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灯る

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赤提灯に火が灯り、ガヤガヤと店が騒がしくなっていく。

──俺と一緒に住んでほしい

枝豆を剥いて小皿に盛る。
剥いて、剥いて、剥いて

「稔、なにしてんの?」
「は?え?」
「さっきから見てたけど、それ食べないの?」

指の先には剥いた豆が皿の上で小山になっていた。

「ちょっと考え事してて」
「俺の事考えてくれて嬉しい」

そういうわけじゃ、ともごもごなってしまうのを笑われてしまう。

「元気、これ春巻きの皮で揚げたやつ作って」

おう、と元気が剥いた豆を持っていく。
その後ろ姿を目で追いながらジンジャーエールを一口飲む。

「一穂はずるいと思う」
「うん、稔よりは大人だからね」
「あんな、あんな全部準備して」
「うん、必死だから。あの店で俺が淹れたコーヒーを稔がお客さんに運ぶんだよ。店を閉めたら二人であの裏の家に帰る。自分がそこに居るのを想像できた?」
「そういうのずるい」

ワハハ、と笑うのにムッとしてしまう。
上手く怒った顔が出来ているだろうか、ニコニコ笑う顔を見るときっと出来ていないのだろう。

「本当はね、いつでも開業出来たんだよ。その前に地元こっちで少しのんびりしてもいいかなって。うん、帰ってきて良かったよ。やっぱり俺の直感は外れない」
「やっぱりずるい」

枝豆を並べて春巻きの皮で巻いて揚げたスティック状のそれは塩がきいていてとても美味しかった。



店を出るとひんやりした風に晒される。
熱気にあてられていた頬が一気に冷める。
見上げた空には星が瞬いていて、吐く息が白くてそっと後ろからコートに収められてしまう。
首をかがめて耳の後ろをスンスン嗅がれるのが擽ったい。

「まだ一緒にいたいから連れて帰っていい?」

頷く方が早かったのか、手を繋がれ車に乗せられたのが早かったのか。
車内は無言で、カーラジオからは古い映画の主題歌が流れていた。


丸いこたつに入って体を温める。
天板に頬をくっつけてキッチンにいる一穂の後ろ姿を見る。

──俺が淹れたコーヒーを稔がお客さんに運ぶんだよ

それもいいな、と思いながら瞼を閉じる。

「寝ちゃった?」
「想像してた」

背後からギュッと抱え込まれ起こされる。
そのまま胸に体を預ける。
こたつの上には湯気をたてたマグカップが二つ。
コーヒーの匂いがする。

「僕、多分ものすごく重いと思うよ」
「うん。鍛えるよ」
「そうじゃなくて」
「稔も鍛えて」

 くつくつと笑いながら肩口に顔を埋めてくるのでつられて笑ってしまう。
ふっと息をつき、一穂がごめんと謝る。
振り向こうとするのを止められて一際強く抱きしめられる。

「稔がこの先出会うかもしれない一生の幸せを俺が奪ってもいい?」
「今、言うのはずるい」
「うん、ごめん」

稔は身を捩って正面から一穂を見据える。
泣きそうな情けない顔に両手を添えてギュッと押し付ける。
今さらそんな顔するのもずるい、と思う。

「僕もピアス開けようかな」
「え?」
「開けてくれる?」
「・・・喜んで」

涙を堪え小さく笑む顔を見て思う。
ピアスを開けると運命が変わる、というのは誰が言い出したことなんだろう。
昔から定説のように囁かれているそれ。
最初に開けた人は運命が変わったのだろうか。
彼の運命は変わったのだろうか。
僕の運命も変わるだろうか。

どちらからともなくキスをして、額を合わせて見つめ合う。

「全部もらっていい?」
「僕も全部ほしい」

そっと笑って鼻先を合わせる。
お互いの髪を撫でながらゆっくり高め合うようにキスをする。
次第に深くなるキスに浅い吐息を飲み込まれ、肌を滑る指先がもどかしい。
熱に浮かされたように、お互いしか見えない。
腹の底から湧き上がる凶悪な渇望は我慢することができない。
求めるまま、求められるまま抱き合う。
灼けるような素肌はぴたりと吸い付き、あるべきものがあるべき所に収まった感覚に酔いしれる。
潤んだ瞳、浅い息を吐く唇。
紅潮した頬、熱い吐息を受ける耳。
噛み跡の残るネックガード。
狂気にも似た愛おしさに、溺れて堕ちていく。

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