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晩ご飯は焼肉だった。
ホットプレートで肉や野菜をじゅうじゅう焼く。
海斗はウインナーばかり食べた。
僕が泣いたことなんてまるで無かったように、あのクリスマスの時と変わらぬ陽気さで食べる。
ビールを飲み肉を食べ、キャベツやピーマンも食べる。
海斗はみぃちゃんと呼び、久しく呼ばれていなかった名に胸がキュッとなる。
呼ばれる度に面映ゆくてキュッとなる。
僕は何をどうして言葉にすればいいのかとぐるぐる考えてしまって、つい黙り込んでしまう。
「嫌な思い出なんて誰でも多かれ少なかれもってる。それは別に恥ずべきことでも忌むべきことでもない。それを乗り越えてこそ人は成長する、なんて事も俺は思わない。いいじゃないか、逃げ出したって。それもひとつの道だし、自分の手でも誰かの手を借りて挑むのもそれも二つある選択肢のひとつだと思うよ。逃げ出した先で誰かの手を掴むのも悪くないと俺は思う」
「──蒼太、酔ってるね」
「あぁ、俺が飲めない分飲んでるからな」
「酔ってない」
「酔ってるな」
誰かがふっと息を吐き示し合わせたようにみんなで笑った。
ゲラゲラと笑う。
うるさいのに心地よくて落ち着く時間。
肉が香ばしく焼け、ピーマンは焦げてしまった。
それでもなんだか楽しくて焦げたピーマンを食べる。
タレが甘くてピーマンは焦げ臭くて苦い。
それを飲み下したビールも苦くて、それでも美味しい。
ささやかで優しい時間がゆっくり流れていく。
海斗は早々に眠ってしまい、片付けは相変わらずαの二人が担当する。
掃き出し窓の外はもう真っ白でなおもしんしんと雪が降っている。
いつかのように陸と二人でお茶を飲む。
「どうして優しくするんですか?僕は嘘つきなのに」
「そんなの、海斗が好きな人だからだよ。息子の好きな人は僕ら親も好きでいたいからだよ」
子どもは正直だし人をよく見てるよ、とじっと見つめられる。
なんだか落ち着かなくて目が見れない。
「それに、金ちゃんも稔さんのこと気に入ってるみたいだしね」
ニヤリと笑われてますます困ってしまう。
「・・・でも、僕がその気持ちを受け取ってしまうわけにはいかなくて・・・」
「どうして?」
そう、僕は大事なことを忘れていたことに今さら気づいてしまった。
どうすればいい。
話してもいいだろうか、と迷ってしまう。
話したところで解決策があるものか、とも思ってしまう。
また逃げるのか、と胸が痛くなる。
何が正解なのかわからず言いあぐねている。
「金ちゃん、フラれちゃったかぁ」
「っそうじゃなくて!・・・その、もうずっと発情期がきてなくて」
「・・・え?」
「・・・僕はもう、Ωじゃないのかもしれない」
「そんなことっ」
「ないとは言いきれないですよね?」
思わずでたキツい言葉に自分でも驚いた。
しまった、と思った時にはもう遅かった。
思わず、ゴクリと息を飲む。
「あ、ごめんなさい。そうじゃなくて、その・・・」
あたふたと言い訳めいたことしか口にできない歯がゆさに唇を噛んでしまう。
「どうかした?」
「あ・・・」
見上げたその先の顔にホッとしてしまう自分がいる。
僕が何者でもいい、と抱きしめてくれた。
強引なのに優しくするりと僕の心に入ってきた。
愛しい人、と言ってくれた。
どんなことだって受け入れてくれるような気がした。
けれど、そんな気がしただけで本当にそうかはわからない。
発情期がこない、いざ言葉にだしてしまうと、それが僕を現実に引き戻す。
Ωとしての僕を求めているのだとしたら、また僕は置いていかれてしまう。
もし、そうなってしまったら今度こそ僕はもう僕でいられない。
「もう帰ろうか?」
大きな手で背中をさすられて、ガクガクと頷くことしかできない。
さっきまで暖かかった気持ちが急激に冷めていく。
誰の顔も見れない、見たくない。
もう、ここから逃げ出したい。
ホットプレートで肉や野菜をじゅうじゅう焼く。
海斗はウインナーばかり食べた。
僕が泣いたことなんてまるで無かったように、あのクリスマスの時と変わらぬ陽気さで食べる。
ビールを飲み肉を食べ、キャベツやピーマンも食べる。
海斗はみぃちゃんと呼び、久しく呼ばれていなかった名に胸がキュッとなる。
呼ばれる度に面映ゆくてキュッとなる。
僕は何をどうして言葉にすればいいのかとぐるぐる考えてしまって、つい黙り込んでしまう。
「嫌な思い出なんて誰でも多かれ少なかれもってる。それは別に恥ずべきことでも忌むべきことでもない。それを乗り越えてこそ人は成長する、なんて事も俺は思わない。いいじゃないか、逃げ出したって。それもひとつの道だし、自分の手でも誰かの手を借りて挑むのもそれも二つある選択肢のひとつだと思うよ。逃げ出した先で誰かの手を掴むのも悪くないと俺は思う」
「──蒼太、酔ってるね」
「あぁ、俺が飲めない分飲んでるからな」
「酔ってない」
「酔ってるな」
誰かがふっと息を吐き示し合わせたようにみんなで笑った。
ゲラゲラと笑う。
うるさいのに心地よくて落ち着く時間。
肉が香ばしく焼け、ピーマンは焦げてしまった。
それでもなんだか楽しくて焦げたピーマンを食べる。
タレが甘くてピーマンは焦げ臭くて苦い。
それを飲み下したビールも苦くて、それでも美味しい。
ささやかで優しい時間がゆっくり流れていく。
海斗は早々に眠ってしまい、片付けは相変わらずαの二人が担当する。
掃き出し窓の外はもう真っ白でなおもしんしんと雪が降っている。
いつかのように陸と二人でお茶を飲む。
「どうして優しくするんですか?僕は嘘つきなのに」
「そんなの、海斗が好きな人だからだよ。息子の好きな人は僕ら親も好きでいたいからだよ」
子どもは正直だし人をよく見てるよ、とじっと見つめられる。
なんだか落ち着かなくて目が見れない。
「それに、金ちゃんも稔さんのこと気に入ってるみたいだしね」
ニヤリと笑われてますます困ってしまう。
「・・・でも、僕がその気持ちを受け取ってしまうわけにはいかなくて・・・」
「どうして?」
そう、僕は大事なことを忘れていたことに今さら気づいてしまった。
どうすればいい。
話してもいいだろうか、と迷ってしまう。
話したところで解決策があるものか、とも思ってしまう。
また逃げるのか、と胸が痛くなる。
何が正解なのかわからず言いあぐねている。
「金ちゃん、フラれちゃったかぁ」
「っそうじゃなくて!・・・その、もうずっと発情期がきてなくて」
「・・・え?」
「・・・僕はもう、Ωじゃないのかもしれない」
「そんなことっ」
「ないとは言いきれないですよね?」
思わずでたキツい言葉に自分でも驚いた。
しまった、と思った時にはもう遅かった。
思わず、ゴクリと息を飲む。
「あ、ごめんなさい。そうじゃなくて、その・・・」
あたふたと言い訳めいたことしか口にできない歯がゆさに唇を噛んでしまう。
「どうかした?」
「あ・・・」
見上げたその先の顔にホッとしてしまう自分がいる。
僕が何者でもいい、と抱きしめてくれた。
強引なのに優しくするりと僕の心に入ってきた。
愛しい人、と言ってくれた。
どんなことだって受け入れてくれるような気がした。
けれど、そんな気がしただけで本当にそうかはわからない。
発情期がこない、いざ言葉にだしてしまうと、それが僕を現実に引き戻す。
Ωとしての僕を求めているのだとしたら、また僕は置いていかれてしまう。
もし、そうなってしまったら今度こそ僕はもう僕でいられない。
「もう帰ろうか?」
大きな手で背中をさすられて、ガクガクと頷くことしかできない。
さっきまで暖かかった気持ちが急激に冷めていく。
誰の顔も見れない、見たくない。
もう、ここから逃げ出したい。
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