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ルイスの提案
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リュカとアイザックの結婚式を見届けて、義両親はトルーマン領の保養地へ行ってしまった。
また二人だけになりたいらしい。
そんな早く出立しなくても、とも思ったが二人が仲睦まじいのはとても嬉しいので笑顔で見送った。
そして、またいつものリュカの日常が訪れる。
その日、リュカはサロンでひとりでお茶を飲んでいた。
エマが淹れる茶も美味しいがカーラの淹れる茶も大変美味しい。
マーサが焼いたジンジャークッキーをぽいと口に放り込みながら、膝に置かれた蝶の図鑑を見る。
細部まで繊細に描かれている蝶は美しい。
「ねえ、カーラ。アイクからもらった丸い帽子の全面にこの蝶の刺繍をするのはどうだろう?」
「そうですわねぇ」
カーラが頬に手を当てて考えこんでいるとノックと共にソルジュが現れた。
「奥様。ハルフォード様がお目通りしたいといらっしゃってます」
ルイスさんが?とリュカは目をぱちくりさせていいよと頷いた。
ルイスが公爵家にわざわざ赴くなんて何用だろうか。
カーラに茶の支度を頼んで、蝶の図鑑を閉じた。
「やぁ、ルカライン先生」
「・・・なにを企んでるの?」
「ひどい言い様だな」
ルイスは笑ってリュカの対面に腰掛けた。
普段はリュカと呼ぶのに先生呼びをするなどきっと何か企んでるに違いない。
はいこれ、と見せられたそれは『虹の向こうの幻の宮殿』の見本だった。
表紙の淡い紫に、タイトルの箔押しは茶灰色。
リュカの瞳とアイザックの髪の色。
とても綺麗にできている。
思わずため息が漏れて、そっと撫でてしまう。
「それで良ければ、刷り始めるぞ」
「はい。よろしくお願いします」
頭を下げたリュカにルイスは満足そうに笑って一枚の紙をテーブルに滑らせた。
それは全体的に茶色で薄くざらざらしている。
「茶でもこぼしたのですか?」
「やはりそう見えるか」
ルイスはくつくつと笑い、その紙をつまみあげた。
「キャスティ商会の職人がな、薬品の分量を間違えたらしい」
「なるほど。それで?」
「この紙で情報誌を作ろうと思う」
へぇ、と茶を飲み続けるリュカにルイスは話して聞かせた。
茶色で薄くざらざらした粗悪な紙は他に使い道がない。
そこをルイスが安く買取り、情報誌を作り安価でパブや売店などに置いてもらう。
情報誌に載せる店は広告料を払う、広告料が入ってくるので安価で売ることができる。
その広告を見て客が入れば、店にとっては利益になる。
「すごいですねぇ」
「だろ?」
「それでな、そこでルカライン先生に連載してもらおうかと思って」
はぁ、とリュカは首を傾げる。
「情報誌っても、ちょっとした娯楽は必要だと思うんだ」
「そうですね」
「次も買いたい、と思わせるような」
「確かに」
「そこで、恋愛物語を連載しないか?」
「・・・っ無理っ!無理無理無理むりーつ」
リュカは首をぶんぶんと振った。
振りすぎて目眩がする。
自分の恋愛経験などアイザックが全てなのだ。
それを書くだなんて絶対に無理だ。
「奥様!!」
ソファに倒れ込むリュカにカーラが駆け寄り、その背中を支えてくれた。
カーラにギロリと睨まれてもルイスは飄々としている。
「もうそろそろいいだろう?書けるようになったんじゃないか?」
「・・・無理です」
濡らしたタオルを持ってミラが真っ赤になったリュカの顔を拭う。
「まぁ、考えといてよ」
そう言ってルイスは立ち上がった。
お邪魔しましたぁ、と軽く言いながら手を振って帰る。
それを息も絶え絶えに見送った。
アイザックとのあれやこれやが頭の中を駆け巡っていく。
こんな恥ずかしいことはない。
リュカはまたきゅうと真っ赤になって倒れてしまった。
また二人だけになりたいらしい。
そんな早く出立しなくても、とも思ったが二人が仲睦まじいのはとても嬉しいので笑顔で見送った。
そして、またいつものリュカの日常が訪れる。
その日、リュカはサロンでひとりでお茶を飲んでいた。
エマが淹れる茶も美味しいがカーラの淹れる茶も大変美味しい。
マーサが焼いたジンジャークッキーをぽいと口に放り込みながら、膝に置かれた蝶の図鑑を見る。
細部まで繊細に描かれている蝶は美しい。
「ねえ、カーラ。アイクからもらった丸い帽子の全面にこの蝶の刺繍をするのはどうだろう?」
「そうですわねぇ」
カーラが頬に手を当てて考えこんでいるとノックと共にソルジュが現れた。
「奥様。ハルフォード様がお目通りしたいといらっしゃってます」
ルイスさんが?とリュカは目をぱちくりさせていいよと頷いた。
ルイスが公爵家にわざわざ赴くなんて何用だろうか。
カーラに茶の支度を頼んで、蝶の図鑑を閉じた。
「やぁ、ルカライン先生」
「・・・なにを企んでるの?」
「ひどい言い様だな」
ルイスは笑ってリュカの対面に腰掛けた。
普段はリュカと呼ぶのに先生呼びをするなどきっと何か企んでるに違いない。
はいこれ、と見せられたそれは『虹の向こうの幻の宮殿』の見本だった。
表紙の淡い紫に、タイトルの箔押しは茶灰色。
リュカの瞳とアイザックの髪の色。
とても綺麗にできている。
思わずため息が漏れて、そっと撫でてしまう。
「それで良ければ、刷り始めるぞ」
「はい。よろしくお願いします」
頭を下げたリュカにルイスは満足そうに笑って一枚の紙をテーブルに滑らせた。
それは全体的に茶色で薄くざらざらしている。
「茶でもこぼしたのですか?」
「やはりそう見えるか」
ルイスはくつくつと笑い、その紙をつまみあげた。
「キャスティ商会の職人がな、薬品の分量を間違えたらしい」
「なるほど。それで?」
「この紙で情報誌を作ろうと思う」
へぇ、と茶を飲み続けるリュカにルイスは話して聞かせた。
茶色で薄くざらざらした粗悪な紙は他に使い道がない。
そこをルイスが安く買取り、情報誌を作り安価でパブや売店などに置いてもらう。
情報誌に載せる店は広告料を払う、広告料が入ってくるので安価で売ることができる。
その広告を見て客が入れば、店にとっては利益になる。
「すごいですねぇ」
「だろ?」
「それでな、そこでルカライン先生に連載してもらおうかと思って」
はぁ、とリュカは首を傾げる。
「情報誌っても、ちょっとした娯楽は必要だと思うんだ」
「そうですね」
「次も買いたい、と思わせるような」
「確かに」
「そこで、恋愛物語を連載しないか?」
「・・・っ無理っ!無理無理無理むりーつ」
リュカは首をぶんぶんと振った。
振りすぎて目眩がする。
自分の恋愛経験などアイザックが全てなのだ。
それを書くだなんて絶対に無理だ。
「奥様!!」
ソファに倒れ込むリュカにカーラが駆け寄り、その背中を支えてくれた。
カーラにギロリと睨まれてもルイスは飄々としている。
「もうそろそろいいだろう?書けるようになったんじゃないか?」
「・・・無理です」
濡らしたタオルを持ってミラが真っ赤になったリュカの顔を拭う。
「まぁ、考えといてよ」
そう言ってルイスは立ち上がった。
お邪魔しましたぁ、と軽く言いながら手を振って帰る。
それを息も絶え絶えに見送った。
アイザックとのあれやこれやが頭の中を駆け巡っていく。
こんな恥ずかしいことはない。
リュカはまたきゅうと真っ赤になって倒れてしまった。
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