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エルドリッジの話

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──ヴァルテマ帝国。
絶えず国家間の紛争が絶えない地において、大小数多ある国、部族をまとめあげた武力国家。
大陸統一後は目立った紛争は起きてはいないがあちらこちらで小さな火種は燻っている。
その火種の一つが海を渡ったコラソン王国へ飛び火した。
その火種の収束を求めるべく結成された使節団にエルドリッジは志願した。

「エル、失恋したから旅に出るって勢いで行くところじゃないぞ、帝国は」
「兄さん、ダサいわね」

前者は兄のリスベルで、後者は妹のカティアだ。
うるせぇなんとでも言え、とエルドリッジは帝国へ旅立った。

王国から海を渡ったその先、船は海原をすいすいと進む。
雄大な青い絨毯のような海を見せてやったらはなんと言うだろうか。
きっとあのつぶらな瞳をキラキラと輝かせ、潮風に目を瞑って大きく深呼吸するのだろう。

帝国への玄関口とも言うべき港は大きく、とても栄えているように見えた。
人々の表情も悪くない。
港には軍用かと思われる鉄の装甲馬車が待っていた。
皇都からわざわざ出迎えてくれたそれで先を行く。
予め使者を立てておいたおかげで揉めることなく実に滑らかにいった。

皇都は一言でいえば城壁都市だ。
ぐるりと堀が巡らされ、跳ね橋を渡らないと中へは入れない。
街の中心にそびえ立ち一際大きく高い皇城はまるで要塞のようだった。


「そ、それで?」

リュカはゴクリと喉を鳴らして話の続きを待った。

「院長引き渡して、後は待てって言うから観光してた」

あっけらかんと言うエルドリッジにリュカはぽかんと口を開けた。
リスベルもアイザックも、既に知っている話なのか驚いた様子はない。

「夫人、我々が思うようなところでは無かったようです」
「リュシーはどんなところだと思ってた?」
「もっと荒れてて、殺伐としてるような・・・」
「あはは、花も咲いてたし民も笑ってたよ。店も普通に営業してたし、なんなら劇場で観劇もした。ま、皇都しか知らないからなんとも言えないけどね」
「どれくらい待ったのですか?」

十日くらいかなぁ、とエルドリッジは茶を飲んだ。



──十日後、エルドリッジ達は皇女と対面した。
父である皇帝は連合軍制圧に自ら指揮を執り不在だと言う。
空席の玉座の間で相対した皇女は燃えるような緋色の髪をひとつに束ねた美人で、ドレスではなく軍服姿だった。

「もし、そちらの子どもたちがこの帝国に残りたい。そう言ったらどうなさるおつもりか」
「それは本人の意思に任せます。ただ、コラソン王国はいつでも帰ってきて良い場所なのだということを伝えたい」

こればかりは無理強いできることではない、それでは連合軍と同じになってしまう。
皇女は鷹揚に頷き、それでいいと言った。

「そちらがどう思おうと、この地に住まう者はもう我らの子だ。例え、それが拐しであったとしても。無理をするならその首を刎ねてしまうところであった」



ひぃっとリュカは首を押さえ、隣のアイザックにすり寄った。

「だからね、帰って来なかった子達もいるよ。あちらで番を得た子もいるし、剣の道を選んだ子もいる」
「そう、ですか」

リュカの顔が曇る。

「リュカ、どうした?」
「アイク、僕達がしたことは良い事だったんですよね?」
「もちろん」
「僕達が介入したことで向こうに残った子達が不利なことになりませんよね?」
「ならないよ。あの豪胆な皇女が保護してるんだから。歯向かうものには容赦ないけど、手の内に入れたら徹底的に守る人だよ」

エルドリッジの真っ直ぐな物言いにリュカはようやく息を吐いた。

「じゃ、はいこれ」

エルドリッジが傍らに置いていた袋から出したのは一冊の本だった。
濃紺の表紙に銀糸で蔦が綺麗に刺繍が施されている。
中身は真っ白だった。

「これは?」
「お土産。いつもなんか書いてるだろ?」
「あ、ありがとうございます!」

リュカは喜び、アイザックはほんのちょっと嫌な顔をした。
それを見てエルドリッジが笑う。

「じゃあ、今度はそっちの番な」
「はい?」
「新月の晩に何があるのか教えろ」






※帝国の話は書けば長くなってBがLしなくなったのでかいつまんで、帰ってきた子もいるし帰らなかった子もいるよ、ということだけ。
また加筆修正するかもしれません。
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