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出会い
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「しのちゃん、ビール。アサヒで」
「はーい」
冷蔵庫から冷えた瓶ビールとグラスを取り出し、カウンター越しの客に出すのは一年前から勤めている男。
「山さん、今日は飲みすぎちゃだめだよ。また奥さんに怒られちゃうよ?」
「なんでぇ、しのちゃんうちのカミさんになんか言われたか?」
「山さんの酒癖の悪さに参ってるって」
一年前、おどおどしていた男とは思えないくらい常連客と軽口をたたく。
ニコニコ笑いながらカウンターの中で、小皿にグリーン豆を盛り客の前に置く。
スナック『叶和』はテーブル三席カウンター七席の小さな店だ。
美樹ママが一人で切り盛りする店に一年前から美貌の青年が働き出した。
青年は、しのぶという名で客からはしのちゃんと呼ばれゆっくり馴染んでいった。
「ママ、こんな別嬪さんどこで捕まえてきたんだよ」
「橋の下で箱に入って泣いてたのを拾ってきたのよ」
しのぶが働き出した当初は毎日のようにこんな会話が交わされていたことを美樹は思い出した。
橋の下ではないが美樹がしのぶを拾ったのは間違いない。
地方都市のベッドタウンと呼ぶべきか否かというほどの小さな街。
住宅街にほど近い寂れた商店街から一本外れた通りにひっそりと構えた店がスナック叶和だ。
昭和の遺物というべきか、古い県営住宅に隣接されている児童公園の壊れそうなベンチに青年は座っていた。
県営住宅には老人しか住んでおらず児童公園で遊ぶような子どもはいない。
それ故か、ブランコの鎖は錆びつき砂場の砂は固まり、滑り台は塗装が剥げ錆が浮き彫りになっていた。
そんな朽ち果てた公園に青年はいた。
夕方、店に行く美樹は青年を見かけ、綺麗な子だな、と思った。
その後、客足も悪く店を早仕舞いにし帰り道そこにまだ青年がいたことに驚いた。
夕方見かけた時と変わらず青年は県営住宅を見つめていた。
スっと伸ばされた背筋は育ちの良さを思わせた。
「ここの住宅の人の知り合い?」
思わず声をかけた美樹に青年は飛び上がった。
そう、ピョンと尻を浮かせたのだ。
おずおずと振り返り首を横にブンブンと振る仕草が可愛らしくて美樹は思わず笑ってしまう。
「じゃあ、あんた何してんの?夕方からずっとここにいるでしょ」
「・・・な、何してるんでしょうね」
あはは、と引きつった笑みを浮かべるその首元にチラリと見えるネックガード。
あぁ、訳アリのΩか・・・、美樹はそう思った。
「行くとこないなら、着いといで。ご飯食べさせてあげるよ」
歩き出す美樹におっかなびっくり着いてくる。
「あんたねぇ、警戒心ってもんがないの?」
着いてこいと言った本人が苦言を呈す。
ですよね、とへにゃりと笑うそれを見た美樹も笑った。
「あんた名前は?」
問われた青年はうろうろと視線をさ迷わせ逡巡しスっと息を吸うと
金谷忍
そう名乗った。
偽名だな、と美樹は思ったが何も言わなかった。
忍はそのまま美樹の住む家に猫が居着くように落ち着いた。
荷物はショルダーバッグ一つ。
財布と文庫本だけ。
美樹の店の手伝いをしながら、じんわりと寂れた街に忍は腰を落ち着けた。
春の初めの出来事だった。
「はーい」
冷蔵庫から冷えた瓶ビールとグラスを取り出し、カウンター越しの客に出すのは一年前から勤めている男。
「山さん、今日は飲みすぎちゃだめだよ。また奥さんに怒られちゃうよ?」
「なんでぇ、しのちゃんうちのカミさんになんか言われたか?」
「山さんの酒癖の悪さに参ってるって」
一年前、おどおどしていた男とは思えないくらい常連客と軽口をたたく。
ニコニコ笑いながらカウンターの中で、小皿にグリーン豆を盛り客の前に置く。
スナック『叶和』はテーブル三席カウンター七席の小さな店だ。
美樹ママが一人で切り盛りする店に一年前から美貌の青年が働き出した。
青年は、しのぶという名で客からはしのちゃんと呼ばれゆっくり馴染んでいった。
「ママ、こんな別嬪さんどこで捕まえてきたんだよ」
「橋の下で箱に入って泣いてたのを拾ってきたのよ」
しのぶが働き出した当初は毎日のようにこんな会話が交わされていたことを美樹は思い出した。
橋の下ではないが美樹がしのぶを拾ったのは間違いない。
地方都市のベッドタウンと呼ぶべきか否かというほどの小さな街。
住宅街にほど近い寂れた商店街から一本外れた通りにひっそりと構えた店がスナック叶和だ。
昭和の遺物というべきか、古い県営住宅に隣接されている児童公園の壊れそうなベンチに青年は座っていた。
県営住宅には老人しか住んでおらず児童公園で遊ぶような子どもはいない。
それ故か、ブランコの鎖は錆びつき砂場の砂は固まり、滑り台は塗装が剥げ錆が浮き彫りになっていた。
そんな朽ち果てた公園に青年はいた。
夕方、店に行く美樹は青年を見かけ、綺麗な子だな、と思った。
その後、客足も悪く店を早仕舞いにし帰り道そこにまだ青年がいたことに驚いた。
夕方見かけた時と変わらず青年は県営住宅を見つめていた。
スっと伸ばされた背筋は育ちの良さを思わせた。
「ここの住宅の人の知り合い?」
思わず声をかけた美樹に青年は飛び上がった。
そう、ピョンと尻を浮かせたのだ。
おずおずと振り返り首を横にブンブンと振る仕草が可愛らしくて美樹は思わず笑ってしまう。
「じゃあ、あんた何してんの?夕方からずっとここにいるでしょ」
「・・・な、何してるんでしょうね」
あはは、と引きつった笑みを浮かべるその首元にチラリと見えるネックガード。
あぁ、訳アリのΩか・・・、美樹はそう思った。
「行くとこないなら、着いといで。ご飯食べさせてあげるよ」
歩き出す美樹におっかなびっくり着いてくる。
「あんたねぇ、警戒心ってもんがないの?」
着いてこいと言った本人が苦言を呈す。
ですよね、とへにゃりと笑うそれを見た美樹も笑った。
「あんた名前は?」
問われた青年はうろうろと視線をさ迷わせ逡巡しスっと息を吸うと
金谷忍
そう名乗った。
偽名だな、と美樹は思ったが何も言わなかった。
忍はそのまま美樹の住む家に猫が居着くように落ち着いた。
荷物はショルダーバッグ一つ。
財布と文庫本だけ。
美樹の店の手伝いをしながら、じんわりと寂れた街に忍は腰を落ち着けた。
春の初めの出来事だった。
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