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閑話 満天の星の下で
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ゴツゴツとした岩に囲まれてそれはあった。
薄闇に白く湯気をたてていて、その周りをぐるりと石でできた背の高いランプが囲んでいる。
足先からゆっくりそれに入ると刺すような痛みが走る。
それを我慢してゆっくりと体を沈めていく。
肩までちゃぷんと浸かるとピリピリしていた皮膚が弛緩していく。
「アイク、とても気持ちがいいです」
「あぁ、来たかいがあったな」
リュカはこくりと頷き、その白い湯を掬った。
頬に当たる風が冷たくて気持ちがいい。
背後から聞こえてくる鼓動も腹に回る太い腕もなにもかもが気持ちいい。
リュカ、と呼ばれる声もとても心地よい。
「すごいですね」
ホーホーと鳥が鳴く。
葉擦れの音が響いて、空には瞬く星が一面に散りばめられている。
「世界に二人きりみたいだな」
「どうしたんですか?そんな歯の浮くようなこと言って」
「駄目か?」
ふふふ、と同時に笑うと湯が揺れて緩い波ができた。
「リュカがこうして居ることが嬉しいんだ」
「僕もです」
「リュカ・・・」
「アイク、また来ましょうね」
アイザックの言葉を遮ってリュカは振り返った。
眉を下げたその顔を見ただけでわかってしまう。
傷つけてしまったことを、一瞬でも裏切ってしまったことを悔いている。
体勢を変えてアイザックの首に腕を巻き付けてぴたりと体をくっつける。
謝らないで、とリュカは思う。
許すか許さないか、その選択肢を与えないで。
それをされてしまったら一生許せなくなるから。
それをされてしまったら自分も謝らなければいけない、アイザックとその運命に。
奪ってしまってごめんなさい、と。
けれど、それは違うと思う。
この傷が塞がることはきっともうない。
不意にそれを見てジクジクと痛みを思い出すのだろう。
その時に傍にいてくれればそれでいい。
俯いてしまった時に見上げた先にいてほしい。
「アイク、愛してます」
「愛してる、誰よりもリュカだけを」
ザブと大きな波を立ててアイザックの手がリュカを掻き抱く。
温泉の匂いと二人の匂いが混じって、遠くからバササッと鳥の羽ばたきが聞こえた。
肩口がじわじわと暖かくなっていく理由はわかっている。
よしよしとしっとりしてしまった髪をリュカは撫でてやった。
「リュカを失わなくて良かった」
「僕もです」
湯上り、ほこほこと温かい体で宿までの小道を歩く。
露天風呂は宿の敷地内にあって、リュカがよく見ていた大きな木を超えた所にあった。
木の根元には緑に混じって色とりどりの野花が生えている。
昼間、リュカに贈った花はここから摘んだとアイザックに教えてもらった。
「栞にしてあります」
「そうか、王都に帰る前にどこか行きたい所はあるか?」
「んー、ミルクアイスをまた食べたいです」
じゃあ行こう、と握った手が温かい。
チチチと聞こえる虫の音と、少しだけ欠けた月と瞬く星々。
二人きりの世界でリュカは繋いだ手を二回握る。
ん?と屈んでくる仕草は変わらない。
降りてきたその頬にチュッと軽く口付ければ、お返しと同じように口付けてくれる。
愛おしい日常が戻ってきた、そう思いながらリュカはまた手を握った。
※更新がだいぶ開いてしまいました。
読んでくださりありがとうございます。
運命の話が終わって気が抜けてしまって、なんだかぼんやりと過ごしておりました。
もし、待っていた方がいらっしゃいましたらすみません。
後は、エルナルが番になるお話でしょうか。
薄闇に白く湯気をたてていて、その周りをぐるりと石でできた背の高いランプが囲んでいる。
足先からゆっくりそれに入ると刺すような痛みが走る。
それを我慢してゆっくりと体を沈めていく。
肩までちゃぷんと浸かるとピリピリしていた皮膚が弛緩していく。
「アイク、とても気持ちがいいです」
「あぁ、来たかいがあったな」
リュカはこくりと頷き、その白い湯を掬った。
頬に当たる風が冷たくて気持ちがいい。
背後から聞こえてくる鼓動も腹に回る太い腕もなにもかもが気持ちいい。
リュカ、と呼ばれる声もとても心地よい。
「すごいですね」
ホーホーと鳥が鳴く。
葉擦れの音が響いて、空には瞬く星が一面に散りばめられている。
「世界に二人きりみたいだな」
「どうしたんですか?そんな歯の浮くようなこと言って」
「駄目か?」
ふふふ、と同時に笑うと湯が揺れて緩い波ができた。
「リュカがこうして居ることが嬉しいんだ」
「僕もです」
「リュカ・・・」
「アイク、また来ましょうね」
アイザックの言葉を遮ってリュカは振り返った。
眉を下げたその顔を見ただけでわかってしまう。
傷つけてしまったことを、一瞬でも裏切ってしまったことを悔いている。
体勢を変えてアイザックの首に腕を巻き付けてぴたりと体をくっつける。
謝らないで、とリュカは思う。
許すか許さないか、その選択肢を与えないで。
それをされてしまったら一生許せなくなるから。
それをされてしまったら自分も謝らなければいけない、アイザックとその運命に。
奪ってしまってごめんなさい、と。
けれど、それは違うと思う。
この傷が塞がることはきっともうない。
不意にそれを見てジクジクと痛みを思い出すのだろう。
その時に傍にいてくれればそれでいい。
俯いてしまった時に見上げた先にいてほしい。
「アイク、愛してます」
「愛してる、誰よりもリュカだけを」
ザブと大きな波を立ててアイザックの手がリュカを掻き抱く。
温泉の匂いと二人の匂いが混じって、遠くからバササッと鳥の羽ばたきが聞こえた。
肩口がじわじわと暖かくなっていく理由はわかっている。
よしよしとしっとりしてしまった髪をリュカは撫でてやった。
「リュカを失わなくて良かった」
「僕もです」
湯上り、ほこほこと温かい体で宿までの小道を歩く。
露天風呂は宿の敷地内にあって、リュカがよく見ていた大きな木を超えた所にあった。
木の根元には緑に混じって色とりどりの野花が生えている。
昼間、リュカに贈った花はここから摘んだとアイザックに教えてもらった。
「栞にしてあります」
「そうか、王都に帰る前にどこか行きたい所はあるか?」
「んー、ミルクアイスをまた食べたいです」
じゃあ行こう、と握った手が温かい。
チチチと聞こえる虫の音と、少しだけ欠けた月と瞬く星々。
二人きりの世界でリュカは繋いだ手を二回握る。
ん?と屈んでくる仕草は変わらない。
降りてきたその頬にチュッと軽く口付ければ、お返しと同じように口付けてくれる。
愛おしい日常が戻ってきた、そう思いながらリュカはまた手を握った。
※更新がだいぶ開いてしまいました。
読んでくださりありがとうございます。
運命の話が終わって気が抜けてしまって、なんだかぼんやりと過ごしておりました。
もし、待っていた方がいらっしゃいましたらすみません。
後は、エルナルが番になるお話でしょうか。
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