諦めない俺の進む道【本編終了】

谷絵 ちぐり

文字の大きさ
15 / 110

失言

しおりを挟む
「鷹野ってどんな奴?」

黒崎陽介は今しがた愛しい番が発した言葉に憮然とした。
さっきまで睦言を交し、お互いを欲しどろどろに抱き合ったばかりだというのになぜ他の男の名を口にする?
眉間の皺、と指摘され伸ばすように撫でられる。

「まーた、太郎君か。なんでそんなに気にするんだよ」

太郎のことは嫌いではない。
確かにキツい顔立ちだが、性格は至って普通の男だと思う。
酒を飲むと気が大きくなって口が悪くなってしまうのも、緊張するとぶっきらぼうになってしまうのも。
ただ晴臣にだけ気を許していて、それを晴臣がまた許しているのが気に食わないと思う時がある。
太郎など晴臣のおまけにすぎない。

「俺が梁瀬の里にいたって知ってんだろ?どうせ調べまくったんだろ?」

その通りでなんとも言葉が返せない。
晴臣は基本的に過去のことは話さない。
必要ないだろ、とシャットアウトしてしまう。
しかし、そうなると知りたいと思うのは人のさがというもので。

梁瀬の里は施設長の横領事件でいっぺんに有名になった施設だ。
事件当時は晴臣はとうに施設を出ていたが、何年にも渡る横領はきっと晴臣自身にも振りかかっていたに違いないと予想する。
ベッドに裸でうつ伏せに寝転がり足をパタパタさせている。
枕をぎゅうと抱きしめながら、早く言えと見つめられる。

「鷹野さんのことなんて、よく知らないよ。αの会合で顔を合わせるくらいしか接点ないよ」
「それでもなんか知ってるだろ?」

言えよ、と言わんばかりにげしげしと蹴られてしまう。

「えー?大学までラグビーやってたとか、まだ結婚してないとかそんなのしか知らないって」
「使えねぇな」

チッと舌打ちする晴臣の求めてることがわからない。
あーだの、うーだの唸って晴臣はがばりと身を起こした。
俯いてガシガシと頭をかいて、顔もゴシゴシと擦る。

「たろちゃんが拗らせた原因が俺にもあるんだよ」

そう言ってどさっとベッドに倒れ込む。
両腕で目を隠して話し出す。
相槌も質問も挟む余地なんてないように、自分自身に言い聞かせるように。



梁瀬のひどいところはさ、金を横領してただけじゃない。
国から支給された抑制剤を横流ししてたってことなんだ。
10歳でΩ性が確定して、発情期がくるのがだいたい14歳くらい。
早い奴は13歳でくるやつもいる。
だけど、認可もおりてるちゃんとした薬は俺らには回って来なかった。
恐らく無認可な粗悪品飲まされて、副作用でずっと吐いてる奴も朦朧としてる奴もひどい頭痛に悩まされてる奴もいた。
それでもなんで飲むか知ってるか?
お前らαに見つからないようにだよ。
事故が起きても身寄りの無い底辺Ωとα様じゃ、世間様の目はどっちを信じるかなんて一目瞭然だから。
もう逃げることしか頭になかった。
置いていかれる下の子達のことなんて、とてもじゃないけど考えられなかったんだ。
そんで、俺とあと2人で中学卒業と同時に逃げた。
三人で体売りながらなんとかやっていけると思ってたから。
捨てるもんなんかなにもないから、売り専するのにも抵抗なんてなかった。
でも、たろちゃんが行かないでって言ったんだ。

「たろちゃん、きっともうすぐたろちゃんに初めての発情期がくる。そしたら、αに慰めてもらえ。あんな薬は飲むな。体がおかしくなっちまう」

でも、あの時『好きな人じゃないとやだ』って言ったんだよ。
そう言ってたのに。
俺が働いてる売り専の店に偶然たろちゃんが来たんだ。
雇って欲しいって、逃げてきたって。
でもその時点でたろちゃんが、中学卒業してから1年は経ってた。
何から逃げたのか、何があったのか絶対口割らないけど。
αはみんないい匂いするから誰でもいいって。
今より目付きが悪くて目の下に隈つくって、ひょろひょろで。
そんなんじゃ、マトモな客なんかつかないから。
俺が寮の部屋で匿ったんだ。

──手に入ったと思ったものが無くなるのは悲しいね、はるちゃん。
──だったら、寂しい寂しいって思ってた方がまだマシ。
──ずっと憧れたままの方がいい。

たろちゃんの言ってたことが今ならわかるよ。
俺は、陽介がいなくなったら悲しくなると思う。
それこそ最初から陽介がいなければ良かったと思うほどに。
俺らも戦えば良かった。
を告発した奴のように。


幻滅しただろう?と晴臣は自嘲する。

「俺は弱い。お前に嫌われたくなくて隠し事ばかりしてる。お前と離れたくなくてたろちゃんとの同居も解消した。もう大人だからって晴臣って呼んで虚勢張ってるのも知ってる。全部知ってて、お前を選んだんだ」

なにも持たない奴がなにか持つとこんなにも弱くなるのか、そう呟いた歪んだ顔は罪悪感にも見えるし後悔にも見える。

「梁瀬のことは、まだ子どもだったんだから仕方なかったんだよ。俺は、俺を選んでくれて嬉しいって思ってるよ」

そう慰めながらも、嫌われたくない離れたくないという言葉に仄暗い喜びがふつふつと湧いてくる。
掴みどころがなくていつも飄々として、財布だなんだと揶揄するのも晴臣なりの防御線だったんだろうと思う。

「鷹野はたろちゃんのこと聞いても目を逸らさなかったな」
「悪い噂は聞かないし、いい人だと思うよ」
「もうあんなたろちゃんは見たくないんだ」

晴臣には悪いが何を聞いてもやはり太郎はおまけだ。
そして、晴臣は俺の唯一だ。
鷹野には是非とも頑張ってもらいたい。
運命だと宣うのなら、晴臣を悩ます太郎を救ってやってほしい。
しおりを挟む
感想 98

あなたにおすすめの小説

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。 ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

婚約破棄を傍観していた令息は、部外者なのにキーパーソンでした

Cleyera
BL
貴族学院の交流の場である大広間で、一人の女子生徒を囲む四人の男子生徒たち その中に第一王子が含まれていることが周囲を不安にさせ、王子の婚約者である令嬢は「その娼婦を側に置くことをおやめ下さい!」と訴える……ところを見ていた傍観者の話 :注意: 作者は素人です 傍観者視点の話 人(?)×人 安心安全の全年齢!だよ(´∀`*)

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

処理中です...