その愛は契約に含まれますか?[本編終了]

谷絵 ちぐり

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一直線の兄

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パブへ行く、と言い張るナルシュを縛りあげて馬車へ放り込む。
今度こそ辻に葬られるかもしれない、とナルシュの心臓が早くなった。
反面、最後にブラックスカイ号を拝めたからいっか、とも思っていた。

「ドッグレース場の責任者はアリアス商会の誰なんですか?」
「誰だったかな。明日、調べておくよ」
「不正はないんですよね?」

うん、と頷くのを見てリュカは考える。
国の監査、しかも抜き打ちで行われるのを免れる方法はかなり難しいだろう。
ということは健全経営なのか。

「小兄様、あの犬達はどこから?」
「あぁ、登録してある犬飼いが連れてくるんだよ」

縛られ転がされたままナルシュは答える。
あのブラックスカイ号のとろりとした目、どうしても気になる。
明らかに他の犬とは違う目、合わせて勝った犬の目も他とは違った。
あの二頭だけが雰囲気が違った。

「その犬飼を国は把握してますか?」
「いや、そこまではさすがにしてないな」
「でも、アリアスにはその資料がありますよね?」

にんまりとリュカが笑ったと同時に馬車が止まった。
悪い予感しかしないアイザックとは別に、ナルシュの目は輝いていた。

「小兄様、離れ家に帰る前にお兄様の文はどこ?」
「あ、読む?」
「読むわけないでしょ」
「あー、うん」

後ろ手に縛られたままじりじりと後退するナルシュ。

「まさか」
「いや、封蝋がな、甘かったんだよ」
「読んだの?」

こくりと頷くナルシュに呆れてものが言えない。
人の文を読むだなんて、それはもう心の内を覗くのと同じで許されることではない。

「小兄様!!」

ナルシュはぴゅうと音が出そうなほどの速さで離れ家へ逃げていった。
後ろ手に縛られたままにしてはとても速い。
玄関ホールに取り残されたリュカは脱力した。

「アイク・・・」
「ん?」
「疲れました」
「うん」
「抱っこ」

しょうがないなぁ、と言うアイザックに抱かれてリュカは夫夫の部屋に戻った。
エマに茶を淹れてもらい、夕食代わりの軽食を食べる。
ふわふわの白パンに、甘いいちごジャムとカスタードクリームを挟んでほんの少し炙って食べる。

「しかし、義兄上も迂闊だな」
「なにがですか?」
「封蝋だよ」
「あぁ。きっと小兄様が勝手に開けたんですよ。火でペーパーナイフを炙るんです。それを封蝋と封筒の間に滑り込ませて開けるんです」
「そんなこと・・・」
「できるんです、あの人は。昔からいたずらばっかりで」

ペーパーナイフは動きが遅いと蝋が溶けだし、早いと紙を傷つける。
絶妙な動きのそれはナルシュの得意技だ。

「ナルシュなりに義兄上を心配してるんじゃないか?」
「まぁ、そうなんでしょうけど。やり方のタチが悪いというか」
「盗み見は良くないな」
「はい。興味のあることには一直線になるので・・・」
「それはリュカもだぞ」

肩を縮こまらせて小さくなったリュカは、ごめんなさいと謝った。
そう、そんなのは自分でもわかっている。
好奇心旺盛で知りたがりは、他人のことなんて言えやしない。
自分のことを棚上げしてそんなこと言うのは駄目だ。

「・・・嫌いになりますか?」
「誰を?」
「僕を」
「ならないよ」

ふっとアイザックは息を吐いて優しく笑んでリュカを抱き寄せる。

「ならないけど、目の届くところにいないと心配にはなるな」
「はい」
「勝手に動くなよ?」
「はい」
「本当に?」

返事の代わりにリュカはぎゅうと抱きついた。


次の日、リュカはナルシュからジェラールの文の内容を聞かされた。
それによると今度の休日に対面するらしい。
尾行しようぜ、と言ったナルシュの額をリュカはペチンと叩いた。


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