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その瞳に映るもの

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エバンズ公爵の気配がピリっと強ばっている。
原因は目の前の二人か、とリュカは考える。
そして、なるほどと合点する。
ちらと盗み見たエバンズ公爵の瞳の奥のチリリと小さく燃えている炎は嫉妬か対抗心か。
そりゃどうにもならないわ、とリュカはエバンズ公爵に同情した。
けれど、とリュカは思う。
報われる想いも報われない想いも、どちらも同じだけ尊いものではないのだろうか。
恋をしたことのないリュカはそれを想像するしかない。

「リュカ?」
「え?あ、失礼しました」
「陛下が一緒に、と仰られている」
「なにをですか?」
「本当にぼんやりしていたのだな」

エバンズ公爵はそう言うとリュカに手を差し出した。

「踊っていただけますか?」
「・・・ぁっ喜んで」

通常ならば国王陛下、婚約者のいる王太子殿下だけが踊り、その後皆が踊る。
だが今回は陛下の計らいで婚約成立したエバンズ公爵も共に踊るという。
音楽に合わせてステップを踏む。

「すまないな」
「なにがです?」
「いや、その・・・」
「王家の方々と踊ることですか?それとも、挨拶に訪れた方の大半が私を無視していたこと?それか、私に向けられるこの多くのやっかみの視線でしょうか?」
「・・・あぁー、全部かな?」
「やっかまれることなど重々承知の上ですのでお気になさらず」

さすがに陛下と踊ることになろうとは思わなかったが、その他は想定内だ。
なにせ美貌の公爵家当主の心を射止めた、と思われているのだから。
けれど、悪意ある視線ばかりではないことをリュカは知っている。
こちらを見つめる父と長兄の心配そうな顔。
目の端に映るオリバーも同じような顔をしている。
それらにリュカは大丈夫と言うように微かに笑みを送る。

「・・・この後は少し休むか?」
「えぇ、そうさせていただきます」
「リュカは・・・」
「なんでしょう?」
「面白いな」
「つまらぬ人などおりませんよ」

最後にリュカはくるりと回されてダンスが終わった。



宣言通りリュカはこっそりとバルコニーへ出た。
王太子殿下は二曲目も婚約者と踊っている。
エバンズ公爵はそれを先ほどのように見つめているのだろうか、とリュカは思う。
上手く隠しているつもりでも、一緒に踊っていれば視線がどこにあるかよくわかる。
りんご酒を片手にリュカは手すりにもたれた。

「はぁぁー、疲れた」
「おつかれ、リュカ」
「うん、オリバー」

振り返らずにリュカは言う。

「ちょっとは驚けよ」
「じゃ、声くらい変えなよ」

あの夜のように二人で手すりに並んでもたれかかる。
カチとグラスを合わせて笑い合う。
オリバーはグイとグラスを飲み干しリュカに問いかける。

「この婚約、なにか裏があるんだろ?」
「公爵様が僕に一目惚れしたんだよ」
「嘘つけ。んなことあるわけないだろ」
「ひどいな、まあ、嘘だけど」

くつくつと笑うリュカに、話せよとオリバーがせっつく。
リュカはこの親友に全てを打ち明けた。

「金目当てってわけでもないんだろ?」
「それは、まぁね。勉強になるかなって思ったんだよ」
「まぁ、あの顔だからなぁ」
「でしょ?」
「けどなぁ、リュカ。恋はもんじゃないんだ。気づいた時に胸の中にもんなんだと思うよ、俺は」
「経験者は語る」
「まぁな」

流れてくる音楽を背に密やかに笑い合う。
リュカ、呼ばれた声に振り向く。

「公爵様。いかがされました?」

キョトンとするリュカに歩み寄りエバンズ公爵はその肩を抱いた。
オリバーから離れるように距離をとる。

「公爵様、オリバーは知ってますので演技はなさらなくて大丈夫ですよ」
「話したのか?」
「えぇ、大事な友人ですので。それにオリバーは近く商家に婿入りしますので貴族籍を離れます。秘密は守られますよ」

ねぇ、とオリバーに向けるリュカの笑顔は屈託がない。
そして、肩に回る手とエバンズ公爵の顔を交互に見る。
どこか不機嫌そうな顔に、王太子殿下となにかあったのだろうかと思う。

「リュカ、宰相が君と話したいと言ってるから行こう」
「・・・はい」

エバンズ公爵は肩を抱いたままオリバーには目もくれずに歩きだした。
リュカがこっそり振り返るとオリバーが口だけをパクパクと動かしている。

『 が ん ば れ 』

その言葉にリュカは、はにかんだような笑みで返す。
その笑みをエバンズ公爵に見られているとも知らずに。


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