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甘い調査

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信頼とはなんだろうか、とリュカは思っていた。
確かに自分は好奇心旺盛だし、知りたがりだと思う。
好奇心は猫をも殺すというが自分がそんなことを猫にするわけがない。
あと単純に猫は可愛い。

「いいか!?ジェリー、しっかりリュカを見張るんだぞ」
「あぁぁああい、だぁぁんなぁぁさぁぁまぁぁー」

もう本音を隠すつもりもないアイザックはジェリーの肩をガクガク揺さぶっている。
そんなにも信用がないのか、自分は。

「アイク、三葉茶屋にもちもちだんごを食べに行くだけです」
「それだけじゃ終わらんだろ、リュカは!」
「お土産買ってきますから」

そういうことじゃない、そう言いながらアイザックは出仕して行った。
さて、とリュカはくるりと振り返った。
既視感に使用人一同が震えた瞬間である。

「今日は、男風にしてほしい」
「あの、奥様。具体的には?」
「なんかこうパリッとした感じで。アイクみたいに」
「無理でございます」

侍女達が一斉に頭を下げた。解せぬ。


城下へ向かう馬車内でリュカはぶうたれていた。
結局着せられたのは薄茶地に黒のガンクラブチェックのスーツでハンチングを被らされた。
ハンチングはスーツに合わせて薄茶で金糸で三連星が刺してあった。

「子どもみたい」
「まぁまぁ、半ズボンじゃなくてよかった」

窘めるジェリーの顔がニヤついているのは気のせいではない。
絶対に面白がっている。

「ハルフォード商会の人みたいに見える?」
「またなにを考えてるんすか」
「記者を装って近づこうかと」

やめてくださいよ、とジェリーは呆れた。
貴族街を抜けてそこで馬車を降りる。
チラと振り返るとプラハーとサッチも距離を置いてついてきている。
どうせなら四人でだんごを食べよう。
と、その前に。

「クルト!」
「奥様、またなんですか」
「今日はね、三葉茶屋のことを教えてもらいにきた」
「あぁ、メアリー婆さんの」
「メアリーさんっていうの?」
「商店組合の前会長っすよ」
「怖い?」
「全然。優しい婆さんです。ピコピコの日が成功したのはあの婆さんが賛同したからってのも少なからずありますよ」

三葉茶屋の大女将のメアリーは人望ある人で、この城下にある飲食店をまとめあげたやり手だという。
クルトの言う優しいと、先日出くわした剣幕とはどうも結びつかない。

「またなんか首突っ込んでるんすか?」
「そんなことないけど」

そんなことあります、と頷くジェリーにクルトは笑った。
お貴族様、それも高位貴族の奥様なのにふらふら街歩きするのが面白いし礼儀がなってなくても気にしないのも面白い、とクルトは内心思っていた。

「瑠璃色茶屋あるでしょ?」
「うん」
「あそこのシェフと婆さん、親子なんすよ」
「え!?」
「ハルフォード商会の情報誌のことでしょ?」
「クルトは耳が早い」
「ま、ここに立ってるとね、色んな話が入ってくるんす」

ニコリと笑う顔は爽やかだが、クルトはなかなかに侮れんとリュカはその場を去った。
もちろん今後ともよろしく、とお願いするのは忘れない。


三葉茶屋のもちもちだんごは『シロップ』『炙り』の二種類しかない。
あとは軽食が少しと、焼き菓子があるだけのよくも悪くも流行りに左右されない老舗だった。
リュカは炙りを頼んで蜂蜜をたっぷりかける。

「んー、やっぱり美味しい。香ばしくてもちもちしてる」
「この蜂蜜ソースはやっぱ美味いっすね」
「ね、なんでこんなにサラッとしてるんだろ。くどくないからいくつでもお腹に入るね」

客入りは店の半分ほど、それも殆どが年配客だ。
若い人はやはり流行りの甘味に惹かれるのかもしれない。
情報誌に掲載されればこの状況も変わるのかな?とリュカは店内を見渡す。

「ジェリー、このもちもちだんごさ。もっと種類があった方が良くない?」
「まぁ、二種類しかないっすからね。選ぶ楽しみっつうのはほしいかな」
「このだんごの中にショコラを入れるとか」

ヒソヒソこそこそ、リュカとジェリーは声を潜めて話し合う。
溶けたショコラを絡めるのはどうだろうか、だんごに色をつけるのはどうか。
話が盛り上がるうちにどんどん声音が大きくなっていったことに二人は気づいていない。
注意するべきか、とプラハーはもちもちしながら考えていた。

「あ!いいこと思いついた!」
「あら、私にも聞かせてくださるかしら?」

へ?と振り返って目に入ったのは総白髪をきっちりと結わえた三葉茶屋大女将メアリーだった。

「あら?あなた、どこかで・・・いえ会ったことないわね」

地味顔の効果は抜群だ。
どこの店の密偵なの?と貫禄ある微笑みはちょっぴり怖い。
リュカはプラハーに、ジェリーはサッチに思わず抱きついた。
ひぇぇぇと、か細い悲鳴をあげながら。



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