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密談

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その日、リュカはベルフィールとの茶会に招かれていた。
色とりどりの小さなでこぼこした菓子は一粒口に入れると甘さが広がり、舐め転がすとシャリと崩れた。

「ベルフィール殿下、とても美味しいです。なんて名の菓子ですか?」
「星のカケラと言うんだよ。隣国の菓子だ」
「どちらの?」
「北のバセットだよ」

コラソン王国は三方を他国に囲まれている。
東にマーナハン王国、南にモーティマー公国、そして北のバセット王国である。

「リュカは国を出たことはあるかい?」
「ないです。国どころか王都を離れた事もありません」
「あぁ、コックスヒルは領地を持ってなかったね」
「はい。代々、文官の家系です」

リュカの生家コックスヒルは領地を持たない中央貴族だ。
元は子爵だったが、何代か前の当主に嫁いだのが今はもう無い侯爵家の息女だった為に家格を考えて伯爵に上がった。
実績も実力も何もない叙爵であった。

「そのバセットでね、国王陛下の即位二十年を祝う式典があるんだ」
「なるほど、その関係でこの菓子があるのですね?」
「そう、日持ちがするものだからと使者が大量に持って来たんだよ」

リュカは茶を飲みながら、今度は何色を食べようかなとのほほんと考えていたのでベルフィールの次の言葉にすぐさま反応出来なかった。

「リュカ、私たちと一緒にバセットに行かない?」

リュカの頭に真っ先に浮かんだのは、なんで?だった。
うろうろと言葉を探すリュカにベルフィールは笑った。

「実はね、王妃殿下が体調を崩されてね」
「え?だ、大丈夫なのですか」
「と、言うのは建前だ」

ぽかんとするリュカにベルフィールはまたぞろ声を立てて笑った。

「使者が言うにはセオとザックに来てほしいらしいんだ。だから、王妃殿下の体調不良を名目にして、陛下の名代で訪問する予定になっている」
「なぜかお聞きしても?」
「セオとザックは学院時代に少しの間、あちらに留学していたんだよ。バセットだけでなく他の二国にもね」
「そうなのですね」
「それでね、なぜかはわからないがあの二人が行きたがらないんだ」

ベルフィールは音も立てずに茶を静かに飲んで、星のカケラをぽいと口にいれた。

「ザックはね、リュカの発情がもうすぐだからと言っていた」
「確かにあと一月ほどですが、バセットならば・・・」
「そう、急げば馬車でも一日の距離だ」
「じゃぁ、なぜ・・・」
「理由はきっとバセットにあるよね?リュカ、知りたくない?」

悪戯めいた瞳でクスクス笑うベルフィールは蠱惑的で、リュカはまた惚れた。
こうやってリュカは何度もベルフィールに惚れている。

「ですが、行きたくないと言うのをどうすればいいでしょう?」
「リュカが行きたいって言えば飛びついてくるよ。そうそう、バセットには氷菓と言って冷たくて甘い菓子があるそうだよ」

なにそれ美味しそう、とリュカの瞳が輝いた。

「頑張ります!」
「いいね、その意気だ。じゃあね、リュカ・・・」

こそこそと耳打ちするベルフィールに頷いて茶会は終わった。
最後にリュカはコロンと丸い瓶に入った星のカケラをもらった。
嬉しくて屋敷中にそれを配って歩いた。


その日の夜、早く寝室へ行こうというアイザックを止めてリュカは茶を淹れた。

「今日、ベルフィール殿下と茶会だったのですが」
「あぁ、楽しかったか?」
「はい。それで、北のバセットには氷菓という冷たくて甘い菓子があると聞きました。本当ですか?」
「うん、まあ、あるな」

歯切れの悪いアイザックにリュカはやはりバセットになにかある、と確信した。
それがなにか知りたい。
リュカの好奇心がむくむくと大きくなってきた。

「食べてみたいなぁ」
「食べたいの?」
「はい、アイクと二人で食べたいです。それに、初めての遠出です」

リュカはアイザックの胸に手を置いて、微かに首を傾げて見上げた。
平凡極まりない自分のこれにどれほどの威力があるかわからないが、とリュカは精一杯瞳をうるうるさせた。

「わかった。一緒に行こう」

そのまま顎をとられてキスを受けながら、リュカの心は叫んでいた。

ベルフィール殿下ありがとう!
言う通りにしたらあっさり落ちてきてくれました!


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