夢見のミュウ

谷絵 ちぐり

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夢見の末路

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 侍女はジーマと名乗った。古代の言葉で″みそっかす″という意味らしい。酷い名だと思う。彼女の両親はどんな思いで彼女にそんな名を贈ったのだろう。

「わたくしはとある子爵家の五女だったのです」
?」
「えぇ、わたくしには尾があるのです」
「……へ?」

 場所はベッドの上、小さなテーブルを置いてもらいその上にはミュウの昼食が乗っている。クラッカーとスープ、青菜で薄切りの肉をくるくると巻いたもの。そのクラッカーがミュウの手からぽとりとスープに落ちた。ジーマはグラスに水を注ぎながら、明日も晴れますよ位の気軽さで言った。

「立派なものじゃございません。尾てい骨という場所をご存知ですか?そこに短い尾のようなものがあるのでございます。それを両親は不気味がりましてね、わたくしは生後まもなく教会預かりになりました」

 一度言葉を交わせば二度も三度も同じだというように、ジーマはミュウと会話するようになった。怒られない?と聞けば、怒られましょうとふふと小さく笑う。

「ケイレブ様は当時わたくしがいた教会の司祭様のお子様でした。幼い頃から好奇心旺盛なお子様で、熱心に色んな文献を読み漁っておいででした。そして、お父上である司祭様にわたくしのことを聞き及んだのでしょう。わたくしに尾を見せてくれと仰ったのです」

 ジーマはそれはそれは懐かしそうに、そして楽しそうに語った。

「当時わたくしはもう十八でございました。ケイレブ様はまだ十歳、まだまだ子どもといえど肌を晒すなんてこと、到底飲み込める話ではございません。けれど、あまりに熱心に毎日のようにお願いされるものですから…」
「見せたん?」
「えぇ、両親に捨てられるきっかけになった尾でございます。どんなに醜いか…けれどケイレブ様は、こう、目を輝かせましてね。痛くはないか?不便はないか?と質問責めに合いまして…」

 ここでジーマは一区切りをつけて、ほぅと息を吐いた。

「わたくしは自分のことを人になれない出来損ないだと思っておりました。ですから、わたくしを受け入れてくださった教会に生涯お仕えしようとそう心に決めていたのです。しかし、ケイレブ様はわたくしを出来損ないではないと仰るのです」
「それは、そうやろ?そんなん…だって、ジーマは優しいやん」

 まぁ、とジーマは口元に手を添えてふふふと嬉しそうに笑った。言葉が無かった頃もジーマはミュウを手荒に扱うことはしなかった。湯浴みの時は傷ついた肌に優しく布をあてて洗ってくれた、包帯を巻くのも上手いし、飴玉もくれた。あの甘さは心に沁みた。

「この世には特別な力を持ったお人がおりますでしょう?風を操ってみたり、遠くの出来事がわかったり」
「うん」
「わたくしはその方たちと同じだとケイレブ様は仰るのです。この大陸は幾度となく滅亡の危機に瀕していた、その為に未来を予知したり、特別な力で乗り越えて来たのだと教会に古くから伝わる書物に書いてあるそうです。ですから、その特別な力も先祖返りの一種だと。なのに、その様な方は崇められ、わたくしのような者は蔑まれるというのはおかしいとそう仰るのですよ、あの方は」
「…そう、なんや」
「ですから…、その癒しの力というんですか?それがあればわたくし共のような者を救えるかもしれない、と。ジュリアン殿下だけではないのです」
「…知ってたん?」
「えぇ、わたくしは肌を晒したあの時からケイレブ様にお仕えしております」

 ケイレブは癒しの力は希望だと言った。ジュリアンだけじゃなかった。目の前のジーマもただと違うところがあったただけで両親に捨てられた。知らなかった、それは言い訳になるだろうか。

「──っごめ…ごめん、なさい。僕、僕が…」
「触れてもよろしいですか?」

 ひっくひっくと涙を流すミュウ、溢れる涙を拭う手の甲をジーマは優しく握った。

「ミューロイヒ様、道はひとつではございません」
「ん?」
「ケイレブ様はわたくしの尾を見るまで諦めませんでした。諦めの悪いお方なのです」

 どういうこと?キョトンと涙の引っ込んだミュウにジーマはその手を撫でた。その手はすごく優しくて、そこに尾があるとかないとかそんなことは関係ないように思えた。




 ※ここまで読んでくださりありがとうございます!
 ※BL大賞応援ありがとうございました(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)

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