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いちご大福
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稔と一穂は正座していた。
一穂は慎太と、稔は恵子とそれぞれお話という名の説教を受けていた。
「起きるまで何回も電話したらよかっただろ」
「名前が違うってどういうこと?」
「一穂、お前確信犯だろ」
「なにか悪いことしたの?それで逃げてるとか?」
一穂は大きなため息を吐き、稔はしどろもどろになりながら説明する。
違う自分になりたかったのだ、新しくやり直してみたかったのだ、と。
「そう。忍ちゃんは今、反抗期なのねぇ。あぁ、稔ちゃんね。そういうのは中学で済ませとくべきよ?うちの真希もねぇ、もっと可愛い名前が良かったとかなんとか言ってた時期があったわ」
少し違う気がしないでもない稔だったが、犯罪者では無いことはわかってもらえてホッとする。
「俺もうアラサーなのに、なんでこんな説教されてんの?」
「だいたいだな、恋人でもない二人が・・・」
「付き合ってるから」
慎太が目を剥き、恵子が稔に詰め寄って大きな声を出す。
「そうなの!?」
「・・・多分?」
付き合ってくれ、とは言われてないようなと考えこむ稔に今度は一穂が詰め寄る。
「俺の運命になってくれるって!」
「あぁ!そう・・・でした、ね」
昨夜のことを思い出したのか、顔を真っ赤にしてしおしおと小さくなる稔。
「認めん!」
「そういうのは本当の娘でやれよ」
「あいつはなぁ、頑固で気が強くて。小せぇ頃はまだ可愛げがあったんだがなぁ、全く誰に似たんだか」
三人の視線が一斉に慎太に注目する。
ブツブツと娘の真希のことを呟いている慎太は気付かない。
さすがの一穂も、おやっさんだと思うよとは言えなかった。
ボンボンと時計が鳴る。
「あら、もう10時。婦人会行かないと」
「俺も海に行かないと」
今日はねジャムを作るの、と恵子はいそいそと出かけて行った。
次いで慎太も、仲良くやれよと出かけて行った。
「朝早くに電話で叩き起されて来たのに、なんだろうこの自由な感じは」
「親父さんは釣りに行くんですかね」
「いや、パチンコだろ」
「・・・海に?」
そうだよ、と一穂は不思議顔の稔の頭を撫でた。
「新婚旅行はカナダ以外に行こうな」
「は?」
「俺、カナダ出禁だから」
「え?」
ピロンと電子音が鳴り、一穂がスマホを見て舌打ちをする。
新婚旅行って、そんなのまだ早い、そもそも新婚って、ともにょもにょ言っている稔の顔は耳まで真っ赤だ。
一穂はずっと頭を撫でている。
「陸が心配してるから行ってくる。疲れてるだろうから後はゆっくり休みな?」
「え?」
「一緒に行く?」
「行く」
手を繋いで二人で歩く。
昨夜、積もった雪の上をサクサク歩く。
途中『春日堂』でいちご大福を買う。
もうだいぶ見慣れた道程が白い。
吐く息も白くて、鼻のてっぺんだけ赤くなる。
景色って一晩で変わるんだな、と思いながら歩く。
がチャリと扉を開けた陸は現れた二人の足元から頭まで、視線を二回往復させる。
そして、繋いだ手を見る。
「ふぅん?」
「ニヤニヤ笑うなよ」
ほらよ、といちご大福を渡し一穂はズカズカと上がり込んだ。
「もう大丈夫?」
「ご迷惑ばかりおかけしてすみません」
「いつでも話聞くから」
「はい」
二人は顔を合わせてクスリと笑った。
蒼太が熱いほうじ茶を淹れて、陸がいちご大福を皿に盛ってくれる。
幼稚園に行っている海斗の分にラップをかける。
四人で無言でお茶を啜る。
その間も陸は目だけで交互に一穂と稔を見ている。
「付き合い始めってもっとイチャイチャするかと思ったのに平常運転って感じ」
「お前らじゃあるまいし」
「そりゃまぁ、若かったし?」
「俺は大人だから」
「ふうん?」
「あのなぁ、稔はこの通りめちゃくちゃ可愛くてとんでもない美人だろ?その稔がだ、なんとビックリ俺のこと大好きなわけよ?」
「うん、ほんともう今年一番の驚きだよ」
「え?まだ今年始まったばっかりなのに?」
「間違いなく今年一番の重大ニュースだよ」
「陸はいちいち口を挟むな。一穂、続けて」
「おう、それで、だ。その大好きな俺と二人でいる時はまあー、これがまたほんとに可愛い。今でもこの可愛さなのに、それが限界突破する。ここだけの話だけど、宇宙が生まれて今現在までで断トツの一番に決定してる」
「お、おう」
「だから、なんでそんな可愛い稔をお前らごときに見せてやらにゃならんのだ。この可愛さは俺だけのもんだから」
「壮大な阿呆が限界突破してるな」
「全人類馬鹿代表にでもなったのか?」
話を黙って聞いていた稔は恥ずかしいやら、なんやらでいたたまれなくていちご大福にかぶりついた。
もちもちした求肥に包まれた甘い餡に大きな甘酸っぱいいちご。
稔は美味しいそれをただただ黙って食べた。
一穂は慎太と、稔は恵子とそれぞれお話という名の説教を受けていた。
「起きるまで何回も電話したらよかっただろ」
「名前が違うってどういうこと?」
「一穂、お前確信犯だろ」
「なにか悪いことしたの?それで逃げてるとか?」
一穂は大きなため息を吐き、稔はしどろもどろになりながら説明する。
違う自分になりたかったのだ、新しくやり直してみたかったのだ、と。
「そう。忍ちゃんは今、反抗期なのねぇ。あぁ、稔ちゃんね。そういうのは中学で済ませとくべきよ?うちの真希もねぇ、もっと可愛い名前が良かったとかなんとか言ってた時期があったわ」
少し違う気がしないでもない稔だったが、犯罪者では無いことはわかってもらえてホッとする。
「俺もうアラサーなのに、なんでこんな説教されてんの?」
「だいたいだな、恋人でもない二人が・・・」
「付き合ってるから」
慎太が目を剥き、恵子が稔に詰め寄って大きな声を出す。
「そうなの!?」
「・・・多分?」
付き合ってくれ、とは言われてないようなと考えこむ稔に今度は一穂が詰め寄る。
「俺の運命になってくれるって!」
「あぁ!そう・・・でした、ね」
昨夜のことを思い出したのか、顔を真っ赤にしてしおしおと小さくなる稔。
「認めん!」
「そういうのは本当の娘でやれよ」
「あいつはなぁ、頑固で気が強くて。小せぇ頃はまだ可愛げがあったんだがなぁ、全く誰に似たんだか」
三人の視線が一斉に慎太に注目する。
ブツブツと娘の真希のことを呟いている慎太は気付かない。
さすがの一穂も、おやっさんだと思うよとは言えなかった。
ボンボンと時計が鳴る。
「あら、もう10時。婦人会行かないと」
「俺も海に行かないと」
今日はねジャムを作るの、と恵子はいそいそと出かけて行った。
次いで慎太も、仲良くやれよと出かけて行った。
「朝早くに電話で叩き起されて来たのに、なんだろうこの自由な感じは」
「親父さんは釣りに行くんですかね」
「いや、パチンコだろ」
「・・・海に?」
そうだよ、と一穂は不思議顔の稔の頭を撫でた。
「新婚旅行はカナダ以外に行こうな」
「は?」
「俺、カナダ出禁だから」
「え?」
ピロンと電子音が鳴り、一穂がスマホを見て舌打ちをする。
新婚旅行って、そんなのまだ早い、そもそも新婚って、ともにょもにょ言っている稔の顔は耳まで真っ赤だ。
一穂はずっと頭を撫でている。
「陸が心配してるから行ってくる。疲れてるだろうから後はゆっくり休みな?」
「え?」
「一緒に行く?」
「行く」
手を繋いで二人で歩く。
昨夜、積もった雪の上をサクサク歩く。
途中『春日堂』でいちご大福を買う。
もうだいぶ見慣れた道程が白い。
吐く息も白くて、鼻のてっぺんだけ赤くなる。
景色って一晩で変わるんだな、と思いながら歩く。
がチャリと扉を開けた陸は現れた二人の足元から頭まで、視線を二回往復させる。
そして、繋いだ手を見る。
「ふぅん?」
「ニヤニヤ笑うなよ」
ほらよ、といちご大福を渡し一穂はズカズカと上がり込んだ。
「もう大丈夫?」
「ご迷惑ばかりおかけしてすみません」
「いつでも話聞くから」
「はい」
二人は顔を合わせてクスリと笑った。
蒼太が熱いほうじ茶を淹れて、陸がいちご大福を皿に盛ってくれる。
幼稚園に行っている海斗の分にラップをかける。
四人で無言でお茶を啜る。
その間も陸は目だけで交互に一穂と稔を見ている。
「付き合い始めってもっとイチャイチャするかと思ったのに平常運転って感じ」
「お前らじゃあるまいし」
「そりゃまぁ、若かったし?」
「俺は大人だから」
「ふうん?」
「あのなぁ、稔はこの通りめちゃくちゃ可愛くてとんでもない美人だろ?その稔がだ、なんとビックリ俺のこと大好きなわけよ?」
「うん、ほんともう今年一番の驚きだよ」
「え?まだ今年始まったばっかりなのに?」
「間違いなく今年一番の重大ニュースだよ」
「陸はいちいち口を挟むな。一穂、続けて」
「おう、それで、だ。その大好きな俺と二人でいる時はまあー、これがまたほんとに可愛い。今でもこの可愛さなのに、それが限界突破する。ここだけの話だけど、宇宙が生まれて今現在までで断トツの一番に決定してる」
「お、おう」
「だから、なんでそんな可愛い稔をお前らごときに見せてやらにゃならんのだ。この可愛さは俺だけのもんだから」
「壮大な阿呆が限界突破してるな」
「全人類馬鹿代表にでもなったのか?」
話を黙って聞いていた稔は恥ずかしいやら、なんやらでいたたまれなくていちご大福にかぶりついた。
もちもちした求肥に包まれた甘い餡に大きな甘酸っぱいいちご。
稔は美味しいそれをただただ黙って食べた。
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