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甘い結末
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真っ白で丸くてもちもちのだんごは今、真っ黒で三個まとめて串に刺さっている。
一つ齧るとパリッと表面のショコラが子気味いい音を立てる。
口の中に入れるとショコラが蕩けてだんごに絡まってもちもちと甘いショコラが絶妙な均衡を保ちながら喉を滑り落ちていく。
パリッもちパリッもちパリッもちパリッもち・・・
「リュカ?・・・リュカ!」
「ふぁい」
「夢中になりすぎだ。何本目だそれ」
「まらさんほんれふ」
「もう三本だ」
広場のベンチに座りだんごを頬張るリュカ。
辺りはワイワイガヤガヤと騒がしい。
甘い匂いに包まれた広場に集まる人々は皆同じ顔をしている。
にこにこ、うふふ、きゃっきゃっとはしゃいでいる。
空は快晴、時折吹き抜ける風は甘い匂いを乗せてまた人を呼び込む。
甘味大会は大盛況だった。
「上手くいって良かったな」
「はい。リゼットがあそこまでするとは思ってませんでした」
あの日、リュカはリゼットにこう言った。
──拗れすぎてるともう当人の話し合いではなんともならないから、実力行使に出た方が良い。
当人達は放っておいて回りがどんどん進んで外堀を埋めていけ。
結果が出ればまた考えも変わるだろう。
多少、強引でもかまわない。
リゼットはまず三葉の従業員に接触を図り、このままでは三葉は潰れ失職するぞと脅した。
そこから三葉の従業員を懐柔し情報を流させた。
甘味大会では外でも食べられるようにだんごを串に刺すという。
これだ!と思ったリゼットは甘味大会当日、夜明け前に三葉に突撃。
義両親を私室に閉じ込めることに成功。
あとは従業員総出でショコラだんごを作った。
あらかじめ串に刺さっただんごを蕩けたショコラの海につけ冷やしていく。
冷えただんごに冷えた空気でショコラはパリッと固まった。
「大女将笑ってますねぇ」
「あのひょろっこいのが大旦那だろうか」
「そうみたいですね」
大女将と大旦那らしき男は笑みを絶やさず、額に汗してだんごを売っている。
古臭いと、見目が地味と言われただんごは飛ぶように売れていく。
伝統よりなにより食べてくれる客の笑顔の方が尊いのだ。
「おい」
「あら、ルイスさん。こんにちは」
「またなにをやったんだ。三葉が情報誌のことを謝りにきたぞ」
「へぇ」
苦虫を噛み潰したようなルイスの顔にリュカとアイザックは顔を見合わせた。
「なにも。ただほんの少し策を講じただけです」
「それを実行したのは瑠璃色だ。俺たちはなにもしてないぞ」
なぁ?とアイザックに肩を抱かれてリュカも頷いた。
はぁーと大きく嘆息したルイスはサラリとこぼれた髪をかきあげた。
「お前さんには恐れ入ったよ、結局リュカの良いように回ってる」
「そんなことありませんよ。僕はただ美味しい菓子が食べたかっただけです」
「それだよ、リュカは素直なんだ。裏がなさそうに見えるから皆がリュカに振り回されて、結局は上手くいく。それがリュカの魅力だ」
肩に回るアイザックの手に力がこもる。
最後にルイスはニヤリと口の端を持ち上げた。
「そんな怖い顔するなよ。君よりもリュカとは付き合いが長いんだ。君が知らないリュカを俺はよーく知ってる」
二ヒヒと笑いながら、ありがとなとルイスは手を振って去っていった。
「リュ・」
「アイク、それ以上言ったら僕はベルフィール殿下のことに言及しますよ」
「・・・」
「これまでの二人の時間を大切にして、これからの二人の時間に愛を注げばいいでしょう?」
こてりとアイザックの肩に頭を乗せれば肩が揺れる。
見れば困ったような嬉しいようなそんな顔。
「リュカには敵わない」
「僕もアイクには敵いません」
「そうか?」
「だって好きな人には敵わないものでしょう?」
クスクスとリュカは笑って、アイザックはやっぱり敵わないと同じように笑った。
甘味大会は盛況のまま幕を閉じた。
出店した店はほぼ完売し、順位に関係なく晴れ晴れとした顔をしていた。
一番は『鈴鳴茶屋』のポルンという菓子だった。
見た目は分厚いクッキーなのに口に入れるとシュワっと溶けてなくなる不思議な菓子。
プレーンはほの甘いミルクの後味で、ココアはほろ苦く、いちごは甘酸っぱい。
ポルンは商店街の端にある小さな茶屋で若き店主は飛び上がって喜んだ。
発表するのは要らぬ争いを生まぬ為に一番だけ。
あとは全部二番。
ハルフォード商会主催の甘味大会は、次から商店組合が協賛し毎年行われることとなった。
リュカはまた美味しい菓子が集まるのか、とうきうきわくわくと来年に思いを馳せた。
その来年、リュカは三葉の新商品に驚くことになる。
もちもちだんごはその製法を工夫し、薄く伸ばしてショコラクリームといちごを丸々一個包み込んで販売する。
瑠璃色は、パイの中にショコラとだんごを入れたショコラもちパイを販売する。
さて勝敗はどちらか、それはまた別のお話。
一つ齧るとパリッと表面のショコラが子気味いい音を立てる。
口の中に入れるとショコラが蕩けてだんごに絡まってもちもちと甘いショコラが絶妙な均衡を保ちながら喉を滑り落ちていく。
パリッもちパリッもちパリッもちパリッもち・・・
「リュカ?・・・リュカ!」
「ふぁい」
「夢中になりすぎだ。何本目だそれ」
「まらさんほんれふ」
「もう三本だ」
広場のベンチに座りだんごを頬張るリュカ。
辺りはワイワイガヤガヤと騒がしい。
甘い匂いに包まれた広場に集まる人々は皆同じ顔をしている。
にこにこ、うふふ、きゃっきゃっとはしゃいでいる。
空は快晴、時折吹き抜ける風は甘い匂いを乗せてまた人を呼び込む。
甘味大会は大盛況だった。
「上手くいって良かったな」
「はい。リゼットがあそこまでするとは思ってませんでした」
あの日、リュカはリゼットにこう言った。
──拗れすぎてるともう当人の話し合いではなんともならないから、実力行使に出た方が良い。
当人達は放っておいて回りがどんどん進んで外堀を埋めていけ。
結果が出ればまた考えも変わるだろう。
多少、強引でもかまわない。
リゼットはまず三葉の従業員に接触を図り、このままでは三葉は潰れ失職するぞと脅した。
そこから三葉の従業員を懐柔し情報を流させた。
甘味大会では外でも食べられるようにだんごを串に刺すという。
これだ!と思ったリゼットは甘味大会当日、夜明け前に三葉に突撃。
義両親を私室に閉じ込めることに成功。
あとは従業員総出でショコラだんごを作った。
あらかじめ串に刺さっただんごを蕩けたショコラの海につけ冷やしていく。
冷えただんごに冷えた空気でショコラはパリッと固まった。
「大女将笑ってますねぇ」
「あのひょろっこいのが大旦那だろうか」
「そうみたいですね」
大女将と大旦那らしき男は笑みを絶やさず、額に汗してだんごを売っている。
古臭いと、見目が地味と言われただんごは飛ぶように売れていく。
伝統よりなにより食べてくれる客の笑顔の方が尊いのだ。
「おい」
「あら、ルイスさん。こんにちは」
「またなにをやったんだ。三葉が情報誌のことを謝りにきたぞ」
「へぇ」
苦虫を噛み潰したようなルイスの顔にリュカとアイザックは顔を見合わせた。
「なにも。ただほんの少し策を講じただけです」
「それを実行したのは瑠璃色だ。俺たちはなにもしてないぞ」
なぁ?とアイザックに肩を抱かれてリュカも頷いた。
はぁーと大きく嘆息したルイスはサラリとこぼれた髪をかきあげた。
「お前さんには恐れ入ったよ、結局リュカの良いように回ってる」
「そんなことありませんよ。僕はただ美味しい菓子が食べたかっただけです」
「それだよ、リュカは素直なんだ。裏がなさそうに見えるから皆がリュカに振り回されて、結局は上手くいく。それがリュカの魅力だ」
肩に回るアイザックの手に力がこもる。
最後にルイスはニヤリと口の端を持ち上げた。
「そんな怖い顔するなよ。君よりもリュカとは付き合いが長いんだ。君が知らないリュカを俺はよーく知ってる」
二ヒヒと笑いながら、ありがとなとルイスは手を振って去っていった。
「リュ・」
「アイク、それ以上言ったら僕はベルフィール殿下のことに言及しますよ」
「・・・」
「これまでの二人の時間を大切にして、これからの二人の時間に愛を注げばいいでしょう?」
こてりとアイザックの肩に頭を乗せれば肩が揺れる。
見れば困ったような嬉しいようなそんな顔。
「リュカには敵わない」
「僕もアイクには敵いません」
「そうか?」
「だって好きな人には敵わないものでしょう?」
クスクスとリュカは笑って、アイザックはやっぱり敵わないと同じように笑った。
甘味大会は盛況のまま幕を閉じた。
出店した店はほぼ完売し、順位に関係なく晴れ晴れとした顔をしていた。
一番は『鈴鳴茶屋』のポルンという菓子だった。
見た目は分厚いクッキーなのに口に入れるとシュワっと溶けてなくなる不思議な菓子。
プレーンはほの甘いミルクの後味で、ココアはほろ苦く、いちごは甘酸っぱい。
ポルンは商店街の端にある小さな茶屋で若き店主は飛び上がって喜んだ。
発表するのは要らぬ争いを生まぬ為に一番だけ。
あとは全部二番。
ハルフォード商会主催の甘味大会は、次から商店組合が協賛し毎年行われることとなった。
リュカはまた美味しい菓子が集まるのか、とうきうきわくわくと来年に思いを馳せた。
その来年、リュカは三葉の新商品に驚くことになる。
もちもちだんごはその製法を工夫し、薄く伸ばしてショコラクリームといちごを丸々一個包み込んで販売する。
瑠璃色は、パイの中にショコラとだんごを入れたショコラもちパイを販売する。
さて勝敗はどちらか、それはまた別のお話。
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