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嬉しい夢

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休憩をはさんで一行は一路、宿場町パロに向かう。
バセットから見て最初に出会う街、コラソンから見て最後の街だ。
国境線に近い事もあり、朽ちた砦がいくつもある。
坂の多い街で宿は街が見渡せる坂の一番上にあった。
砦を改築した宿は石造りでひんやりとしている。

「アイク!見てください、一望できますよ!」

窓から見下ろす街の景色は色とりどりの屋根が美しい。
遠くに沈む太陽が眩しくて目を細めて背後のその人に背中を預ける。

「乗り出すと落ちてしまうぞ」
「落ちませんよ」

ふふふと笑ってリュカは腰に回る手に自分の手を重ねた。
太陽が落ちるのはなんだか物悲しくて、けれど包んでくれる体温に嬉しくもなってしまう。

「大好きです」
「どうした?急に」
「はい。急に言いたくなりました」

見上げてそのままキスを受け入れる。
軽いキスを何度もしていつの間にか正面から抱きしめられて、幸せだなぁとリュカは噛み締めた。


夕食は名物だというスパイスをふんだんにまぶして焼いた骨付鳥で、大きなそれをリュカはペロリと平らげた。
シュワシュワと音をたてる麦芽酒も呑んで、リュカはふわふわとアイザックに寄りかかって眠ってしまう。

「疲れたんだね」
「あぁ、遠出は初めてだからな」
「リュカは可愛いねぇ」
「そうだろう?」

臆面もなく言うアイザックにベルフィールもセオドアも笑った。

「バセットではリュカと離れる気はないから」
「そうもいかんだろ」
「いいや、お前らみたいに番になったわけじゃないからな」
「心配しすぎだろ」
「駄目だ。なにがあるかわからん。のリュカはいいんだ。のリュカは駄目だ」
「まぁ、その落差が可愛いからねぇリュカは」

眠るリュカを他所に三人は酒を酌み交わしながらバセットについて語る。

「そういえばバセットの王太子は婚約して長いのに、婚姻の儀はまだなんだよね。なんでだろう?」
「仲悪いんだろ」
「え?婚約者と?」
「そう。昔から仲が悪かった。なぁ、ザック?」
「あぁ、巻き込まれたくない。昔、散々巻き込まれたんだ」
「それで、行きたくなかったんだ」

項垂れるセオドアとアイザックにベルフィールは小さく笑う。
二人には悪いが、面白そうと思った。

リュカもそうだが、ベルフィールもセオドアと婚姻を結ぶまで王都を出たことがなかった。
領地にすら行けなかった。
Ω故になにがあるかわからない、というのが一番の理由だ。
リュカは三男坊だから気ままに育った、というが密かに守られていたのでは?とリュカの寝顔を見ながらベルフィールは思う。



リュカはふわふわと浮かぶ夢を見た。
空から見下ろす街は小さく、広大だと思った森は作りもののように見えた。
雲のように流れる中で、小さなバジルの種のような人波の中からアイザックを見つけてリュカの顔に笑みが浮かぶ。

「アイク!」
「・・・なに?」

思わず叫んでしまったと同時に目が覚めた。
見るとアイザックに抱き抱きこまれて眠っていた。

「おはようございます」
「ん、起きるにはまだ早いよ」
「はい」

夢を見ました、とリュカはアイザックにぎゅうぎゅうと抱きついた。

「どんな?」
「空を飛んでいて、街中の小さな人波の中からアイクを見つけられました」
「うん」
「嬉しくて名を呼んだらアイクが応えてくれました!」

可愛く笑うリュカにアイザックはもう限界だった。
チュッチュと顔中にキスを落として、深く口付けた。
戸惑うリュカの舌を吸い上げて、口内を蹂躙する。

「出立までまだ時間あるから、ね?」
「な、なんで?」
「んー、リュカに負けた」

その言い分だとリュカは勝ったわけだが、なぜこんな事になってるんだろう。
丁寧な愛撫にリュカの思考は蕩けていき、アイザックに縋り付くだけになってしまった。
あっあっとひっきりなしに上がる自分の甘い声が恥ずかしい。

「あっ、、アイク・・・あ、朝から激しいよ」

ごちゅごちゅと奥まで貫かれ、耳元に聞こえるハァハァという荒い息に更に感じてしまう。

「まだだよ、リュカ。一番奥までいくからね」

いやいやとするように首を振るリュカの頬を両手で包み込み、アイザックは一息に体重をかけた。
奥の奥まで犯され、息も絶え絶えになったリュカは思った。
なんの理屈か知らないが、負けたのは自分の方じゃないかと。

もちろんその後のリュカは使い物にならず、移動はアイザックに頼りきりになった。
それがなんとも恥ずかしくて、顔をあげることができなかった。
けれど、やっぱり幸せだなぁとその広い胸に顔を埋めた。
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