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三番勝負

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クラーク・エバンズは公爵家の前当主であり、城の財務部の長であった人物である。
アイザックと同じアッシュグレイの髪を七三に撫で付けて、ソファでふんぞり返っている。
そのクラークの伴侶でありアイザックの母はフリント侯爵家の出だ。
男Ωと聞いていたけれど、とリュカはそっと窺う。

「ドレスが好きなの」
「スノウ!なんで勝手にリュカ君と話しちゃうの!」
「つまらない意趣返しはおやめなさいな」

意趣返しとは?とリュカが首を傾げると、コホンとクラークは一つ咳払いをした。

「アイザック、リュカ君とはすんなりいったか?」

すんなりとはどういう意味だろうか、それが心を通わせたことを指すのならばすんなりでない。
だが、形式的なことならばこの上なくすんなりいった筈だ。
うむむ、と考えていると頭上のアイザックからも唸り声が聞こえる。
同じことを考えてるのかもしれない。

「そんなことより、物心ついてから初めて可愛いと言われたぞ。なんなんだ、一体。隠居したなら、もう帰ってくるな」
「よく聞け、アイザック。父はな、このスノウと婚姻を結ぶ為に数々の試練をくぐり抜けたのだ。うちの可愛いスノウはやれん、と言われた」
「それで?」
「どうせおまえはそんなこと言われてないんだろう。だから、私がリュカ君に言ったのだ」
「八つ当たりじゃないか!」

数々の試練ってなんだろう?とリュカの頭はそれでいっぱいになった。
神の虹色の聖杯を持ってこいとか?
それか天女の涙の雫、火竜の鱗や天命の孔雀の透き通る羽とか春渡り鳥の嘴とか。
いや待てよ?伝説の海大蛇や氷魔人を倒してこいとか、そういった類のものかもしれない。
果たしてどんな試練だったんだろうか。
わくわくとリュカの心が踊る。

「リュカ?聞いてる?」
「はい」
「本当にいいの?」
「はい」

なにかよくわからないがリュカはしっかりと返事をした。
聞いてない、なんてとても言えやしない。

「では、三番勝負だ!!」

こうしてリュカのは始まったのだった。




公爵家の一階、奥まった所にあるプレイルームにリュカは初めて足を踏み入れた。

「アイク、こんな部屋あったんですね」
「あまり使わないからな」
「そうなんですね」

リュカは興味津々で辺りを見渡して、目を輝かせている。
飴色の丸い猫足のテーブルには椅子が四脚。
部屋の隅には小さなバーカウンター。
ランプの明かりは最小限で、なんだか秘密基地のような部屋。
丸いテーブルに腰掛けてソルジュからりんご酒を受け取る。

「さて、カードといえばポーカーだ」
「やったことないです」
「え?リュカ君、ないの?じゃぁ何ができる?」
「ジョーカールーズなら出来ます」
「じゃ、それにしようか」
「はい。ありがとうございます」

リュカは小さく頭を下げ、上げた時にはぺたりと貴族の面を張り付けた。
そんなリュカはべらぼうに強かった。
なにせ、表情を読ませないのだから。
手札にジョーカーがあってもしれっとその相好を崩さない。
逆に相手の手札にジョーカーがある時は、視線や仕草、息遣いを見極めて絶対にそれに手をかけない。
連戦連勝、向かうところ敵無しのリュカは三番勝負の一番目にあっさりと勝利した。


その光景をソルジュはバーカウンターから眺めながら思っていた。
どう見ても親睦を深めているようにしか見えない。
何が勝負なのだろうか。
貴族の面を外して勝利の美酒に酔う奥様のなんと愛くるしいことか、と頬がゆるむ。
それにしてもこの茶番のような三番勝負、大旦那様の酔狂には困ったものだ、と人知れず嘆息する。
しかし、なぜ前触れも無く帰ってきたのだろうか。
確か今は、トルーマン領の保養地で温泉三昧だったはず。
そう思いながら新しいグラスにりんご酒を満たす。

「ソルジュ、ありがとう」

へにゃりと笑う笑顔にソルジュは誓う。
例え、この先の三番勝負に負けたとしても使用人一同は奥様の味方ですぞ、と。





※この世界感でババ抜きはどうよ?と思いました。
でもOldmaideにしても、マーサやエマが怒りそうだなと思ったのでジョーカールーズとしました。
単純にジョーカーが残ったら負けって感じです。
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