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道すがら

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広い駐車場からは横に広い大きな建物が見える。
あちこちでカラフルなのぼりがはためいていて、よく見ると串焼き、クレープ、ジェラート等と書かれている。
ちょっとした自然公園も広がっていて、ドッグランも併設されている。
車も人も多くザワザワガヤガヤと騒がしい。
ポカンと眺めていた稔は、ハッとしたようにキョロキョロと辺りを見回した。

「ジェラートっ」
「いや、先に飯を食おう」

人波を手を引かれながら、あちこちを見渡す。
ズラリと並んだ自販機、所狭しと並んでいる土産物。
カレーやうどん出汁の混じった匂い。
奥まった所にあるレストランまで手を引かれる。
大きなショーウィンドウにはたくさんの食品サンプルが並んでいた。

「なに食べたい?」
「外にあった肉まん」
「ここ、眺めいいよ?」
「肉まん食べたい」

はいはい、とまた手を引かれてさっきとは違う入口から外に出る。
白いテントがいくつか並んでいて、白い湯気がもうもうと上がっている。
蒸したての肉まんは大きくて餡がたくさん詰まっていて温かくて美味しい。
所々置いてある木のベンチには、同じように食べたり飲んだりする人達がいて寒い空気の中、皆どこかポカポカした顔をしている。
大きな口で肉まんをかぶりついているのを見るのも楽しい。

「他になんかある?」
「・・・あの人が食べてる串に刺さった練り物」

ついでにお茶も買ってくる、と言ってテントに並ぶのを眺めながら肉まんにかぶりつく。
ふと、話し声が耳に入ってくる。

「あの黄色のマフラーの人かっこいいね」

うんうんと頷き、むふふと緩む顔を抑えながら肉まんを頬張る。

「あ、こっち見た」

目をあげると一穂が見ている。
なんだかこそばゆくて顔が熱くなって、残りの肉まんを一息に口に入れる。
やっぱりかっこいい、という声を聞きながら下を向いてモグモグと咀嚼する。
ふと影がさし見上げると困り顔の一穂が立っていた。

「どうした?喉つめた?」

ゴクリと喉がなり一気に飲み込んで咳き込んでしまって、大丈夫?と背中をさすられてそれがまた恥ずかしくてますます熱くなる。

「・・・馬鹿じゃないの」
「えぇー、今怒られる要素なんかあった?」

顔を覆った両手の指の隙間からそっと伺うとへの字眉の顔がすぐそばにあってまた、馬鹿じゃないの、と思ってしまう。

「野菜とタコ入り。どっちがいい?」
「・・・タコ入り」

温かい練り物を食べながら思い出す。

──貴史がかっこよすぎて困る!

恋人がかっこよくて嬉しいことはあっても、困ることなんてないだろう。
そう思っていた、思っていたが今ならわかる。
これは、困る。

ジェラートは迷いに迷ってミルク味とピスタチオ味をコーンに半分づつ盛ってもらった。
一穂はクリームチーズ味とラズベリー味。
白と赤のコントラストが美しく美味しそうで見ていると、はいと口に入れられる。

「・・・馬鹿じゃないの」
「だから、なんで怒られるんだろう。俺、泣いちゃうよ」
「泣けばいい」

室内はとても暖かく、ジェラートは冷たくて口の中ですぐに溶けてしまう。
濃いクリームチーズと酸っぱいラズベリーが混じってすぐに溶けていく。
お返しに開いた口にジェラートを突っ込む。

「・・・稔のその手にあるスプーンはなんのためにあるのかわかってる?」

ふふふ、と笑って大きく凹んでしまったジェラートをスプーンで掬って食べる。

「美味いな」
「うん、美味しい」

今度はちゃんと二人で見合って笑う。
暖かくて冷たくてむず痒くて、一緒にいるのが嬉しいけどやっぱり少し困る。
同じように困っていればいいな、とちょっとだけ思う。





渋滞もなく車はすいすい進む。
辿り着いた旅館はこじんまりとしていて歴史を感じさせるものだった。
玄関には大きな木に金で『華乃宮』と彫ってあった。

「はなのきゅう?」
「かのみやって読むんだよ」

へぇ、と思いながら手を繋ぐ。
一穂の持つボストンには二人分の荷物が入っているらしく、いつの間に荷造りしたんだろうなと思いながら着いていく。
女将に出迎えられ静かで風情のある中庭を見ながら、ピカピカに磨かれた飴色の廊下を歩く。
離れに案内され、ポカンと思わず口を開けてしまった。
マフラーを外され、ジャケットを脱がされ座布団に座らされる。

「お連れ様は大丈夫でございますか?」
「えぇ、まぁ、多分」

ふわりと漂う芳しいお茶の香りにふっと意識が戻って来た時には貫禄ある女将が、ごゆっくりと言って襖を閉める瞬間だった。

「大丈夫?」
「・・・馬鹿じゃないの」
「だから、なんで怒るの」

声をたてずに笑いながらお茶を飲む目の前の自分の恋人。
これは、かっこよすぎて困る。
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