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失言
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「鷹野ってどんな奴?」
黒崎陽介は今しがた愛しい番が発した言葉に憮然とした。
さっきまで睦言を交し、お互いを欲しどろどろに抱き合ったばかりだというのになぜ他の男の名を口にする?
眉間の皺、と指摘され伸ばすように撫でられる。
「まーた、太郎君か。なんでそんなに気にするんだよ」
太郎のことは嫌いではない。
確かにキツい顔立ちだが、性格は至って普通の男だと思う。
酒を飲むと気が大きくなって口が悪くなってしまうのも、緊張するとぶっきらぼうになってしまうのも。
ただ晴臣にだけ気を許していて、それを晴臣がまた許しているのが気に食わないと思う時がある。
太郎など晴臣のおまけにすぎない。
「俺が梁瀬の里にいたって知ってんだろ?どうせ調べまくったんだろ?」
その通りでなんとも言葉が返せない。
晴臣は基本的に過去のことは話さない。
必要ないだろ、とシャットアウトしてしまう。
しかし、そうなると知りたいと思うのは人の性というもので。
梁瀬の里は施設長の横領事件でいっぺんに有名になった施設だ。
事件当時は晴臣はとうに施設を出ていたが、何年にも渡る横領はきっと晴臣自身にも振りかかっていたに違いないと予想する。
ベッドに裸でうつ伏せに寝転がり足をパタパタさせている。
枕をぎゅうと抱きしめながら、早く言えと見つめられる。
「鷹野さんのことなんて、よく知らないよ。αの会合で顔を合わせるくらいしか接点ないよ」
「それでもなんか知ってるだろ?」
言えよ、と言わんばかりにげしげしと蹴られてしまう。
「えー?大学までラグビーやってたとか、まだ結婚してないとかそんなのしか知らないって」
「使えねぇな」
チッと舌打ちする晴臣の求めてることがわからない。
あーだの、うーだの唸って晴臣はがばりと身を起こした。
俯いてガシガシと頭をかいて、顔もゴシゴシと擦る。
「たろちゃんが拗らせた原因が俺にもあるんだよ」
そう言ってどさっとベッドに倒れ込む。
両腕で目を隠して話し出す。
相槌も質問も挟む余地なんてないように、自分自身に言い聞かせるように。
梁瀬のひどいところはさ、金を横領してただけじゃない。
国から支給された抑制剤を横流ししてたってことなんだ。
10歳でΩ性が確定して、発情期がくるのがだいたい14歳くらい。
早い奴は13歳でくるやつもいる。
だけど、認可もおりてるちゃんとした薬は俺らには回って来なかった。
恐らく無認可な粗悪品飲まされて、副作用でずっと吐いてる奴も朦朧としてる奴もひどい頭痛に悩まされてる奴もいた。
それでもなんで飲むか知ってるか?
お前らαに見つからないようにだよ。
事故が起きても身寄りの無い底辺Ωとα様じゃ、世間様の目はどっちを信じるかなんて一目瞭然だから。
もう逃げることしか頭になかった。
置いていかれる下の子達のことなんて、とてもじゃないけど考えられなかったんだ。
そんで、俺とあと2人で中学卒業と同時に逃げた。
三人で体売りながらなんとかやっていけると思ってたから。
捨てるもんなんかなにもないから、売り専するのにも抵抗なんてなかった。
でも、たろちゃんが行かないでって言ったんだ。
「たろちゃん、きっともうすぐたろちゃんに初めての発情期がくる。そしたら、誰でもいいからαに慰めてもらえ。あんな薬は飲むな。体がおかしくなっちまう」
でも、あの時『好きな人じゃないとやだ』って言ったんだよ。
そう言ってたのに。
俺が働いてる売り専の店に偶然たろちゃんが来たんだ。
雇って欲しいって、逃げてきたって。
でもその時点でたろちゃんが、中学卒業してから1年は経ってた。
何から逃げたのか、何があったのか絶対口割らないけど。
αはみんないい匂いするから誰でもいいって。
今より目付きが悪くて目の下に隈つくって、ひょろひょろで。
そんなんじゃ、マトモな客なんかつかないから。
俺が寮の部屋で匿ったんだ。
──手に入ったと思ったものが無くなるのは悲しいね、はるちゃん。
──だったら、寂しい寂しいって思ってた方がまだマシ。
──ずっと憧れたままの方がいい。
たろちゃんの言ってたことが今ならわかるよ。
俺は、陽介がいなくなったら悲しくなると思う。
それこそ最初から陽介がいなければ良かったと思うほどに。
俺らも戦えば良かった。
アレを告発した奴のように。
幻滅しただろう?と晴臣は自嘲する。
「俺は弱い。お前に嫌われたくなくて隠し事ばかりしてる。お前と離れたくなくてたろちゃんとの同居も解消した。もう大人だからって晴臣って呼んで虚勢張ってるのも知ってる。全部知ってて、お前を選んだんだ」
なにも持たない奴がなにか持つとこんなにも弱くなるのか、そう呟いた歪んだ顔は罪悪感にも見えるし後悔にも見える。
「梁瀬のことは、まだ子どもだったんだから仕方なかったんだよ。俺は、俺を選んでくれて嬉しいって思ってるよ」
そう慰めながらも、嫌われたくない離れたくないという言葉に仄暗い喜びがふつふつと湧いてくる。
掴みどころがなくていつも飄々として、財布だなんだと揶揄するのも晴臣なりの防御線だったんだろうと思う。
「鷹野はたろちゃんのこと聞いても目を逸らさなかったな」
「悪い噂は聞かないし、いい人だと思うよ」
「もうあんなたろちゃんは見たくないんだ」
晴臣には悪いが何を聞いてもやはり太郎はおまけだ。
そして、晴臣は俺の唯一だ。
鷹野には是非とも頑張ってもらいたい。
運命だと宣うのなら、晴臣を悩ます太郎を救ってやってほしい。
黒崎陽介は今しがた愛しい番が発した言葉に憮然とした。
さっきまで睦言を交し、お互いを欲しどろどろに抱き合ったばかりだというのになぜ他の男の名を口にする?
眉間の皺、と指摘され伸ばすように撫でられる。
「まーた、太郎君か。なんでそんなに気にするんだよ」
太郎のことは嫌いではない。
確かにキツい顔立ちだが、性格は至って普通の男だと思う。
酒を飲むと気が大きくなって口が悪くなってしまうのも、緊張するとぶっきらぼうになってしまうのも。
ただ晴臣にだけ気を許していて、それを晴臣がまた許しているのが気に食わないと思う時がある。
太郎など晴臣のおまけにすぎない。
「俺が梁瀬の里にいたって知ってんだろ?どうせ調べまくったんだろ?」
その通りでなんとも言葉が返せない。
晴臣は基本的に過去のことは話さない。
必要ないだろ、とシャットアウトしてしまう。
しかし、そうなると知りたいと思うのは人の性というもので。
梁瀬の里は施設長の横領事件でいっぺんに有名になった施設だ。
事件当時は晴臣はとうに施設を出ていたが、何年にも渡る横領はきっと晴臣自身にも振りかかっていたに違いないと予想する。
ベッドに裸でうつ伏せに寝転がり足をパタパタさせている。
枕をぎゅうと抱きしめながら、早く言えと見つめられる。
「鷹野さんのことなんて、よく知らないよ。αの会合で顔を合わせるくらいしか接点ないよ」
「それでもなんか知ってるだろ?」
言えよ、と言わんばかりにげしげしと蹴られてしまう。
「えー?大学までラグビーやってたとか、まだ結婚してないとかそんなのしか知らないって」
「使えねぇな」
チッと舌打ちする晴臣の求めてることがわからない。
あーだの、うーだの唸って晴臣はがばりと身を起こした。
俯いてガシガシと頭をかいて、顔もゴシゴシと擦る。
「たろちゃんが拗らせた原因が俺にもあるんだよ」
そう言ってどさっとベッドに倒れ込む。
両腕で目を隠して話し出す。
相槌も質問も挟む余地なんてないように、自分自身に言い聞かせるように。
梁瀬のひどいところはさ、金を横領してただけじゃない。
国から支給された抑制剤を横流ししてたってことなんだ。
10歳でΩ性が確定して、発情期がくるのがだいたい14歳くらい。
早い奴は13歳でくるやつもいる。
だけど、認可もおりてるちゃんとした薬は俺らには回って来なかった。
恐らく無認可な粗悪品飲まされて、副作用でずっと吐いてる奴も朦朧としてる奴もひどい頭痛に悩まされてる奴もいた。
それでもなんで飲むか知ってるか?
お前らαに見つからないようにだよ。
事故が起きても身寄りの無い底辺Ωとα様じゃ、世間様の目はどっちを信じるかなんて一目瞭然だから。
もう逃げることしか頭になかった。
置いていかれる下の子達のことなんて、とてもじゃないけど考えられなかったんだ。
そんで、俺とあと2人で中学卒業と同時に逃げた。
三人で体売りながらなんとかやっていけると思ってたから。
捨てるもんなんかなにもないから、売り専するのにも抵抗なんてなかった。
でも、たろちゃんが行かないでって言ったんだ。
「たろちゃん、きっともうすぐたろちゃんに初めての発情期がくる。そしたら、誰でもいいからαに慰めてもらえ。あんな薬は飲むな。体がおかしくなっちまう」
でも、あの時『好きな人じゃないとやだ』って言ったんだよ。
そう言ってたのに。
俺が働いてる売り専の店に偶然たろちゃんが来たんだ。
雇って欲しいって、逃げてきたって。
でもその時点でたろちゃんが、中学卒業してから1年は経ってた。
何から逃げたのか、何があったのか絶対口割らないけど。
αはみんないい匂いするから誰でもいいって。
今より目付きが悪くて目の下に隈つくって、ひょろひょろで。
そんなんじゃ、マトモな客なんかつかないから。
俺が寮の部屋で匿ったんだ。
──手に入ったと思ったものが無くなるのは悲しいね、はるちゃん。
──だったら、寂しい寂しいって思ってた方がまだマシ。
──ずっと憧れたままの方がいい。
たろちゃんの言ってたことが今ならわかるよ。
俺は、陽介がいなくなったら悲しくなると思う。
それこそ最初から陽介がいなければ良かったと思うほどに。
俺らも戦えば良かった。
アレを告発した奴のように。
幻滅しただろう?と晴臣は自嘲する。
「俺は弱い。お前に嫌われたくなくて隠し事ばかりしてる。お前と離れたくなくてたろちゃんとの同居も解消した。もう大人だからって晴臣って呼んで虚勢張ってるのも知ってる。全部知ってて、お前を選んだんだ」
なにも持たない奴がなにか持つとこんなにも弱くなるのか、そう呟いた歪んだ顔は罪悪感にも見えるし後悔にも見える。
「梁瀬のことは、まだ子どもだったんだから仕方なかったんだよ。俺は、俺を選んでくれて嬉しいって思ってるよ」
そう慰めながらも、嫌われたくない離れたくないという言葉に仄暗い喜びがふつふつと湧いてくる。
掴みどころがなくていつも飄々として、財布だなんだと揶揄するのも晴臣なりの防御線だったんだろうと思う。
「鷹野はたろちゃんのこと聞いても目を逸らさなかったな」
「悪い噂は聞かないし、いい人だと思うよ」
「もうあんなたろちゃんは見たくないんだ」
晴臣には悪いが何を聞いてもやはり太郎はおまけだ。
そして、晴臣は俺の唯一だ。
鷹野には是非とも頑張ってもらいたい。
運命だと宣うのなら、晴臣を悩ます太郎を救ってやってほしい。
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