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初恋の殻
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鏡の中のぱっとしない男を見つめる。
どこからどう見ても凡庸だなぁ、とそっと息を吐く。
「リュカ様。いかがされました?」
「マーサ」
マーサはリュカの細く柔い髪に髪油をするすると塗り込んでいく。
ぴよんと跳ねていた毛束がまとまっていく。
「マーサはグレイ以外にも好きな人いた?」
「あら、マーサはこう見えても引く手数多だったのですよ」
うふふ、と笑いながらマーサは櫛をいれていく。
では、やはりマーサもグレイが初恋ではないということか。
鏡越しに見るマーサは歳相応で、若い頃は可愛かったのかな?とじっと見る。
「なんですか?」
「初恋は実らないんだよね?」
「そう言われてますわねぇ。けれど、何事にも例外があるとも言いますわね」
はいできました、とマーサはぽんとリュカの肩を叩く。
公爵様がいらっしゃいますよ、とマーサはまたうふふと笑った。
「行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
いつも通りに小指が跳ねる。
それと同時に手のひらに熱が集まる。
アイザックからはもうベルフィール殿下への熱は感じられない。
この優しさに他意は無いんだろうか。
だったらなぜ──・・・
リュカの望み通りにしてくれて、夢のような話も叶えてくれたのか。
それは契約相手だからか。
情けをかけられているのだろうか。
それがストンと胸に納まった。
「リュカ、どうした?」
「あぁ、いえ少し考え事を」
そう言うリュカにアイザックは匂い袋を首にかけてくる。
これもいつもの事で、社交シーズンが終わっても続いている。
アイザックを見送って匂い袋を握り込む。
腹の奥からなにかがせり上がってくる。
今まで感じたことのない強大で凶暴な熱の塊がグイグイと押し上げてくる。
「マーサ、きたかもしれない」
「え?あらあら、まあ。予定より随分早いですわねぇ」
マーサに支えられて寝室へ向かう。
いつもの準備を致しますからね、とベッドに腰掛けさせられる。
パタパタと寝室を出ていくマーサ。
水差しやシーツの替え、軽く摘める菓子類や小さなパンに果物。
そして、発情を軽くする薬。
次々に運び込まれるそれらをぼんやりと眺める。
「マーサ、呼ぶまで来ないで」
「けれど、それでは・・・」
「いずれ一人で乗り越えなきゃいけないんだ。準備もこれからは自分で全部するよ」
「・・・では、どうしてもと言う時は鈴を鳴らしてくださいまし」
「わかった」
普段のΩ特有の匂いを抑える薬ではなく、発情を軽くする薬を飲む。
ゴロリとベッドに寝転んで胸元の匂い袋を握りしめる。
あぁ、自分は今欲情している。
熱を吐き出す行為でしかなかったそれを今、慰めてもらいたいと思っている。
知らず頬を伝う涙で枕を濡らしながらうつらうつらと微睡む。
ふと気づけばもう室内は暗く、カーテンから透ける陽も消えてしまっている。
腹の中心に熱い塊があって、それを出したくてそっと下腹部に手を伸ばす。
下着を持ちあげているそれを取り出してゆるゆると扱く。
もう片方の手は匂い袋に伸びてそれを口元へ。
さもそれが当たり前の様に。
ふぅふぅと息を吐きながら、溜まった熱を出す。
手に残る白濁を見て、なにかが足りないと思う。
発散したはずの熱はまだ体内を燻っていて、リュカは初めて後孔に手を伸ばした。
今までもそこからどろりと粘液が垂れていたことは知っている。
けれど、そこに手を伸ばそうとは思わなかった。
つぷりとそこは難なく人差し指を飲み込んでく。
動かすとビリビリと背中を快感が這い上がっていく。
二本、三本と指を増やしグチュグチュと卑猥な音を響かせながら自慰に耽ける。
頭に思い描くのは、指を絡ませ繋ぐあの手。
時折ぴくりと動くあの長い指。
リュカ、と呼ぶ甘やかな声音。
一度だけ抱きついた胸は広く、肩はがっしりとしていてリュカを軽々と抱き上げた。
「アイク・・・」
リュカの指は短く、冷めぬ熱の塊まで到底届くものではない。
匂い袋を口に咥え、空いた手でピクピクと震えながら勃ち上がるものをぐちぐちと弄る。
初恋の名を呼びながらリュカは果てた。
虚ろな目でサイドテーブルの引き出しの中にあるものを取り出してくしゃりと丸める。
無かったはずの未練がぽたりぽたりと雫のように落ちてくる。
契約に縛られた二人に未来はないのか。
実を結ばぬこの関係は美しい花のままで朽ちていくのだろうか。
居心地のいい穏やかな時間も、今この胸の内にある嵐のような激情も、あぁ全ては恋だったのか。
気づくのが何もかも遅かった。
ならば、ここから得られるものはもうないのだろうか。
『まだ見ぬ未来を想像して足踏みするなんてあなたとっても臆病なのね』
炎の山に閉じこもる王子に氷の姫様はそう言った。
何もせずただ諦めるなんて、ナリスにも氷の姫様にも空飛ぶ島の王子にも顔向け出来ない。
あるかなきかの宮殿を追い求めるトーマとラルフにも。
この手で初恋の殻を粉々に叩き割ってやる。
どこからどう見ても凡庸だなぁ、とそっと息を吐く。
「リュカ様。いかがされました?」
「マーサ」
マーサはリュカの細く柔い髪に髪油をするすると塗り込んでいく。
ぴよんと跳ねていた毛束がまとまっていく。
「マーサはグレイ以外にも好きな人いた?」
「あら、マーサはこう見えても引く手数多だったのですよ」
うふふ、と笑いながらマーサは櫛をいれていく。
では、やはりマーサもグレイが初恋ではないということか。
鏡越しに見るマーサは歳相応で、若い頃は可愛かったのかな?とじっと見る。
「なんですか?」
「初恋は実らないんだよね?」
「そう言われてますわねぇ。けれど、何事にも例外があるとも言いますわね」
はいできました、とマーサはぽんとリュカの肩を叩く。
公爵様がいらっしゃいますよ、とマーサはまたうふふと笑った。
「行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
いつも通りに小指が跳ねる。
それと同時に手のひらに熱が集まる。
アイザックからはもうベルフィール殿下への熱は感じられない。
この優しさに他意は無いんだろうか。
だったらなぜ──・・・
リュカの望み通りにしてくれて、夢のような話も叶えてくれたのか。
それは契約相手だからか。
情けをかけられているのだろうか。
それがストンと胸に納まった。
「リュカ、どうした?」
「あぁ、いえ少し考え事を」
そう言うリュカにアイザックは匂い袋を首にかけてくる。
これもいつもの事で、社交シーズンが終わっても続いている。
アイザックを見送って匂い袋を握り込む。
腹の奥からなにかがせり上がってくる。
今まで感じたことのない強大で凶暴な熱の塊がグイグイと押し上げてくる。
「マーサ、きたかもしれない」
「え?あらあら、まあ。予定より随分早いですわねぇ」
マーサに支えられて寝室へ向かう。
いつもの準備を致しますからね、とベッドに腰掛けさせられる。
パタパタと寝室を出ていくマーサ。
水差しやシーツの替え、軽く摘める菓子類や小さなパンに果物。
そして、発情を軽くする薬。
次々に運び込まれるそれらをぼんやりと眺める。
「マーサ、呼ぶまで来ないで」
「けれど、それでは・・・」
「いずれ一人で乗り越えなきゃいけないんだ。準備もこれからは自分で全部するよ」
「・・・では、どうしてもと言う時は鈴を鳴らしてくださいまし」
「わかった」
普段のΩ特有の匂いを抑える薬ではなく、発情を軽くする薬を飲む。
ゴロリとベッドに寝転んで胸元の匂い袋を握りしめる。
あぁ、自分は今欲情している。
熱を吐き出す行為でしかなかったそれを今、慰めてもらいたいと思っている。
知らず頬を伝う涙で枕を濡らしながらうつらうつらと微睡む。
ふと気づけばもう室内は暗く、カーテンから透ける陽も消えてしまっている。
腹の中心に熱い塊があって、それを出したくてそっと下腹部に手を伸ばす。
下着を持ちあげているそれを取り出してゆるゆると扱く。
もう片方の手は匂い袋に伸びてそれを口元へ。
さもそれが当たり前の様に。
ふぅふぅと息を吐きながら、溜まった熱を出す。
手に残る白濁を見て、なにかが足りないと思う。
発散したはずの熱はまだ体内を燻っていて、リュカは初めて後孔に手を伸ばした。
今までもそこからどろりと粘液が垂れていたことは知っている。
けれど、そこに手を伸ばそうとは思わなかった。
つぷりとそこは難なく人差し指を飲み込んでく。
動かすとビリビリと背中を快感が這い上がっていく。
二本、三本と指を増やしグチュグチュと卑猥な音を響かせながら自慰に耽ける。
頭に思い描くのは、指を絡ませ繋ぐあの手。
時折ぴくりと動くあの長い指。
リュカ、と呼ぶ甘やかな声音。
一度だけ抱きついた胸は広く、肩はがっしりとしていてリュカを軽々と抱き上げた。
「アイク・・・」
リュカの指は短く、冷めぬ熱の塊まで到底届くものではない。
匂い袋を口に咥え、空いた手でピクピクと震えながら勃ち上がるものをぐちぐちと弄る。
初恋の名を呼びながらリュカは果てた。
虚ろな目でサイドテーブルの引き出しの中にあるものを取り出してくしゃりと丸める。
無かったはずの未練がぽたりぽたりと雫のように落ちてくる。
契約に縛られた二人に未来はないのか。
実を結ばぬこの関係は美しい花のままで朽ちていくのだろうか。
居心地のいい穏やかな時間も、今この胸の内にある嵐のような激情も、あぁ全ては恋だったのか。
気づくのが何もかも遅かった。
ならば、ここから得られるものはもうないのだろうか。
『まだ見ぬ未来を想像して足踏みするなんてあなたとっても臆病なのね』
炎の山に閉じこもる王子に氷の姫様はそう言った。
何もせずただ諦めるなんて、ナリスにも氷の姫様にも空飛ぶ島の王子にも顔向け出来ない。
あるかなきかの宮殿を追い求めるトーマとラルフにも。
この手で初恋の殻を粉々に叩き割ってやる。
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