41 / 190
密談
しおりを挟む
その日、リュカはベルフィールとの茶会に招かれていた。
色とりどりの小さなでこぼこした菓子は一粒口に入れると甘さが広がり、舐め転がすとシャリと崩れた。
「ベルフィール殿下、とても美味しいです。なんて名の菓子ですか?」
「星のカケラと言うんだよ。隣国の菓子だ」
「どちらの?」
「北のバセットだよ」
コラソン王国は三方を他国に囲まれている。
東にマーナハン王国、南にモーティマー公国、そして北のバセット王国である。
「リュカは国を出たことはあるかい?」
「ないです。国どころか王都を離れた事もありません」
「あぁ、コックスヒルは領地を持ってなかったね」
「はい。代々、文官の家系です」
リュカの生家コックスヒルは領地を持たない中央貴族だ。
元は子爵だったが、何代か前の当主に嫁いだのが今はもう無い侯爵家の息女だった為に家格を考えて伯爵に上がった。
実績も実力も何もない叙爵であった。
「そのバセットでね、国王陛下の即位二十年を祝う式典があるんだ」
「なるほど、その関係でこの菓子があるのですね?」
「そう、日持ちがするものだからと使者が大量に持って来たんだよ」
リュカは茶を飲みながら、今度は何色を食べようかなとのほほんと考えていたのでベルフィールの次の言葉にすぐさま反応出来なかった。
「リュカ、私たちと一緒にバセットに行かない?」
リュカの頭に真っ先に浮かんだのは、なんで?だった。
うろうろと言葉を探すリュカにベルフィールは笑った。
「実はね、王妃殿下が体調を崩されてね」
「え?だ、大丈夫なのですか」
「と、言うのは建前だ」
ぽかんとするリュカにベルフィールはまたぞろ声を立てて笑った。
「使者が言うにはセオとザックに来てほしいらしいんだ。だから、王妃殿下の体調不良を名目にして、陛下の名代で訪問する予定になっている」
「なぜかお聞きしても?」
「セオとザックは学院時代に少しの間、あちらに留学していたんだよ。バセットだけでなく他の二国にもね」
「そうなのですね」
「それでね、なぜかはわからないがあの二人が行きたがらないんだ」
ベルフィールは音も立てずに茶を静かに飲んで、星のカケラをぽいと口にいれた。
「ザックはね、リュカの発情がもうすぐだからと言っていた」
「確かにあと一月ほどですが、バセットならば・・・」
「そう、急げば馬車でも一日の距離だ」
「じゃぁ、なぜ・・・」
「理由はきっとバセットにあるよね?リュカ、知りたくない?」
悪戯めいた瞳でクスクス笑うベルフィールは蠱惑的で、リュカはまた惚れた。
こうやってリュカは何度もベルフィールに惚れている。
「ですが、行きたくないと言うのをどうすればいいでしょう?」
「リュカが行きたいって言えば飛びついてくるよ。そうそう、バセットには氷菓と言って冷たくて甘い菓子があるそうだよ」
なにそれ美味しそう、とリュカの瞳が輝いた。
「頑張ります!」
「いいね、その意気だ。じゃあね、リュカ・・・」
こそこそと耳打ちするベルフィールに頷いて茶会は終わった。
最後にリュカはコロンと丸い瓶に入った星のカケラをもらった。
嬉しくて屋敷中にそれを配って歩いた。
その日の夜、早く寝室へ行こうというアイザックを止めてリュカは茶を淹れた。
「今日、ベルフィール殿下と茶会だったのですが」
「あぁ、楽しかったか?」
「はい。それで、北のバセットには氷菓という冷たくて甘い菓子があると聞きました。本当ですか?」
「うん、まあ、あるな」
歯切れの悪いアイザックにリュカはやはりバセットになにかある、と確信した。
それがなにか知りたい。
リュカの好奇心がむくむくと大きくなってきた。
「食べてみたいなぁ」
「食べたいの?」
「はい、アイクと二人で食べたいです。それに、初めての遠出です」
リュカはアイザックの胸に手を置いて、微かに首を傾げて見上げた。
平凡極まりない自分のこれにどれほどの威力があるかわからないが、とリュカは精一杯瞳をうるうるさせた。
「わかった。一緒に行こう」
そのまま顎をとられてキスを受けながら、リュカの心は叫んでいた。
ベルフィール殿下ありがとう!
言う通りにしたらあっさり落ちてきてくれました!
色とりどりの小さなでこぼこした菓子は一粒口に入れると甘さが広がり、舐め転がすとシャリと崩れた。
「ベルフィール殿下、とても美味しいです。なんて名の菓子ですか?」
「星のカケラと言うんだよ。隣国の菓子だ」
「どちらの?」
「北のバセットだよ」
コラソン王国は三方を他国に囲まれている。
東にマーナハン王国、南にモーティマー公国、そして北のバセット王国である。
「リュカは国を出たことはあるかい?」
「ないです。国どころか王都を離れた事もありません」
「あぁ、コックスヒルは領地を持ってなかったね」
「はい。代々、文官の家系です」
リュカの生家コックスヒルは領地を持たない中央貴族だ。
元は子爵だったが、何代か前の当主に嫁いだのが今はもう無い侯爵家の息女だった為に家格を考えて伯爵に上がった。
実績も実力も何もない叙爵であった。
「そのバセットでね、国王陛下の即位二十年を祝う式典があるんだ」
「なるほど、その関係でこの菓子があるのですね?」
「そう、日持ちがするものだからと使者が大量に持って来たんだよ」
リュカは茶を飲みながら、今度は何色を食べようかなとのほほんと考えていたのでベルフィールの次の言葉にすぐさま反応出来なかった。
「リュカ、私たちと一緒にバセットに行かない?」
リュカの頭に真っ先に浮かんだのは、なんで?だった。
うろうろと言葉を探すリュカにベルフィールは笑った。
「実はね、王妃殿下が体調を崩されてね」
「え?だ、大丈夫なのですか」
「と、言うのは建前だ」
ぽかんとするリュカにベルフィールはまたぞろ声を立てて笑った。
「使者が言うにはセオとザックに来てほしいらしいんだ。だから、王妃殿下の体調不良を名目にして、陛下の名代で訪問する予定になっている」
「なぜかお聞きしても?」
「セオとザックは学院時代に少しの間、あちらに留学していたんだよ。バセットだけでなく他の二国にもね」
「そうなのですね」
「それでね、なぜかはわからないがあの二人が行きたがらないんだ」
ベルフィールは音も立てずに茶を静かに飲んで、星のカケラをぽいと口にいれた。
「ザックはね、リュカの発情がもうすぐだからと言っていた」
「確かにあと一月ほどですが、バセットならば・・・」
「そう、急げば馬車でも一日の距離だ」
「じゃぁ、なぜ・・・」
「理由はきっとバセットにあるよね?リュカ、知りたくない?」
悪戯めいた瞳でクスクス笑うベルフィールは蠱惑的で、リュカはまた惚れた。
こうやってリュカは何度もベルフィールに惚れている。
「ですが、行きたくないと言うのをどうすればいいでしょう?」
「リュカが行きたいって言えば飛びついてくるよ。そうそう、バセットには氷菓と言って冷たくて甘い菓子があるそうだよ」
なにそれ美味しそう、とリュカの瞳が輝いた。
「頑張ります!」
「いいね、その意気だ。じゃあね、リュカ・・・」
こそこそと耳打ちするベルフィールに頷いて茶会は終わった。
最後にリュカはコロンと丸い瓶に入った星のカケラをもらった。
嬉しくて屋敷中にそれを配って歩いた。
その日の夜、早く寝室へ行こうというアイザックを止めてリュカは茶を淹れた。
「今日、ベルフィール殿下と茶会だったのですが」
「あぁ、楽しかったか?」
「はい。それで、北のバセットには氷菓という冷たくて甘い菓子があると聞きました。本当ですか?」
「うん、まあ、あるな」
歯切れの悪いアイザックにリュカはやはりバセットになにかある、と確信した。
それがなにか知りたい。
リュカの好奇心がむくむくと大きくなってきた。
「食べてみたいなぁ」
「食べたいの?」
「はい、アイクと二人で食べたいです。それに、初めての遠出です」
リュカはアイザックの胸に手を置いて、微かに首を傾げて見上げた。
平凡極まりない自分のこれにどれほどの威力があるかわからないが、とリュカは精一杯瞳をうるうるさせた。
「わかった。一緒に行こう」
そのまま顎をとられてキスを受けながら、リュカの心は叫んでいた。
ベルフィール殿下ありがとう!
言う通りにしたらあっさり落ちてきてくれました!
24
お気に入りに追加
1,562
あなたにおすすめの小説
婚約者は愛を見つけたらしいので、不要になった僕は君にあげる
カシナシ
BL
「アシリス、すまない。婚約を解消してくれ」
そう告げられて、僕は固まった。5歳から13年もの間、婚約者であるキール殿下に尽くしてきた努力は一体何だったのか?
殿下の隣には、可愛らしいオメガの男爵令息がいて……。
サクッとエロ&軽めざまぁ。
全10話+番外編(別視点)数話
本編約二万文字、完結しました。
※HOTランキング最高位6位、頂きました。たくさんの閲覧、ありがとうございます!
※本作の数年後のココルとキールを描いた、
『訳ありオメガは罪の証を愛している』
も公開始めました。読む際は注意書きを良く読んで下さると幸いです!
傾国の美青年
春山ひろ
BL
僕は、ガブリエル・ローミオ二世・グランフォルド、グランフォルド公爵の嫡男7歳です。オメガの母(元王子)とアルファで公爵の父との政略結婚で生まれました。周りは「運命の番」ではないからと、美貌の父上に姦しくオメガの令嬢令息がうるさいです。僕は両親が大好きなので守って見せます!なんちゃって中世風の異世界です。設定はゆるふわ、本文中にオメガバースの説明はありません。明るい母と美貌だけど感情表現が劣化した父を持つ息子の健気な奮闘記?です。他のサイトにも掲載しています。
孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
婚約者は俺にだけ冷たい
円みやび
BL
藍沢奏多は王子様と噂されるほどのイケメン。
そんなイケメンの婚約者である古川優一は日々の奏多の行動に傷つきながらも文句を言えずにいた。
それでも過去の思い出から奏多との別れを決意できない優一。
しかし、奏多とΩの絡みを見てしまい全てを終わらせることを決める。
ザマァ系を期待している方にはご期待に沿えないかもしれません。
前半は受け君がだいぶ不憫です。
他との絡みが少しだけあります。
あまりキツイ言葉でコメントするのはやめて欲しいです。
ただの素人の小説です。
ご容赦ください。
俺のこと、冷遇してるんだから離婚してくれますよね?〜王妃は国王の隠れた溺愛に気付いてない〜
明太子
BL
伯爵令息のエスメラルダは幼い頃から恋心を抱いていたレオンスタリア王国の国王であるキースと結婚し、王妃となった。
しかし、当のキースからは冷遇され、1人寂しく別居生活を送っている。
それでもキースへの想いを捨てきれないエスメラルダ。
だが、その思いも虚しく、エスメラルダはキースが別の令嬢を新しい妃を迎えようとしている場面に遭遇してしまう。
流石に心が折れてしまったエスメラルダは離婚を決意するが…?
エスメラルダの一途な初恋はキースに届くのか?
そして、キースの本当の気持ちは?
分かりづらい伏線とそこそこのどんでん返しありな喜怒哀楽激しめ王妃のシリアス?コメディ?こじらせ初恋BLです!
※R指定は保険です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる