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リュカの冒険 Ⅱ
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リュカは城の裏側をてくてく歩く。
夜会では大広間とそれに連なる大庭園、ベルフィール殿下との茶会では王室の方々それぞれの宮の手前にある王太子専用サロンしか足を運んだことがない。
それらは正しく表側で、リュカは今その裏側にいる。
使用人たちがあちらこちら動いている。
顔にぺたりと笑みを張り付けて会釈しながら歩く。
途中、良い匂いがしてスンスン鼻を鳴らしながらその匂いを辿ると使用人専用食堂だった。
大きなミートボールが入ったシチューにスライスした分厚いパン、美味しそうとリュカはこっそり覗き見る。
お昼まではまだ時間がある。
時間差で食べれる時に食べるのか、なるほどなぁとリュカは食堂を後にする。
さて、書庫はどこだろう?
どんどん進むと一際大きな扉に行き当たった。
開けて見ると濃茶の毛足の短い絨毯が敷いてある。
大広間やサロンまでの赤い絨毯とは違う。
当たりかも、とリュカは浮き足立ちながらまっすぐ進んだ。
気を引き締めて、今度は人目につかないように柱の影を歩く。
見つかればハイディ侯爵の従者で通そう、そう思いながらこそこそと。
「ねぇ、知ってる?宰相補佐様のこと」
通り過ぎようとした部屋から聞こえる声にリュカは立ち止まった。
なんだろうか。
少しだけ開いた扉の隙間から覗くと侍女二人が茶器を片付けている。
「この間、胸にダリア挿してたでしょう?あれの意味知ってる?」
「え?意味なんてあるの?」
「それがあるのよ!あのね・・・」
肝心な所を耳打ちされてしまった。
そういえばすっかり忘れていたけれど、意味を知ってるか?と問われたことを思い出した。
なんだろう、何の意味が?
耳打ちされた侍女は驚いた顔をしたと思えば、すぐさま頬赤らめて盆をティーワゴンに乗せた。
リュカは慌ててその場を離れ、またこそこそと進む。
ダリアの意味を考えながら歩いているといつの間にか中庭のような所へ行き着いた。
渡り廊下を挟んで左右に広がっている。
「こんなところあったんだ」
中庭には今しがたリュカが考えていたダリアが色とりどりに咲き誇っている。
もちろん淡いピンクのダリアも。
バタバタと大きな足音に急いで壁と垣根の間に身を潜めた。
「いたか?」
「いない」
何かあったんだろうか、衛兵達が駆けていく。
少しここで休憩しようかな、とリュカは座り込んで垣根の隙間からダリアを眺めた。
なにか嫌な意味だったらどうしよう。
「ねぇ、ちょっと知ってる?」
頭上から辺りを憚る様な声がする。
視線だけあげると窓が開いていた。
「なによ」
「ねずみが一匹入り込んだらしいわよ」
「嘘でしょ!?」
「ほんとよ、宰相補佐様なんか血相変えて走ってたわよ」
「あのいつも落ち着いてる方が?」
「そうよ。衛兵達も動き回ってるでしょ?」
「やだ、怖いわね」
声はどんどん遠くなってやがて聞こえなくなった。
ねずみ一匹出ても大騒ぎするの?、とリュカはのほほんと考えた。
やはり食料庫に巣くってるのかな、と思ったところでリュカは閃いた。
『影の者-レイ・ジョーンズ-』という物語の中でレイが賊のことをねずみと呼んでいた。
まさか城に賊が?
本当にねずみって言うんだ、と感心する。
今日のお戻りは遅いかもしれないなぁ、とリュカはアイザックに思いを馳せた。
ご無事だといいけれど、と。
「賊と鉢合わせしたら怖いしもう帰ろうかなぁ」
呟きながらリュカは窓の下の壁に沿って四つん這いで進んだ。
よたよたと進むと開けた場所に出て木立がある。
その一本にリュカは身を任せて座り込み、ほぅと息を吐く。
「ここ、どこだろ」
「王宮書庫の前庭ですよ」
突然降って湧いた声にリュカは恐る恐る見上げた。
見上げたその先、木の影からひょこりと飛び出したその顔。
「リュカ、君はなかなかにお転婆なようだね」
笑いを堪えたような顔のマルティン宰相にリュカはパクパクと二の句が継げないでいた。
「さぁ、おいで。雨が降りそうだ」
目を丸くしたまま座り込むリュカにマルティン宰相は、どうした?と尋ねた。
「こ、腰が抜けて、、立てません」
今度こそマルティン宰相は笑った。
それも声も高らかに大声で。
その声に空が反応したのか、リュカの額にぽつりと雨粒が落ちてきた。
その頃──
アイザックは城中をあちらこちらリュカを探して走り回っていた。
真っ先に訪れた書庫にはリュカはおらず、司書も見ていないという。
迷子になってるのか、とアイザックは衛兵に指示を飛ばしながら探し回る。
そんなアイザックに、リュカ捕獲の一報が届くのはもうすぐである。
夜会では大広間とそれに連なる大庭園、ベルフィール殿下との茶会では王室の方々それぞれの宮の手前にある王太子専用サロンしか足を運んだことがない。
それらは正しく表側で、リュカは今その裏側にいる。
使用人たちがあちらこちら動いている。
顔にぺたりと笑みを張り付けて会釈しながら歩く。
途中、良い匂いがしてスンスン鼻を鳴らしながらその匂いを辿ると使用人専用食堂だった。
大きなミートボールが入ったシチューにスライスした分厚いパン、美味しそうとリュカはこっそり覗き見る。
お昼まではまだ時間がある。
時間差で食べれる時に食べるのか、なるほどなぁとリュカは食堂を後にする。
さて、書庫はどこだろう?
どんどん進むと一際大きな扉に行き当たった。
開けて見ると濃茶の毛足の短い絨毯が敷いてある。
大広間やサロンまでの赤い絨毯とは違う。
当たりかも、とリュカは浮き足立ちながらまっすぐ進んだ。
気を引き締めて、今度は人目につかないように柱の影を歩く。
見つかればハイディ侯爵の従者で通そう、そう思いながらこそこそと。
「ねぇ、知ってる?宰相補佐様のこと」
通り過ぎようとした部屋から聞こえる声にリュカは立ち止まった。
なんだろうか。
少しだけ開いた扉の隙間から覗くと侍女二人が茶器を片付けている。
「この間、胸にダリア挿してたでしょう?あれの意味知ってる?」
「え?意味なんてあるの?」
「それがあるのよ!あのね・・・」
肝心な所を耳打ちされてしまった。
そういえばすっかり忘れていたけれど、意味を知ってるか?と問われたことを思い出した。
なんだろう、何の意味が?
耳打ちされた侍女は驚いた顔をしたと思えば、すぐさま頬赤らめて盆をティーワゴンに乗せた。
リュカは慌ててその場を離れ、またこそこそと進む。
ダリアの意味を考えながら歩いているといつの間にか中庭のような所へ行き着いた。
渡り廊下を挟んで左右に広がっている。
「こんなところあったんだ」
中庭には今しがたリュカが考えていたダリアが色とりどりに咲き誇っている。
もちろん淡いピンクのダリアも。
バタバタと大きな足音に急いで壁と垣根の間に身を潜めた。
「いたか?」
「いない」
何かあったんだろうか、衛兵達が駆けていく。
少しここで休憩しようかな、とリュカは座り込んで垣根の隙間からダリアを眺めた。
なにか嫌な意味だったらどうしよう。
「ねぇ、ちょっと知ってる?」
頭上から辺りを憚る様な声がする。
視線だけあげると窓が開いていた。
「なによ」
「ねずみが一匹入り込んだらしいわよ」
「嘘でしょ!?」
「ほんとよ、宰相補佐様なんか血相変えて走ってたわよ」
「あのいつも落ち着いてる方が?」
「そうよ。衛兵達も動き回ってるでしょ?」
「やだ、怖いわね」
声はどんどん遠くなってやがて聞こえなくなった。
ねずみ一匹出ても大騒ぎするの?、とリュカはのほほんと考えた。
やはり食料庫に巣くってるのかな、と思ったところでリュカは閃いた。
『影の者-レイ・ジョーンズ-』という物語の中でレイが賊のことをねずみと呼んでいた。
まさか城に賊が?
本当にねずみって言うんだ、と感心する。
今日のお戻りは遅いかもしれないなぁ、とリュカはアイザックに思いを馳せた。
ご無事だといいけれど、と。
「賊と鉢合わせしたら怖いしもう帰ろうかなぁ」
呟きながらリュカは窓の下の壁に沿って四つん這いで進んだ。
よたよたと進むと開けた場所に出て木立がある。
その一本にリュカは身を任せて座り込み、ほぅと息を吐く。
「ここ、どこだろ」
「王宮書庫の前庭ですよ」
突然降って湧いた声にリュカは恐る恐る見上げた。
見上げたその先、木の影からひょこりと飛び出したその顔。
「リュカ、君はなかなかにお転婆なようだね」
笑いを堪えたような顔のマルティン宰相にリュカはパクパクと二の句が継げないでいた。
「さぁ、おいで。雨が降りそうだ」
目を丸くしたまま座り込むリュカにマルティン宰相は、どうした?と尋ねた。
「こ、腰が抜けて、、立てません」
今度こそマルティン宰相は笑った。
それも声も高らかに大声で。
その声に空が反応したのか、リュカの額にぽつりと雨粒が落ちてきた。
その頃──
アイザックは城中をあちらこちらリュカを探して走り回っていた。
真っ先に訪れた書庫にはリュカはおらず、司書も見ていないという。
迷子になってるのか、とアイザックは衛兵に指示を飛ばしながら探し回る。
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