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リュカの冒険 再び

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その日、コックスヒル家から表向きはリュカ付きの侍従、その実態は庭師の父に従事するというジェリーは公爵家を軽い足取りで歩いていた。
本邸にリュカが家移りしてからも、離れ家に居座りながら本邸にも顔を出して雑務をこなしている。

「コンコーン、リュカ様ー」

口で言うだけでノックもせずにリュカの私室の扉を開ける。
ソルジュやエマに見つかれば大目玉だが、運がいいのか見つかったことはない。

「ジェリー、どうしたの?」
「ルイスさんから原稿の手直しもらってきた」
「げっ」
「公爵家の奥様がそんな顔しちゃあいけません」

あはは、と気安い二人は笑い合う。
物書き机に原稿を置いて退こうとするジェリーにリュカは、これ見てと声をかけた。
小花柄のソファの前のローテーブルには何枚かの紙が並べてある。

「なんですか?」
「アイクが気づいたことがあれば教えてって」

ジェリーが指先でつまみ上げたそれには『カナン養護院概要書』と書いてある。
設立から現在に至るまでの略歴や院長の経歴など。
他は細かい数字や保護されている子ども達の名前や性別。

「で?リュカ様はなにか気づいたんで?」
「うーん、ここまで出てるんだけどなぁ」

そう言ってリュカは手を喉元に持って行った。
首にはまだ包帯が巻いてある。
ふぅん、とジェリーは一枚一枚確かめる。

「βが圧倒的に少ないですね」
「え?」
「ほら、第二次性がわかってる子」

トントンと該当箇所をジェリーは指先で叩いた。

「・・・ほんとだ」
「いつの世も比率的にβが多いのに、この養護院ではそれが少ない。たまたまですかね?リュカ様もそこが?」
「あ、うん、いや、ジェリーに言われて気づいたよ」
「他の養護院も見ないと、ここだけが特殊かどうかはわかんないっすけど・・・」
「あーーーー!!」

うるせぇとジェリーは耳を塞いだ。
ジェリーに言われて初めて、三年分の養護院の資料を照らし合わせたリュカは叫んだ。

「なんすか」
「見て!毎年五人入所して、五人退所してる。行先はそれぞれだけど、こんなぴったりになる?」
「うーん、そっすねぇ。リュカ様には言いづらいけど、Ωの孤児がすぐに職につけますかね」
「それに、毎年五人同じ年齢の子が入所するのもおかしいよ!季節はばらばらだけど、だいたい二歳で入所してる。どの子も両親不明だ」

「「 匂うねぇ 」」

リュカとジェリーはニタァと笑いあった。

「でも、旦那様ならこんなことすぐに気づくんじゃないですか?」
「あぁ、そうだよねぇ。アイクは馬鹿じゃないもんね」
「惚気か」
「うん」

へらへら笑う地味顔にジェリーは呆れるばかりだ。
よし、とリュカは膝を打つ。
嫌な予感しかしないジェリーは退散しようとしたが、ガシッと腕を掴まれた。

「調査だよ、ジェリー」
「なんでそうなるんすか」
「気になるじゃないか!」
「そこは旦那様にお任せしましょうよ」
「アイクはいろいろ忙しいんだ!・・・多分。だから、伴侶としてここはこの僕が立ち上がるべきだ!」

言うなり本当にリュカは立ち上がり拳を握った。
瞳は闘志で燃えている。
発情期からこっちリュカは屋敷から出ていなかった。
屋敷中から過保護に扱われていたのだ。
そろそろ外に出たい。
養護院への慰問とかうってつけじゃないか。

「・・・旦那様の了承が得られたら、ですよ」

ジェリーは何度も念を押した。
物理的に人差し指で額をぐりぐりと押した。


その夜──

ベッドの中でリュカはアイザックに甘えながら提案をした。

「慰問?」
「はい。カナン養護院へ(調査のために)慰問へ行きたいのです」
「かまわないが、なにか気づいたか?」
「んー、アイクは頭がいいから僕たちが気づいたことなんかとっくに気づいてるでしょうけど・・・」
「僕たち?」
「僕とジェリーです」

ムッとアイザックの眉間に皺が寄るのをリュカは伸ばして、そこにちゅうとキスを落とす。

「βの子が圧倒的に少ないですよね、あの養護院。あと毎年同じ数だけ保護して同じ数だけ送り出してます」
「え?」
「え?気づいてましたよね?」
「あ、あぁ、もちろん」

さすが僕のアイクです、と頬にキスをしてくるリュカ。
実のところ全く気づいていなかったアイザックだが、結婚しても番になっても愛しい人にはかっこよく思われたいものである。
しかし、と考える。
あの違和感はそんなものだったかなぁとも思うのである。





※ちゃんと相談した、許可とった、約束守った自分偉い!とリュカは思ってます。
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