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幼なじみ

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午後からの講義は眠くなる。
窓際に陣取りぼんやりと外を眺める。
教授の低い声がまるで子守唄のようにふわふわと漂っている。
窓から見えるベンチには男が一人座っている。
見つめていると男がこちらを見上げ目があった。
そのまま見つめあっていると、男の目線が外れその先を見つめた。
駆け寄って来た小柄な男が座る男の隣に座り腕を絡めた。
僕はそのままその光景を見ていた。
もう座る男と目が合うことはなかった。
二人はそのままその場を立ち去った。
僕は見えなくなるまで男の背中を見つめた。
それから、僕が窓際の席に座ることはなかった。



「みぃちゃん」

声をかけられ振り返る。
困り顔の幼なじみがそこにはいた。
小学校の頃からいつも僕の手を引いてくれていた二人。
この二人だけは僕を置き去りにはしなかった。

「聞いたよ」
「そう」
「あいつ、運命に出会ったって話してた」
「そう」
「みぃちゃん!!」

声を荒らげる幼なじみについ笑ってしまう。

みのる詳しく話せ」
「詳しくもなにもそのままだよ。運命に出会った。僕とは終わった。それだけ」
「みぃちゃん・・・」
「なんで沙也加さやかが泣くかな」
「稔、行くぞ」

そう言われそのまま僕の両腕は二人に囚われ連行された。
二人が同棲するマンションは居心地よく整えられいつ来てもホッとする安心感があった。
大きなマグにインスタントのコーヒーが湯気をたてている。
沙也加はそれに砂糖とミルクをたっぷり入れる。
僕と貴史たかしはそのままブラックで飲む。

「運命とはそんなにも抗えないものなのか?」

貴史が喉から絞り出すように問う。

「出会ってないから僕にはわからないよ」

薄く笑う僕に二人は傷ついたような顔をする。
彼らはβだ。
βにはαとΩのことはわからない。
心のもっと奥深く遺伝子で惹かれ合う性のことは理解できない。
理解出来なくていいと思う。
βの二人が惹かれ合い恋に落ち、愛を育む様を傍でずっと見てきていた。
この世で一番尊いものだと思った。
眩しく美しいそれは僕にとっての憧れであり真実の愛だとそう思わせた。
僕なんかのことでそんな顔をしてほしくない。
いつものように笑ってほしい。

「わっ、わだじがαだっだらぜっだいみぃちゃんとげっごんずるー」
「俺も」

沙也加が鼻水垂らして号泣しながら言う。
貴史も同じように言う。
僕は笑って、二人も笑う。
三人で笑う。

「じゃあ、二人に子供ができたら稔って名前つけてもらおうかな。あ、縁起悪いか」

そして、また三人で笑った。
沙也加は泣きながら笑っているので絶妙に不細工な顔になった。
それを見て、貴史と二人で笑って今度は沙也加が怒っていた。
不細工な沙也加は可愛い。
それを見る貴史は優しい。
そんな二人がこの世で一番好きだ。
僕を引っ張りあげてくれる二人が僕は本当に大好きだったんだ。
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