96 / 190
尾行と兄
しおりを挟む
休日の昼下がり遅い朝食兼昼食をとってリュカはアイクに抱かれながらソファに座っていた。
休日のリュカの朝は、遅い。
それというのも日を跨ぐとアイザックが本気を出すからだ。
平日は概ねリュカの意向を汲んでくれるその反動なのかもしれない。
「犬種は特に決まってないみたいですね」
「そうだな。ただ、スプリントはウィペス、ミドルやロングはグレイハッズ辺りが多いな」
アイザックが持ち帰った資料を見て、ふむとリュカは考えた。
アリアス商会には監査が入るが、この犬飼達に監査が入ることはない。
「アリアスではなにを見てるんです?」
「大まかに言えば金の流れと衛生環境と営業時間かな。あとは、まぁ賭博だからね」
「ん?」
「裏に違法な金貸しがいないか?とかね」
「はぁ、なるほど」
「今のところ綺麗だよ」
ふぅん、とバサッと資料をテーブルに置いてリュカは目を閉じた。
気にしすぎだったのかな、と思う。
相手は動物なのだから上手くいくことばかりではないし、負けたり勝ったりなんて絶対は無いんだろう。
「納得した?」
「はい。気にしすぎだったのかも。あ、担当は?」
「あぁ、亡くなった前会長の三男のラナだ」
ふぅんと思ったところでノックも無しに二人の部屋の扉が開いた。
「リュカ!尾行しようぜ!」
「なに言ってるの。あとノックくらいしてよ」
「尾行?」
「今日、お兄様が掲示板で知り合った人と会うみたいなんです」
「へぇ」
「行かないならお小遣いちょうだい」
へらへらと手を出すのをどうしてくれようか。
「リュカ、行った方がいいんじゃないか?」
「いいんですか?」
「これを一人行かせるよりはマシだろう」
これ呼ばわりされてもナルシュは何処吹く風だ。
というわけでリュカ達は今、路地裏に潜んで広場を見張っているナルシュを見張っている。
ナルシュが余計な事をしないように見張るのがリュカ達だ。
広場ではジェラールが一冊の本を持ってベンチに座っている。
読んでいないのであれが目印なのかもしれない。
「しかし、義兄上も別に掲示板など使わなくてもなぁ・・・」
アイザックが零した言葉に、言っていいものかとリュカは悩んだ。
ジェラールに言い寄る人々が公爵家目当てだということを。
「なにをされてるんですか?」
突然背後からかけられた声にひぇっとリュカは飛び上がった。
「ニコラスじゃないか。そっちこそどうした?」
「今日は非番なので買い物に」
「あ、来ました!」
リュカの声にアイザックもニコラスも広場に目を向ける。
そこではジェラールと同じように本を持った男が声をかけていた。
「あいつ・・・」
「小兄様の知ってる人?」
「ドッグレースでよく見かける顔だ」
「え?」
ひそひそこそこそと話すうちに二人は連れだって歩いていく。
行くぞ、とナルシュの合図で尾行する。
なぜかニコラスも一緒に。
「なんですか?これは」
「義兄上が掲示板で知り合った人とデートらしいんだ」
「デート?掲示板?」
アイザックはニコラスに事の経緯を伝えた。
それにつれ、どんどんとニコラスが顔色を失っていく。
「ちょっと!あんたらうるさいよ」
「すまん」
「アイクに向かってなんて口の利き方するの!」
「バレるだろうが!」
露店の影に、路地裏にと隠れて移動しながらリュカとナルシュはひそひそと喧嘩しながら追っていく。
幸いにも尾行に勘づかれている様子はない。
辿り着いた先は『泳ぐ羊亭』で魚のパイ包みが有名な店だ。
「リュカ、俺たちも行くぞ」
「お金は?」
「旦那が持ってんだろ?」
「そういうところを直して!」
べしっとリュカに頭をはたかれてもナルシュは全く気にしない。
「あ、あの私がご馳走します」
「ニコラス、なんでお前が・・・」
「き、きね、今日出会えた記念に」
「めっちゃいいやつじゃん」
ナルシュはニコラスの腕をがっしと掴んで店へ引きずっていった。
「いらっしゃ──・・・んむっ」
ナルシュは声をあげた店員の口を押さえて、静かにと言う。
「俺たちは国の特務機関で重大任務の為にここにいる。さっき入っていった二人連れの席はどこだ」
あまりの言い様にリュカ達は目を剥いた。
そんな機関は無い。
口を押さえられたままの店員が指さした奥の席は衝立で仕切られていて、こちらからは二人がいるかどうかは見えなかった。
衝立で遮られた席でリュカ達は息を潜めて、隣の席から漏れ聞こえてくる話に耳を傾けていた。
ただ一人ナルシュだけは魚のパイ包みを食べているが。
どうやらジェラールの相手は小さな骨董品屋をやっているが、両親が買取で騙されて多額の借金を背負ってしまったらしい。
時折聞こえる嗚咽は相手が涙ながらに語っているからだ。
ジェラールの声音も宥めるように親身になって聞いている。
「絶対、騙されてる」
「俺もそう思う」
どうしようか、とこそこそ話していると食べ終わったナルシュが立ち上がった。
「面白い話してるな。俺にも聞かせてくれよ」
休日のリュカの朝は、遅い。
それというのも日を跨ぐとアイザックが本気を出すからだ。
平日は概ねリュカの意向を汲んでくれるその反動なのかもしれない。
「犬種は特に決まってないみたいですね」
「そうだな。ただ、スプリントはウィペス、ミドルやロングはグレイハッズ辺りが多いな」
アイザックが持ち帰った資料を見て、ふむとリュカは考えた。
アリアス商会には監査が入るが、この犬飼達に監査が入ることはない。
「アリアスではなにを見てるんです?」
「大まかに言えば金の流れと衛生環境と営業時間かな。あとは、まぁ賭博だからね」
「ん?」
「裏に違法な金貸しがいないか?とかね」
「はぁ、なるほど」
「今のところ綺麗だよ」
ふぅん、とバサッと資料をテーブルに置いてリュカは目を閉じた。
気にしすぎだったのかな、と思う。
相手は動物なのだから上手くいくことばかりではないし、負けたり勝ったりなんて絶対は無いんだろう。
「納得した?」
「はい。気にしすぎだったのかも。あ、担当は?」
「あぁ、亡くなった前会長の三男のラナだ」
ふぅんと思ったところでノックも無しに二人の部屋の扉が開いた。
「リュカ!尾行しようぜ!」
「なに言ってるの。あとノックくらいしてよ」
「尾行?」
「今日、お兄様が掲示板で知り合った人と会うみたいなんです」
「へぇ」
「行かないならお小遣いちょうだい」
へらへらと手を出すのをどうしてくれようか。
「リュカ、行った方がいいんじゃないか?」
「いいんですか?」
「これを一人行かせるよりはマシだろう」
これ呼ばわりされてもナルシュは何処吹く風だ。
というわけでリュカ達は今、路地裏に潜んで広場を見張っているナルシュを見張っている。
ナルシュが余計な事をしないように見張るのがリュカ達だ。
広場ではジェラールが一冊の本を持ってベンチに座っている。
読んでいないのであれが目印なのかもしれない。
「しかし、義兄上も別に掲示板など使わなくてもなぁ・・・」
アイザックが零した言葉に、言っていいものかとリュカは悩んだ。
ジェラールに言い寄る人々が公爵家目当てだということを。
「なにをされてるんですか?」
突然背後からかけられた声にひぇっとリュカは飛び上がった。
「ニコラスじゃないか。そっちこそどうした?」
「今日は非番なので買い物に」
「あ、来ました!」
リュカの声にアイザックもニコラスも広場に目を向ける。
そこではジェラールと同じように本を持った男が声をかけていた。
「あいつ・・・」
「小兄様の知ってる人?」
「ドッグレースでよく見かける顔だ」
「え?」
ひそひそこそこそと話すうちに二人は連れだって歩いていく。
行くぞ、とナルシュの合図で尾行する。
なぜかニコラスも一緒に。
「なんですか?これは」
「義兄上が掲示板で知り合った人とデートらしいんだ」
「デート?掲示板?」
アイザックはニコラスに事の経緯を伝えた。
それにつれ、どんどんとニコラスが顔色を失っていく。
「ちょっと!あんたらうるさいよ」
「すまん」
「アイクに向かってなんて口の利き方するの!」
「バレるだろうが!」
露店の影に、路地裏にと隠れて移動しながらリュカとナルシュはひそひそと喧嘩しながら追っていく。
幸いにも尾行に勘づかれている様子はない。
辿り着いた先は『泳ぐ羊亭』で魚のパイ包みが有名な店だ。
「リュカ、俺たちも行くぞ」
「お金は?」
「旦那が持ってんだろ?」
「そういうところを直して!」
べしっとリュカに頭をはたかれてもナルシュは全く気にしない。
「あ、あの私がご馳走します」
「ニコラス、なんでお前が・・・」
「き、きね、今日出会えた記念に」
「めっちゃいいやつじゃん」
ナルシュはニコラスの腕をがっしと掴んで店へ引きずっていった。
「いらっしゃ──・・・んむっ」
ナルシュは声をあげた店員の口を押さえて、静かにと言う。
「俺たちは国の特務機関で重大任務の為にここにいる。さっき入っていった二人連れの席はどこだ」
あまりの言い様にリュカ達は目を剥いた。
そんな機関は無い。
口を押さえられたままの店員が指さした奥の席は衝立で仕切られていて、こちらからは二人がいるかどうかは見えなかった。
衝立で遮られた席でリュカ達は息を潜めて、隣の席から漏れ聞こえてくる話に耳を傾けていた。
ただ一人ナルシュだけは魚のパイ包みを食べているが。
どうやらジェラールの相手は小さな骨董品屋をやっているが、両親が買取で騙されて多額の借金を背負ってしまったらしい。
時折聞こえる嗚咽は相手が涙ながらに語っているからだ。
ジェラールの声音も宥めるように親身になって聞いている。
「絶対、騙されてる」
「俺もそう思う」
どうしようか、とこそこそ話していると食べ終わったナルシュが立ち上がった。
「面白い話してるな。俺にも聞かせてくれよ」
1
お気に入りに追加
1,562
あなたにおすすめの小説
婚約者は愛を見つけたらしいので、不要になった僕は君にあげる
カシナシ
BL
「アシリス、すまない。婚約を解消してくれ」
そう告げられて、僕は固まった。5歳から13年もの間、婚約者であるキール殿下に尽くしてきた努力は一体何だったのか?
殿下の隣には、可愛らしいオメガの男爵令息がいて……。
サクッとエロ&軽めざまぁ。
全10話+番外編(別視点)数話
本編約二万文字、完結しました。
※HOTランキング最高位6位、頂きました。たくさんの閲覧、ありがとうございます!
※本作の数年後のココルとキールを描いた、
『訳ありオメガは罪の証を愛している』
も公開始めました。読む際は注意書きを良く読んで下さると幸いです!
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
傾国の美青年
春山ひろ
BL
僕は、ガブリエル・ローミオ二世・グランフォルド、グランフォルド公爵の嫡男7歳です。オメガの母(元王子)とアルファで公爵の父との政略結婚で生まれました。周りは「運命の番」ではないからと、美貌の父上に姦しくオメガの令嬢令息がうるさいです。僕は両親が大好きなので守って見せます!なんちゃって中世風の異世界です。設定はゆるふわ、本文中にオメガバースの説明はありません。明るい母と美貌だけど感情表現が劣化した父を持つ息子の健気な奮闘記?です。他のサイトにも掲載しています。
孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
婚約者は俺にだけ冷たい
円みやび
BL
藍沢奏多は王子様と噂されるほどのイケメン。
そんなイケメンの婚約者である古川優一は日々の奏多の行動に傷つきながらも文句を言えずにいた。
それでも過去の思い出から奏多との別れを決意できない優一。
しかし、奏多とΩの絡みを見てしまい全てを終わらせることを決める。
ザマァ系を期待している方にはご期待に沿えないかもしれません。
前半は受け君がだいぶ不憫です。
他との絡みが少しだけあります。
あまりキツイ言葉でコメントするのはやめて欲しいです。
ただの素人の小説です。
ご容赦ください。
俺のこと、冷遇してるんだから離婚してくれますよね?〜王妃は国王の隠れた溺愛に気付いてない〜
明太子
BL
伯爵令息のエスメラルダは幼い頃から恋心を抱いていたレオンスタリア王国の国王であるキースと結婚し、王妃となった。
しかし、当のキースからは冷遇され、1人寂しく別居生活を送っている。
それでもキースへの想いを捨てきれないエスメラルダ。
だが、その思いも虚しく、エスメラルダはキースが別の令嬢を新しい妃を迎えようとしている場面に遭遇してしまう。
流石に心が折れてしまったエスメラルダは離婚を決意するが…?
エスメラルダの一途な初恋はキースに届くのか?
そして、キースの本当の気持ちは?
分かりづらい伏線とそこそこのどんでん返しありな喜怒哀楽激しめ王妃のシリアス?コメディ?こじらせ初恋BLです!
※R指定は保険です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる