはこれでいいかな、と。
政治的なことであまり冗長になってしまってもな、と思ったので。
※それに合わせてここで本編(アイリュカが結ばれてからは長い番外編のようでありましたが)終了とさせていただきます。
ジェラニコでなにかひとつ、と思ったのですが上手くまとまらず・・・
※なにかネタが下りてきたらまた書かせてもらいたいです。
薄らぼんやりあるのは、指輪の話や皇女の祝いの話くらいで・・・
こんなの読みたいよ!なんかあれば、期待に添えるかわかりませんがコメントいただけると嬉しく思います。
☆長いお話を読んでくださり本当にありがとうございました(❁ᴗ͈ˬᴗ͈))
あちこちで上がる火種がようやっと小さくなった頃、国交を開く為に内密に皇女は動きだした。
戦で失ったものは大きい、復興の為にも文化的にも他国の知識を借り受けようという算段であるという。
その最初の国がここコラソン王国であった。
「ふぅん」
「ナル、わかってないだろ」
「わかってるよ、あっちとこっちで仲良くしようってことだろ」
そう言ってナルシュはワインを一気に呷った。
もっとなみなみと注いでくれりゃいいのに、と思ったが尻を叩かれたくはないのでぐっと飲み込む。
「難しいことはわかんないよ。きっとリュカだってそうだ」
見てみろ、ナルシュはクイと顎をあげて前方を見やった。
リュカがアイザック相手にキョトンと首を傾げていた。
「あれがなにを意味するかわかんないだろ」
「わかるさ。リュカは好きなもんしか頭に残らない」
「似た者兄弟か」
「似てない。リュカはとびきり良い子だ」
「お前は?」
「とびきり悪い子」
あはは、と笑って今度はまた違う方に顎をあげた。
「そんでもってあれがうちで一番良い子で一番の苦労人」
「お前のせいか?」
「間違いない」
くふふ、と笑う顔に反省の色は見えないが親愛の情はたっぷりあった。
本来ならば父がコックスヒル家当主として参加するはず、それを名代としてジェラールが参加している。
所在なげに壁にもたれかかって酒を飲んでいた。
「義父上は?」
「持病の仮病だ」
父のエドウィンは直前になってまた倒れた。
直前に倒れることで有無を言わせずジェラールを送り込んだ。
長男は伯爵家序列三位のペンブルック家から伴侶を、次男は代々騎士を排出する名門アーカード侯爵家に、三男は三大公爵家のひとつエバンズ家に縁付いた。
誰からも注目されていなかったコックスヒル家は今や社交界の華だ。
「格好の噂の種の間違いだろ?」
「こら」
「はーい」
ナルシュは心にも無い笑みを浮かべて貴族連中に泰然と微笑んだ。
一方、その頃リュカはアイザックと共に王太子殿下と談笑していた。
「ベルフィール殿下の様子はいかがですか?」
「揚げた芋ばかり食べているよ」
「まぁ、胸焼けしないので?」
「それしか食べたくないんだそうだ」
あらまぁ、とリュカは目を丸くしてアイザックを見上げた。
今夜の夜会にベルフィールの姿はない。
セオドアはちょっぴり寂しそうだったが、その反面嬉しそうでもあった。
「会えるのが楽しみですね」
「きっとベルに似た可愛らしい子が産まれるぞ」
「そりゃ、楽しみだな」
「ザック、思ってないだろ」
「思ってるさ、お前に似た子が産まれないようにな」
「アイク!どちらに似てもきっと美しい子が産まれます」
「冗談だよ、リュカ」
抗議するような視線を受けたアイザックは肩を竦め、
セオドアはリュカはいい子だねぇ、と笑った。
「ザックは?」
「うちは・・・」
リュカは知らん顔でりんご酒を飲んだ。
リュカにはまだ子を持つ自信は無い、先日のアイザックの運命の番の件がまだ消化しきれていない。
もちろん、アイザックの自分への愛をもう疑うことはない。
けれど、喉に引っかかった小さな小骨が気にならなくなるのはまだ時間がかかるだろうし、抜け落ちるかどうかもわからない。
繋ぎ止めるように子を成すことはまだできない、そう思う。
「まだ、二人で居たいんだ」
「ま、気持ちはわかるな」
だろう?とグラスを合わす二人をリュカはただ黙って見ているだけだった。
王太子殿下と話すリュカ達を、そしてほんのちょっと口の端を痙攣させながら笑みを浮かべ挨拶に回っているナルシュ達を見ているのはジェラールである。
「はぁ、帰りたい・・・」
ゴクリとチェリー酒を飲み干したジェラールはそう独りごちた。
さっき からチラチラとこちらを見てくる視線もいい加減鬱陶しい。
聞きたいのはナルシュのことか?それとも、なんちゃってαの自分がどうやってニコラスを籠絡した、か?
苛立ちが募る原因はわかっている、あの二人と違って自分は一人だからだ。
「くだらない」
「なにが?」
「・・・ニコラス君、城の警備じゃなかった?」
声の先にいるのは騎士服姿のニコラスだった。
こてと傾げた顔は可愛いのに、出で立ちは凛々しい。
「お義父様は?」
「いつもの持病」
「あぁ、仮病ですね」
「ニコラス君は?」
「ちょっとだけ抜けてきたんです」
ペロと小さく舌を出すニコラスはいたずらが成功した子どものようで、その凛々しさとあどけなさにジェラールは鷲掴みにされた。
「もう、ニコラス君を連れて帰りたいよ」
はぁ、と嘆息しながらうっかり落ちた言葉にニコラスはつつつとジェラールに身を寄せた。
「私もです」
ひそひそと耳元で交わされる会話は誰にも聞こえないが、ただならぬ仲なんだということ知らず見せつけていた。
コックスヒル家は代々地味に細々とその血を受け継いできた。
誰からも見向きもされなかった伯爵家は一時脚光を浴びたが、それも束の間のこと。
新しい噂の種はあちらこちらに芽吹いている。
穏やかに愛を育んでいる者達に、口さがない連中は付け入る隙がないとみてコックスヒル家はまた地味な一伯爵家に戻った。
※エルナル編これにておしまいです。
もうちょい続けようか、とも思いましたがまぁこれはこれでいいかな、と。
政治的なことであまり冗長になってしまってもな、と思ったので。
※それに合わせてここで本編(アイリュカが結ばれてからは長い番外編のようでありましたが)終了とさせていただきます。
ジェラニコでなにかひとつ、と思ったのですが上手くまとまらず・・・
※なにかネタが下りてきたらまた書かせてもらいたいです。
薄らぼんやりあるのは、指輪の話や皇女の祝いの話くらいで・・・
こんなの読みたいよ!なんかあれば、期待に添えるかわかりませんがコメントいただけると嬉しく思います。
☆長いお話を読んでくださり本当にありがとうございました(❁ᴗ͈ˬᴗ͈))
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