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尾行と兄

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休日の昼下がり遅い朝食兼昼食をとってリュカはアイクに抱かれながらソファに座っていた。
休日のリュカの朝は、遅い。
それというのも日を跨ぐとアイザックが本気を出すからだ。
平日は概ねリュカの意向を汲んでくれるその反動なのかもしれない。

「犬種は特に決まってないみたいですね」
「そうだな。ただ、スプリントはウィペス、ミドルやロングはグレイハッズ辺りが多いな」

アイザックが持ち帰った資料を見て、ふむとリュカは考えた。
アリアス商会には監査が入るが、この犬飼達に監査が入ることはない。

「アリアスではなにを見てるんです?」
「大まかに言えば金の流れと衛生環境と営業時間かな。あとは、まぁ賭博だからね」
「ん?」
「裏に違法な金貸しがいないか?とかね」
「はぁ、なるほど」
「今のところ綺麗だよ」

ふぅん、とバサッと資料をテーブルに置いてリュカは目を閉じた。
気にしすぎだったのかな、と思う。
相手は動物なのだから上手くいくことばかりではないし、負けたり勝ったりなんて絶対は無いんだろう。

「納得した?」
「はい。気にしすぎだったのかも。あ、担当は?」
「あぁ、亡くなった前会長の三男のラナだ」

ふぅんと思ったところでノックも無しに二人の部屋の扉が開いた。

「リュカ!尾行しようぜ!」
「なに言ってるの。あとノックくらいしてよ」
「尾行?」
「今日、お兄様が掲示板で知り合った人と会うみたいなんです」
「へぇ」
「行かないならお小遣いちょうだい」

へらへらと手を出すのをどうしてくれようか。

「リュカ、行った方がいいんじゃないか?」
「いいんですか?」
「これを一人行かせるよりはマシだろう」

これ呼ばわりされてもナルシュは何処吹く風だ。

というわけでリュカ達は今、路地裏に潜んで広場を見張っているナルシュを見張っている。
ナルシュが余計な事をしないように見張るのがリュカ達だ。
広場ではジェラールが一冊の本を持ってベンチに座っている。
読んでいないのであれが目印なのかもしれない。

「しかし、義兄上も別に掲示板など使わなくてもなぁ・・・」

アイザックが零した言葉に、言っていいものかとリュカは悩んだ。
ジェラールに言い寄る人々が公爵家目当てだということを。

「なにをされてるんですか?」

突然背後からかけられた声にひぇっとリュカは飛び上がった。

「ニコラスじゃないか。そっちこそどうした?」
「今日は非番なので買い物に」
「あ、来ました!」

リュカの声にアイザックもニコラスも広場に目を向ける。
そこではジェラールと同じように本を持った男が声をかけていた。

「あいつ・・・」
「小兄様の知ってる人?」
「ドッグレースでよく見かける顔だ」
「え?」

ひそひそこそこそと話すうちに二人は連れだって歩いていく。
行くぞ、とナルシュの合図で尾行する。
なぜかニコラスも一緒に。

「なんですか?これは」
「義兄上が掲示板で知り合った人とデートらしいんだ」
「デート?掲示板?」

アイザックはニコラスに事の経緯を伝えた。
それにつれ、どんどんとニコラスが顔色を失っていく。

「ちょっと!あんたらうるさいよ」
「すまん」
「アイクに向かってなんて口の利き方するの!」
「バレるだろうが!」

露店の影に、路地裏にと隠れて移動しながらリュカとナルシュはひそひそと喧嘩しながら追っていく。
幸いにも尾行に勘づかれている様子はない。
辿り着いた先は『泳ぐ羊亭』で魚のパイ包みが有名な店だ。

「リュカ、俺たちも行くぞ」
「お金は?」
「旦那が持ってんだろ?」
「そういうところを直して!」

べしっとリュカに頭をはたかれてもナルシュは全く気にしない。

「あ、あの私がご馳走します」
「ニコラス、なんでお前が・・・」
「き、きね、今日出会えた記念に」
「めっちゃいいやつじゃん」

ナルシュはニコラスの腕をがっしと掴んで店へ引きずっていった。

「いらっしゃ──・・・んむっ」

ナルシュは声をあげた店員の口を押さえて、静かにと言う。

「俺たちは国の特務機関で重大任務の為にここにいる。さっき入っていった二人連れの席はどこだ」

あまりの言い様にリュカ達は目を剥いた。
そんな機関は無い。
口を押さえられたままの店員が指さした奥の席は衝立で仕切られていて、こちらからは二人がいるかどうかは見えなかった。


衝立で遮られた席でリュカ達は息を潜めて、隣の席から漏れ聞こえてくる話に耳を傾けていた。
ただ一人ナルシュだけは魚のパイ包みを食べているが。
どうやらジェラールの相手は小さな骨董品屋をやっているが、両親が買取で騙されて多額の借金を背負ってしまったらしい。
時折聞こえる嗚咽は相手が涙ながらに語っているからだ。
ジェラールの声音も宥めるように親身になって聞いている。

「絶対、騙されてる」
「俺もそう思う」

どうしようか、とこそこそ話していると食べ終わったナルシュが立ち上がった。

「面白い話してるな。俺にも聞かせてくれよ」


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