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告白

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上木家の玄関前で服についた雪を払う。
大粒の雪がどんどん降ってきて、積もりそうだなと思う。
パンパンと払いながら、どうしてもクリスマス以来の上木家に緊張してしまう。
昨日の醜態は既に陸にも伝わっているだろうと思うとなおさら。
一穂はコートを脱ぎ豪快にバッサバッサと雪をふるい落としている。
カチャとちいさな鍵の開く音がしたかと思うとそろりとドアが開く。
ドアを開けた蒼太の足の隙間から海斗がひょこっと顔を覗かせた。

「しのぶちゃん!」

ぎゅうと海斗に抱きつかれ、つい笑顔になってしまう。
きのうないちゃったのだいじょうぶ?と見上げられ、今度は困ってしまう。
曖昧な笑みに不思議そうな海斗。

「寒いから早く入れ」

クリスマスの時のように海斗にぐいぐいと手を引っ張られる。
お邪魔します、とリビングに顔を見せると挨拶もそこそこに陸がキッチンへいってしまう。

「はい、これ」

タオルで巻いたアイスノンを渡される。

「そんなにひどいですか?」
「うん。どんだけ泣いたの?」
「海斗くんには心配かけちゃって」

あはは、と乾いた笑いしか出てこない。
アイスノンは冷っこくて瞼が痛いくらいだった。
グリグリ押さえているとコーヒーの香りが鼻をくすぐる。

「言いたいことも言えないこともあるだろうけど、僕らには聞く準備も覚悟もあるからね」

陸の優しい声でまた目の奥がツキと痛んだ。
どこから来たかもわからない得体の知れない奴にどうしてこんなにも優しいのだろう、と息を止める。
でないとまた涙が溢れてしまいそうになる。

「しのぶちゃん、ぼくがないちゃったからないちゃったの?」

違う、違うよ、と首を振る。

「じゃあ、しのぶちゃんもかなしいことがあったからないちゃったの?」

瞼が痛いほど冷たいのにその奥が熱い。
その熱さを止めようと思うと、今度は喉がグッと痛くなる。
せり上がってくる何かを押しとどめようとすると、鼻の奥が痛くなる。

「しのぶちゃんもさみしいの?」

アイスノンをグッと強く強く目に押し当てる。
鼻も喉も痛くて痛くて、飲み込んだ唾液がやけに塩辛い。
大きく深呼吸しようと口を開くと、今度は目の奥の熱さが増してくる。
よしよし、と小さな手で頭を撫でられる。
そうされてようやっとホッと小さな息をつくことができた。

「・・・僕は、金谷忍では、ありません。僕の、本当の名前は、本当の僕は楢崎稔と、いいます。ごめんなさい」

しんしんと雪が降り積もる静かな部屋の中で誰かが息を飲む音が聞こえる。
もう怖くて怖くて顔もあげられない。

「おかあちゃん、しのぶちゃんはしのぶちゃんじゃないの?」
「んー、お名前が変わっただけで中身は一緒だよ?」
「そうなんだ。じゃあ、みのるちゃん?」
「まあ、そうなんだけど、なんかしっくりこないね」

そっかー、と海斗の声にクスクス笑う声も聞こえる。

「じゃあ、みぃちゃんだね!」

子どもの高い声が嬉しそうに呼ぶ。
僕の涙腺はどうしようもなく壊れていて、泣かないと決意したのに押し当てられたタオルがどんどん濡れてきて痛いほど冷たいアイスノンがそれを刺激する。
体が震えるのも、喉から知らず声が出てしまうのも止められない。
胸が痛くて、瞼も鼻も痛くて手のひらもジンジンと痛くて、体中どこもかしこも痛く熱くて逃げ出したいのに足が動かない。
そっと横から頭を抱えられ髪を梳くように撫でられる。
腕にあたるお腹の膨らみが暖かくて、大丈夫だよと言ってくれる声も暖かくて、強ばった体から力が抜けていく。
アイスノンが膝に落ちて、代わりに目の前の腕に縋ってしまう。

「僕は全部、全部嫌になって逃げてきたんだ。だから、こんなに、優しくされる資格なんてないのに」
「優しくするのもされるのにも資格なんていらないよ。そうしたいって思ったら自然にそうなる。だから、かまえないで受け入れて?ね?」

胸に響く声に僕はまたしても声をあげてしまった。
泣いてばかりの自分が嫌になる。
こんなに泣いてばかりいるときっと呆れられてしまう。
そう思うとゾッとする。
泣くのは今だけ、今だけだからどうか見限らないでと願う。

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