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守りたい!
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今回の温泉旅行の護衛は八人、プラハー率いるエバンズ家から半分、残りをアーカード家が請け負っている。
御者は四人、リュカ達の乗る馬車三台と荷を乗せる馬車一台である。
その護衛と御者達は目の前で繰り広げられる『怪異対決』に驚きを隠せない。
ガタピシと窓が音を立てる中、ニコラスがはい!と挙手をした。
「はい、ニコラス」
「怪異を見つけた場合は討伐してもいいですか?」
「もちろんだ!」
偉そうにナルシュがニコラスを見下ろして言う。
まだエルドリッジにしがみついているからだ。
「小兄様、馬鹿なこと言わないでよ」
「ふぅん、じゃリュカ達の負けな?」
「はぁ!?負けてないし!僕のアイクが一番なんだから!」
「あぁ!?俺のエルが一番に決まってるだろうが!」
バチバチと火の粉が舞いそうなほど二人は睨み合う。
自分で戦うという気は露ほどもないようだ。
ふんっとリュカはそっぽを向いてアイザックをぐいぐいと引っ張った。
向かう先にあるのはエントランスホールから二階へと上がる大階段で、途中の踊り場から左右に別れている。
その左手、西側の階段を上って行った。
「奥様ー!応援しております!」
「任せて!」
サッチが声をかけ残りの護衛達も手を振った。
プラハーだけは、またわかりやすい挑発にのって、と額に手を当て頭を振った。
「エル!俺たちも行くぞ!」
「はいはい」
相変わらずしがみついたままにナルシュは命令する。
リュカ達とは反対側、右手東側へ向かって階段を上がっていく。
「ナルシュさまー、がんばってー」
「頑張る!」
親指を立ててニカッと笑うナルシュにアーカード家の私兵たちはわーいと両手を振った。
護衛を撒き、壁を登り、塀からぴょんと飛ぶ、およそ貴族らしくないナルシュ。
言葉は明るくざっけない、笑顔は向日葵のような輝きを持つ。
そんなナルシュにアーカード家の私兵たちはメロメロだった。
それにしても、と両家の私兵は思う。
我らの主人二人はニヤニヤデレデレとやに下がりすぎではないか、と。
それらをジェラールとニコラスは無言で見送った。
「あの、ニコラス君。愚弟が・・・」
「私はジェラールが一番だと思ってます」
すまない、との謝罪はニコラスの密やかな声にかき消された。
耳打ちされたその言葉に、そんなことはないと否定しようと思ったが出来なかった。
ふふと笑う顔が眩しくて否定してはいけない気がしたから。
「では、私たちは一階を探索しましょう」
「いや、あのニコラス君?怪異を倒すって・・・」
「大丈夫。剣はないですけど短刀なら持ち合わせてます。それに、私にはこの拳があります!」
まさかの物理だった。
「え、なにかこう霊能力的な・・・」
「ありません」
でも・・・とニコラスは短刀を取り出し階段の踊り場の壁に投げつけた。
ヒュッと空を切る短刀はそのまま壁にズブリと刺さった。
途端、何もないと思われた壁がどろどろと溶けていく。
ヘドロの様なそれは床に流れ落ち最後には消えた。
壁にはいつの間にか大きな絵画が飾られ、それは家族の肖像のようだった。
「あそこ、なんだか気持ち悪かったんですよね」
短刀を抜くために階段を上がるニコラスの背中にジェラールは思った、強い(物理)。
「これ、ここの屋敷の当主でしょうか?」
グレーの髪を七三にぴっちりと撫で付けた口髭の男と椅子に座る髪をまとめあげた女、二人の間には子供と思わしき男女が二人。
「このドレス、デザインが古いね」
「そうですね。今はこんなに袖が膨らんだドレスを着ているのを見ません」
この屋敷は一体誰のものだったのだろうか、と二人が揃って首を傾げた時二階から悲鳴が聞こえた。
「あれはナルシュだな」
「ジェラール、負けてられません」
ふんすっと拳を握る姿に、負けてもいいんじゃないかな?とジェラールは思った。
行きましょう、と言うニコラスに手を引かれてまた階段を下りる。
「ジェラール様、お気をつけて」
「うん。プラハー達も大変だっただろう?休めというのは難しいかもしれないがゆっくりしておいで」
ジェラールはそう言いおいてニコラスと屋敷の奥へと歩を進めた。
兄上はできたお方だ、と誰しもがその背中を見送った。
だから気づけなかった、肖像の子ども二人の目がキロリと動いたことに。
ジェラールとニコラスは一階の東側を進んで行く。
「だいぶ目が慣れてきましたね」
「うん、だけどやっぱり灯りが欲し・・・ひぃっ」
灯りが欲しいと言った二人の目の前に青白く光る手が現れた。
おいで、おいでとゆっくり手招きしながら奥へと誘うそれ。
「ニ、コラス君・・・」
途端、ニコラスは駆け出した。
誘う手を追いかけ、曲がり角でそれをむんずと掴みあろう事か床に叩きつけた。
角から出てきたのは、手と同じく青白く発光した球体のように見えたが、衝撃で一瞬にして霧散してしまった。
キラキラと細かい光になって、ひとつまたひとつと消えていく。
「多分、小さな羽虫の集合体だったんですよ」
あっという間のその出来事をジェラールは呆然と見つめていた。
そして思った、強い(確信)。
御者は四人、リュカ達の乗る馬車三台と荷を乗せる馬車一台である。
その護衛と御者達は目の前で繰り広げられる『怪異対決』に驚きを隠せない。
ガタピシと窓が音を立てる中、ニコラスがはい!と挙手をした。
「はい、ニコラス」
「怪異を見つけた場合は討伐してもいいですか?」
「もちろんだ!」
偉そうにナルシュがニコラスを見下ろして言う。
まだエルドリッジにしがみついているからだ。
「小兄様、馬鹿なこと言わないでよ」
「ふぅん、じゃリュカ達の負けな?」
「はぁ!?負けてないし!僕のアイクが一番なんだから!」
「あぁ!?俺のエルが一番に決まってるだろうが!」
バチバチと火の粉が舞いそうなほど二人は睨み合う。
自分で戦うという気は露ほどもないようだ。
ふんっとリュカはそっぽを向いてアイザックをぐいぐいと引っ張った。
向かう先にあるのはエントランスホールから二階へと上がる大階段で、途中の踊り場から左右に別れている。
その左手、西側の階段を上って行った。
「奥様ー!応援しております!」
「任せて!」
サッチが声をかけ残りの護衛達も手を振った。
プラハーだけは、またわかりやすい挑発にのって、と額に手を当て頭を振った。
「エル!俺たちも行くぞ!」
「はいはい」
相変わらずしがみついたままにナルシュは命令する。
リュカ達とは反対側、右手東側へ向かって階段を上がっていく。
「ナルシュさまー、がんばってー」
「頑張る!」
親指を立ててニカッと笑うナルシュにアーカード家の私兵たちはわーいと両手を振った。
護衛を撒き、壁を登り、塀からぴょんと飛ぶ、およそ貴族らしくないナルシュ。
言葉は明るくざっけない、笑顔は向日葵のような輝きを持つ。
そんなナルシュにアーカード家の私兵たちはメロメロだった。
それにしても、と両家の私兵は思う。
我らの主人二人はニヤニヤデレデレとやに下がりすぎではないか、と。
それらをジェラールとニコラスは無言で見送った。
「あの、ニコラス君。愚弟が・・・」
「私はジェラールが一番だと思ってます」
すまない、との謝罪はニコラスの密やかな声にかき消された。
耳打ちされたその言葉に、そんなことはないと否定しようと思ったが出来なかった。
ふふと笑う顔が眩しくて否定してはいけない気がしたから。
「では、私たちは一階を探索しましょう」
「いや、あのニコラス君?怪異を倒すって・・・」
「大丈夫。剣はないですけど短刀なら持ち合わせてます。それに、私にはこの拳があります!」
まさかの物理だった。
「え、なにかこう霊能力的な・・・」
「ありません」
でも・・・とニコラスは短刀を取り出し階段の踊り場の壁に投げつけた。
ヒュッと空を切る短刀はそのまま壁にズブリと刺さった。
途端、何もないと思われた壁がどろどろと溶けていく。
ヘドロの様なそれは床に流れ落ち最後には消えた。
壁にはいつの間にか大きな絵画が飾られ、それは家族の肖像のようだった。
「あそこ、なんだか気持ち悪かったんですよね」
短刀を抜くために階段を上がるニコラスの背中にジェラールは思った、強い(物理)。
「これ、ここの屋敷の当主でしょうか?」
グレーの髪を七三にぴっちりと撫で付けた口髭の男と椅子に座る髪をまとめあげた女、二人の間には子供と思わしき男女が二人。
「このドレス、デザインが古いね」
「そうですね。今はこんなに袖が膨らんだドレスを着ているのを見ません」
この屋敷は一体誰のものだったのだろうか、と二人が揃って首を傾げた時二階から悲鳴が聞こえた。
「あれはナルシュだな」
「ジェラール、負けてられません」
ふんすっと拳を握る姿に、負けてもいいんじゃないかな?とジェラールは思った。
行きましょう、と言うニコラスに手を引かれてまた階段を下りる。
「ジェラール様、お気をつけて」
「うん。プラハー達も大変だっただろう?休めというのは難しいかもしれないがゆっくりしておいで」
ジェラールはそう言いおいてニコラスと屋敷の奥へと歩を進めた。
兄上はできたお方だ、と誰しもがその背中を見送った。
だから気づけなかった、肖像の子ども二人の目がキロリと動いたことに。
ジェラールとニコラスは一階の東側を進んで行く。
「だいぶ目が慣れてきましたね」
「うん、だけどやっぱり灯りが欲し・・・ひぃっ」
灯りが欲しいと言った二人の目の前に青白く光る手が現れた。
おいで、おいでとゆっくり手招きしながら奥へと誘うそれ。
「ニ、コラス君・・・」
途端、ニコラスは駆け出した。
誘う手を追いかけ、曲がり角でそれをむんずと掴みあろう事か床に叩きつけた。
角から出てきたのは、手と同じく青白く発光した球体のように見えたが、衝撃で一瞬にして霧散してしまった。
キラキラと細かい光になって、ひとつまたひとつと消えていく。
「多分、小さな羽虫の集合体だったんですよ」
あっという間のその出来事をジェラールは呆然と見つめていた。
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