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視線の行方

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「リュカは運命の相手を信じる?」
「急にどうしたんですか?足を踏んでしまうところでしたよ」

二人は今ダンスの真っ最中である。
アイザックにリードされてリュカは軽やかにステップを踏んで笑う。

「アレックスは運命の相手を探してる」
「それはまた・・・藁の中から一本の針を探すようなものですよ」
「確かに」

見つめあってまた微笑み合う。
腰に回る手がつと強くなり、くいっと抱き寄せられる。

「今、運命の相手が現れたら惹かれるか?」
「そうですね、惹かれるでしょうね。そういうものだと聞いてますから」
「そうか」

すると力が抜けてくるりと回されて、また広い胸に帰ってくる。

「だから、会わないように会えないように捕まえておいてくださいね」
「あぁ、そうしよう」

ふふ、と笑いあって音楽が止んだ。
礼をとらずにリュカはアイザックの首に手を回して耳元で囁く。

「次の発情では噛んでください」

ぐいと腰を持ち上げられリュカは抱き上げられたままフロアを後にした。
今すぐ噛みたい、と艶っぽい声で囁かれながら。


「アイザック、久しぶりだね。可愛い奥方を紹介してよ」

含み笑いで声をかけるのは、薄い金髪を緩く編みそれを肩から前に流しているその人。
よく見ると編み込まれている青いリボンには金糸で縁どりがされている。
透き通るような黄身がかった琥珀色の瞳はアーモンド型でややつり上がっている。
すっきりした鼻梁にぽてりとした唇。
紛うことなき美人だ、とリュカは熱い溜息を吐いた。

「久しぶりだな、シェン。リュカ、アレックスの婚約者のシェンだ」
「お初にお目にかかります。リュカ・エバンズです。出会えたこと光栄に思います」
「畏まらないでよ。同じ公爵家でしょ?私はシェン・ロックハート。よろしくね、リュカ」

差し出された手をリュカは握った。

「それにしても君たち、とても仲がいいんだね」
「はい」
「あはは、リュカは素直だ。そんなところがいいんだろう?アイザックは」
「あぁ、可愛くて仕方ない」
「まさかアイザックから惚気られる日がくるなんて」

からからと笑うシェンこそ可愛いらしい。
こんな可愛いらしい人が傍にいて、運命探しをするアレックス王太子殿下はけしからんなと、リュカは思う。

は相変わらず運命を探してるのか?」
「さぁ、そうなんじゃないの?知らないや」

手に持ったグラスを傾けながらシェンは言う。
遠く見つめる先ではアレックスが踊っている。

「もう駄目かもしれない」
「え?」
「十歳で婚約してもう二十五歳だよ?何も変わらない。潮時だよ」

アレックスから目を逸らしてシェンは自嘲するような笑みを浮かべる。
アレックスを見ると俯くシェンを見ている。
お互いがお互いを見ているのに、決して交わらない視線。
なにをどうすればこんなに拗れるの?とリュカは不思議で仕方なかった。

「そういうわけだからさ!誰か紹介してよ。こんな年増の傷物Ωでも良いって言ってくれそうな人!」

肩を竦めて笑う顔は、笑っているのに泣いているように見える。
そうだなぁ、と腕を組むアイザックを見るフリしてシェンの視線はフロアへ。
リュカは一見しただけではどこにアレックスがいるかわからない。
ステップを踏みながら動き回るのだから。
それでもシェンにはすぐにわかるらしい。

「シェン様は運命を信じてらっしゃるのですか?」
「うん?あぁ、うん、そうだね。出会えたら幸福になると言うしね」
「では、シェン様に運命の相手が現れるといいですね」
「え?いや、私なんかよりも・・・」

音楽が止み、シェンの言葉の続きは聞けなかった。
なぜなら、アレックス王太子殿下がまっすぐこちらにやってきたから。

「私と一曲お相手願えないだろうか」

有無を言わさず強引に手をとられ、リュカはフロアに引っ張り出された。
全くお願いではないではないか、とリュカは内心ぶすくれたが仕方ない。
ここまで来てはアイザックも追ってこれない、それはマナー違反だから。
はぁと嘆息して向き合い、手を取る。

「楽しそうだったな?」
「シェン様とですか?」
「あぁ」
「気になりますか?」

強引なリードにたたらを踏みそうになるがなんとか踏みとどまって涼しい顔をしてみせる。

「運命のお相手をお探しで?」
「あぁ」
「見つかりました?」
「いや、なかなか現れないものだな」
「まさか、雨のように空から落ちてくると?それとも泉のように湧いて出てくると?」

リュカは殊更おかしそうに笑って、睨みつけてくる顔を見上げた。

「なかなかいい性格をしているな」
「シェン様には素直だと褒めていただきました」
「ふん」
「他人を使って誰かの気持ちを推し量るような真似はみっともないと思われませんか?アレックス王太子殿下」

音楽が止むと同時にリュカは離れ礼をとり、アイザックの元へ帰った。
人目も憚らず強く抱きしめてくるのが素直に嬉しい。
あぁやっぱり自分の居場所はここだなぁと改めて実感する。
さて拗れてる二人をどうしたものか、呆気にとられているシェンにリュカは微笑みかけた。



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