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エルの悲劇、あるいは完敗
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やぁだぁーー~ー!!と暴れるナルシュを半ば強引に担ぎ上げて馬車を降りる。
出迎えた使用人達は一瞬面食らったようだがすぐさま頭を下げた。
居並ぶ使用人達に観念したのか大人しくなったナルシュの顔は残念ながら見えない。
見えないが、多分にへらと笑っているような気がする。
家令や熟練の侍女達は顔色ひとつ変えないが、歳若い侍女の口の端がピクピクと引きつっているのできっとそうだ。
「母上と義姉上は?」
「お二人で観劇に」
「わかった。呼ぶまで来なくていい」
「かしこまりました」
彼らの前を通り抜けて階段を上がる間もナルシュは大人しい、いっそ不気味なくらいに。
エルドリッジの私室には大きな飾り棚があり、そこには蒸留酒やジェラールの好きなチェリー酒などいろんな銘柄が並んでいる。
入室して肩から下ろしたナルシュは一目散にそこへ駆けて行った。
「すごい!飲んでもいい?」
ぴょんぴょんとその場で跳ねて喜びを爆発させているが、待ってほしい。
「ナル、お前は何しにきたんだ?」
「あっ!忘れてた」
えへへと笑う顔は無邪気で本当にここへ連れてこられた意味がわかっているのか一抹の不安が胸を過ぎる。
「よし、やろう」
「待て待て」
「ん?」
「情緒!雰囲気!」
ぽんと手を打ったナルシュはおもむろに首に腕をかけてきた。
精一杯背伸びをして耳元で囁いてくる。
「やろうぜ」
へへ、と笑うナルシュは可愛さの中に妙な色気が混じっていて、エルドリッジは思わず息を飲んだ。
仄かに立ちのぼるレモンのようなライムのようなシトラスの香りに目眩がする。
「俺と同じ気持ちということでいいんだな?」
「エルと一緒にいるのは嫌じゃない。好きか嫌いかで言ったら好き。でも、たまにモヤモヤするんだよ」
「モヤモヤ?」
「うん。こう心臓がぐぐぅってなって腹の中がギュンって殴られたみたいに痛くなるからよくわかんない」
「なるほど?」
「あと、俺の好きな木の匂いがエルからもするからそこは好き。甘いの、白くて・・・赤い、花・・・」
とろりとナルシュの瞳が溶けていくのを見てとって、エルドリッジはその体を力いっぱいに抱きしめた。
無意識に出てしまったフェロモンをちゃんとナルシュは受け止めて受け入れた。
ナルシュはきっと自分に恋をしている、それも経験した事のない恋を。
だから、モヤモヤと言うしわからないという。
当たり前だ、自分に恋する気持ちを他人が既に知っていてたまるか。
貪るようにナルシュを抱いたあの日から、忘れたことがなかった体が今自分の腕の中にある。
一般的に筋肉質ではないΩにしては程よく筋肉がついている。
あの身軽な技も足の速さもこの体を見ると納得してしまう。
着痩せするのか、初めて脱がせて見た時は正直興奮した。
しっとりと汗ばんだ体には、消えてしまった所有印が新たに散らばっている。
はぁはぁという荒い息遣いの中に甘く切ない声が混じって、たまらない気持ちになった。
「ナル、ギュンって痛いとこってここ?」
ナルシュの中は熱を帯びてぎゅうぎゅうと締め付けてくる。
奥を優しく突くと、あぁっと一際甘い声が出てずっと聞いていたい。
「ナル、こっち見ろ」
んっんっと堪えるような声と共に開けられた目は蕩けた蜂蜜のようだった。
「誰に抱かれてるのかその目開けてちゃんと見てろ」
「え、エル・・・きもちぃ?」
「あぁ」
「・・・はっ、ははっ、おれすげぇだろ」
なぜか笑って得意気な顔に同じように笑みを返してたくさんキスをした。
招き入れるように開いた口内も熱く、ぐちゅぐちゅとわざと音をたてて舌を絡めると同じように応えてくる。
手馴れた感じにメラメラと嫉妬の炎が燃え上がり、瞼を上げると目があった。
それがわかっていたのか、目が嬉しそうに楽しそうに細められる。
「ナル、おま・・・」
「ほら、もっと腰振れ」
ぐいと自分で尻を上げて押し付けてきて、その感触にまた甘い吐息を漏らす。
「後悔するなよ」
「ん、しないよ。きもちぃから」
そう言う顔はやっぱり無邪気で、でも挑戦的で。
酔って抱いたふにゃふにゃのナルシュも可愛かったが、こっちのナルシュもいい。
とにかくナルシュならなんでもいいと、気づいた。
「ナル、お前もう俺とずっと一緒にいろ」
その柔らかさだけじゃない弾力のある尻を開いて、奥まで入り込む。
あっ、あっと喘ぎながらも縋りついてきて耳元で囁く。
「飽きさせるなよ」
負けた、完敗だと思った。
無敵のαでも敵わないもの、自分のΩには逆立ちしたって敵わない。
出迎えた使用人達は一瞬面食らったようだがすぐさま頭を下げた。
居並ぶ使用人達に観念したのか大人しくなったナルシュの顔は残念ながら見えない。
見えないが、多分にへらと笑っているような気がする。
家令や熟練の侍女達は顔色ひとつ変えないが、歳若い侍女の口の端がピクピクと引きつっているのできっとそうだ。
「母上と義姉上は?」
「お二人で観劇に」
「わかった。呼ぶまで来なくていい」
「かしこまりました」
彼らの前を通り抜けて階段を上がる間もナルシュは大人しい、いっそ不気味なくらいに。
エルドリッジの私室には大きな飾り棚があり、そこには蒸留酒やジェラールの好きなチェリー酒などいろんな銘柄が並んでいる。
入室して肩から下ろしたナルシュは一目散にそこへ駆けて行った。
「すごい!飲んでもいい?」
ぴょんぴょんとその場で跳ねて喜びを爆発させているが、待ってほしい。
「ナル、お前は何しにきたんだ?」
「あっ!忘れてた」
えへへと笑う顔は無邪気で本当にここへ連れてこられた意味がわかっているのか一抹の不安が胸を過ぎる。
「よし、やろう」
「待て待て」
「ん?」
「情緒!雰囲気!」
ぽんと手を打ったナルシュはおもむろに首に腕をかけてきた。
精一杯背伸びをして耳元で囁いてくる。
「やろうぜ」
へへ、と笑うナルシュは可愛さの中に妙な色気が混じっていて、エルドリッジは思わず息を飲んだ。
仄かに立ちのぼるレモンのようなライムのようなシトラスの香りに目眩がする。
「俺と同じ気持ちということでいいんだな?」
「エルと一緒にいるのは嫌じゃない。好きか嫌いかで言ったら好き。でも、たまにモヤモヤするんだよ」
「モヤモヤ?」
「うん。こう心臓がぐぐぅってなって腹の中がギュンって殴られたみたいに痛くなるからよくわかんない」
「なるほど?」
「あと、俺の好きな木の匂いがエルからもするからそこは好き。甘いの、白くて・・・赤い、花・・・」
とろりとナルシュの瞳が溶けていくのを見てとって、エルドリッジはその体を力いっぱいに抱きしめた。
無意識に出てしまったフェロモンをちゃんとナルシュは受け止めて受け入れた。
ナルシュはきっと自分に恋をしている、それも経験した事のない恋を。
だから、モヤモヤと言うしわからないという。
当たり前だ、自分に恋する気持ちを他人が既に知っていてたまるか。
貪るようにナルシュを抱いたあの日から、忘れたことがなかった体が今自分の腕の中にある。
一般的に筋肉質ではないΩにしては程よく筋肉がついている。
あの身軽な技も足の速さもこの体を見ると納得してしまう。
着痩せするのか、初めて脱がせて見た時は正直興奮した。
しっとりと汗ばんだ体には、消えてしまった所有印が新たに散らばっている。
はぁはぁという荒い息遣いの中に甘く切ない声が混じって、たまらない気持ちになった。
「ナル、ギュンって痛いとこってここ?」
ナルシュの中は熱を帯びてぎゅうぎゅうと締め付けてくる。
奥を優しく突くと、あぁっと一際甘い声が出てずっと聞いていたい。
「ナル、こっち見ろ」
んっんっと堪えるような声と共に開けられた目は蕩けた蜂蜜のようだった。
「誰に抱かれてるのかその目開けてちゃんと見てろ」
「え、エル・・・きもちぃ?」
「あぁ」
「・・・はっ、ははっ、おれすげぇだろ」
なぜか笑って得意気な顔に同じように笑みを返してたくさんキスをした。
招き入れるように開いた口内も熱く、ぐちゅぐちゅとわざと音をたてて舌を絡めると同じように応えてくる。
手馴れた感じにメラメラと嫉妬の炎が燃え上がり、瞼を上げると目があった。
それがわかっていたのか、目が嬉しそうに楽しそうに細められる。
「ナル、おま・・・」
「ほら、もっと腰振れ」
ぐいと自分で尻を上げて押し付けてきて、その感触にまた甘い吐息を漏らす。
「後悔するなよ」
「ん、しないよ。きもちぃから」
そう言う顔はやっぱり無邪気で、でも挑戦的で。
酔って抱いたふにゃふにゃのナルシュも可愛かったが、こっちのナルシュもいい。
とにかくナルシュならなんでもいいと、気づいた。
「ナル、お前もう俺とずっと一緒にいろ」
その柔らかさだけじゃない弾力のある尻を開いて、奥まで入り込む。
あっ、あっと喘ぎながらも縋りついてきて耳元で囁く。
「飽きさせるなよ」
負けた、完敗だと思った。
無敵のαでも敵わないもの、自分のΩには逆立ちしたって敵わない。
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