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リュカ Ⅷ
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その日、アイザックは視察に出ていた。
リュカの発情期がまだだと言えど、早まらないとも限らない。
けれど、この視察はずっとアイザックが行っているもので他に回すことは考えられなかった。
様々な理由で親元を離れて暮らす子ども達、身寄りの無い子ども達。
その養護院の視察は紙上ではなく、自分の目で見て感じて対応したいと思っている。
リュカと街歩きをしてアイザックが変わったところだ。
養護院の運営は大半は国からの寄付と街の人々からの寄付で賄われている。
未来を担う子ども達への投資だと思えば当然のことであるが、一軒気になる養護院がある。
ただ、なにが気になるのかがわからない。
帳簿上でおかしなところはないし、子らも痩せすぎているとか表情が乏しいということもない。
なにがこんなにも引っかかるのか。
一度リュカを連れて行ってみようか、等と考えながら帰城するとソルジュが待ち構えていた。
「どうした?」
「奥様が・・・」
聞くや否やアイザックは身を翻し、宰相室へ飛び込んだ。
「はいはい、聞いてるから帰んなさい」
「視察報告はまた改めて行いますので!」
逸る気持ちを抑えてアイザックは家路を急いだ。
ついに、ついにきた、と。
待ち望んだこの時が。
やめて、と言われたらどうしようか。
リュカの気持ちを大事にしたいと思う反面、一刻も早く己のものにしたいという独占欲がむくむくと膨れ上がる。
「万事整えてございます」
頭を下げるエマとマーサに礼を言い、屋敷の奥の寝室へ向かう。
近づくにつれ甘ったるい匂いが漂ってくる。
これまでの比ではないそれに意識を持っていかれそうになるのを耐える。
しんと静まり返った寝室の扉をノックするが返事がない。
そっと開いて足を踏み入れて──
枕が飛んできた。
ずる、と顔面から滑り落ちる枕の向こうではリュカが真っ赤な顔をして眉を釣り上げていた。
「おっそーーーーーい!!」
来るのが遅かったらしい。
なんでこんな時に、と思うがマーサから聞いた話を思い出す。
「奥様、いえあえてリュカ様と呼ばせていただきますが・・・。リュカ様は十歳で第二次性の判定を受けまして、十四歳で初めて発情されました。初めての発情は未熟であったΩ性の体を作りかえるそうです。ですので、抑制剤のようなものを飲まない方が良いらしく・・・」
「それで?」
「薬を飲まずにありのままの発情というわけですが・・・、その、今回、薬は使われないのですよね?」
「あぁ」
「お気をつけください。私から申し上げられることはそれだけでございます」
寝室はカーテンが無様に落ち、サイドテーブルはひっくり返り、枕は綻び中の綿が飛びでている。
それにしてもへたりこんだベッドの上から的確に顔を狙って枕を投げ、それを命中させるとは。
「リュカ、すごいな」
思わず感心してしまう。
しかし、これまで番持ちのαに聞いてきたことと違う。
Ωの発情とはどういうものか?と聞くと皆口を揃えて言ったのと違う。
凄まじい色香を放ち、妖艶に誘い甘え強請ってくるのがたまらない。
そう聞いていたが、リュカは凶暴になるらしい。
「なにしてんの!早く来て!!」
「あ、あぁ、はい」
逃避している場合ではなかった。
寝間着のシャツはいくつか釦が外れ、下は履いてないらしく覗く足が艶かしい。
恐る恐るベッドに上がると、甘ったるい匂いが襲ってきた。
胸焼けがする、と言っていたのは誰だったか。
考えられないくらい意識も理性も体も絡めとられるような強烈な匂い。
フェロモンで作られた檻に閉じ込められているようだ。
「・・・凄い匂いだな」
「嫌い?」
先程までの凶暴さはどこへやら、こてんと首を傾げて見上げてくる姿がたまらない。
好きだ、と押し倒して抱きしめながら何度も首筋を舐め上げる。
「リュカ、項を晒してるということは噛んでいいんだな?」
「・・・ん、噛んで」
とろりと溶けたような瞳に映るのは己だけで、この先もここに映り続けたい。
今は目の前のリュカのことだけ。
どろどろに溶かして全て喰らい尽くしたい。
リュカの発情期がまだだと言えど、早まらないとも限らない。
けれど、この視察はずっとアイザックが行っているもので他に回すことは考えられなかった。
様々な理由で親元を離れて暮らす子ども達、身寄りの無い子ども達。
その養護院の視察は紙上ではなく、自分の目で見て感じて対応したいと思っている。
リュカと街歩きをしてアイザックが変わったところだ。
養護院の運営は大半は国からの寄付と街の人々からの寄付で賄われている。
未来を担う子ども達への投資だと思えば当然のことであるが、一軒気になる養護院がある。
ただ、なにが気になるのかがわからない。
帳簿上でおかしなところはないし、子らも痩せすぎているとか表情が乏しいということもない。
なにがこんなにも引っかかるのか。
一度リュカを連れて行ってみようか、等と考えながら帰城するとソルジュが待ち構えていた。
「どうした?」
「奥様が・・・」
聞くや否やアイザックは身を翻し、宰相室へ飛び込んだ。
「はいはい、聞いてるから帰んなさい」
「視察報告はまた改めて行いますので!」
逸る気持ちを抑えてアイザックは家路を急いだ。
ついに、ついにきた、と。
待ち望んだこの時が。
やめて、と言われたらどうしようか。
リュカの気持ちを大事にしたいと思う反面、一刻も早く己のものにしたいという独占欲がむくむくと膨れ上がる。
「万事整えてございます」
頭を下げるエマとマーサに礼を言い、屋敷の奥の寝室へ向かう。
近づくにつれ甘ったるい匂いが漂ってくる。
これまでの比ではないそれに意識を持っていかれそうになるのを耐える。
しんと静まり返った寝室の扉をノックするが返事がない。
そっと開いて足を踏み入れて──
枕が飛んできた。
ずる、と顔面から滑り落ちる枕の向こうではリュカが真っ赤な顔をして眉を釣り上げていた。
「おっそーーーーーい!!」
来るのが遅かったらしい。
なんでこんな時に、と思うがマーサから聞いた話を思い出す。
「奥様、いえあえてリュカ様と呼ばせていただきますが・・・。リュカ様は十歳で第二次性の判定を受けまして、十四歳で初めて発情されました。初めての発情は未熟であったΩ性の体を作りかえるそうです。ですので、抑制剤のようなものを飲まない方が良いらしく・・・」
「それで?」
「薬を飲まずにありのままの発情というわけですが・・・、その、今回、薬は使われないのですよね?」
「あぁ」
「お気をつけください。私から申し上げられることはそれだけでございます」
寝室はカーテンが無様に落ち、サイドテーブルはひっくり返り、枕は綻び中の綿が飛びでている。
それにしてもへたりこんだベッドの上から的確に顔を狙って枕を投げ、それを命中させるとは。
「リュカ、すごいな」
思わず感心してしまう。
しかし、これまで番持ちのαに聞いてきたことと違う。
Ωの発情とはどういうものか?と聞くと皆口を揃えて言ったのと違う。
凄まじい色香を放ち、妖艶に誘い甘え強請ってくるのがたまらない。
そう聞いていたが、リュカは凶暴になるらしい。
「なにしてんの!早く来て!!」
「あ、あぁ、はい」
逃避している場合ではなかった。
寝間着のシャツはいくつか釦が外れ、下は履いてないらしく覗く足が艶かしい。
恐る恐るベッドに上がると、甘ったるい匂いが襲ってきた。
胸焼けがする、と言っていたのは誰だったか。
考えられないくらい意識も理性も体も絡めとられるような強烈な匂い。
フェロモンで作られた檻に閉じ込められているようだ。
「・・・凄い匂いだな」
「嫌い?」
先程までの凶暴さはどこへやら、こてんと首を傾げて見上げてくる姿がたまらない。
好きだ、と押し倒して抱きしめながら何度も首筋を舐め上げる。
「リュカ、項を晒してるということは噛んでいいんだな?」
「・・・ん、噛んで」
とろりと溶けたような瞳に映るのは己だけで、この先もここに映り続けたい。
今は目の前のリュカのことだけ。
どろどろに溶かして全て喰らい尽くしたい。
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