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庶民のお知らせ
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卒業パーティで婚約破棄されたルナリースは走って走って、貴族街にある質屋へやってきた。
頭の先からつま先まで買い取って貰うために。
自分が貴族籍を抜けたことが広まるのは早くても明日だろうと算段をつけたのだ。
「これは、ジョルジュ様。いかがなされましたか?」
店じまいの準備をしていたであろう店主にルナリースは荒い息を収め声をかける。
「買取をお願いしたい」
「どちらを?」
「全てだ」
ルナリースは腰まで伸ばした蜂蜜色の美しい髪も売った。
限界ギリギリまで切れ、との言葉に店主は慄いたが公爵家には逆らえない。
ルナリースはいがぐり頭になり、質屋の店主のお下がりを格安で売ってもらった。
いや、半ば強引に奪ったとでも言おうか。
こうしてルナリースは当座の資金を手に入れホクホクで平民街へと消えた。
「リース!あんたまた配達先でサボったね?」
「えぇー、なんでバレた?」
平民街の裏道に店を構える『ドルマン酒店』にいがぐり頭の男が働き出したのはつい先日の事。
いがぐり頭はリースと名乗り、酒店の二階の一室を貸してくれとやってきた。
いがぐり頭ではあるが、目鼻立ちは実に整っておりなんだかちぐはぐな気がした、と後に女将は語る。
「だって、あそこの飯うまいんだもん」
「だもん、じゃないよったく」
引っ詰め髪を頭の上で結っている女将は、腰に手を当て怒っていたが飄々としたリースに毒気を抜かれ手をするりと下ろした。
リースは頭の裏で腕を組んで、へへへと笑う。
笑う顔は屈託がなく、輝いていた。
「もういいよ。夕飯の買い出しに行っておくれ」
「肉買っていい?」
「あんたはそればっかりだねぇ」
女将は笑ってリースに金を渡した。
リースは平民街をプラプラと歩きながら、肉屋へ向かう。
背後を誰かつけている気がしたが、気にせず歩いた。
途中、八百屋の親父に芋と人参の取り置きを頼んでまた歩く。
「兄様!ルナ兄様!!」
リースの歩調は緩まない。
口笛でも吹きそうな気軽さでとっとと歩いて肉屋にたどり着いた。
「親父、骨付きのチキンをくれよ。そうだな5本」
「ルナ兄様!」
「リース、おめえ弟がいたのか?」
「何言ってんだ。俺は生まれてからこの方ずっと一人だよ」
「ルナ兄様!!」
「んじゃ、おめえ誰から生まれたってんだ」
「木の股じゃねえかな」
肉屋の親父は陽気に笑い、リースも合わせて声をたてて笑った。
骨付きチキン5本を受け取りリースは元来た道を引き返していく。
「兄様・・・どうして無視するんですか」
グズグズと泣き声が背後から聞こえたがリースは気にせず歩いて、ちょうど通りかかった憲兵に声をかけた。
「迷子じゃねえかな」
そう言ってリースはその場を後にした。
リースがルナリースであった頃、物心ついた時から自分の意思はなかった。
思うように体は動かず、心とは真逆の言葉ばかりが口をついて出た。
年子の弟を可愛がりたくとも出来なかった。
にいさま、と舌足らずに呼ばれた時は嬉しくてたまらなかったのにそのあどけない頬を張った。
カトラリーを落とした使用人の足を踏みつけた時もそんなことはしたくなかった。
違う、違うと何度も何度も言おうとするがその度に喉に詰め物があるように言葉には出来なかった。
抗えない何かに操られ、10歳を超えた頃にはもう諦めた。
継承争いがないようにと第二王子の婚約者になった。
心底どうでもよかった。
このまま人形のように生きるのだ、と思っていたのだ。
「ルナ兄様ー!!」
涙ながらの声が聞こえるがそれを振り切るようにリースは足を早めた。
地獄に戻るなんてまっぴらだ。
頭の先からつま先まで買い取って貰うために。
自分が貴族籍を抜けたことが広まるのは早くても明日だろうと算段をつけたのだ。
「これは、ジョルジュ様。いかがなされましたか?」
店じまいの準備をしていたであろう店主にルナリースは荒い息を収め声をかける。
「買取をお願いしたい」
「どちらを?」
「全てだ」
ルナリースは腰まで伸ばした蜂蜜色の美しい髪も売った。
限界ギリギリまで切れ、との言葉に店主は慄いたが公爵家には逆らえない。
ルナリースはいがぐり頭になり、質屋の店主のお下がりを格安で売ってもらった。
いや、半ば強引に奪ったとでも言おうか。
こうしてルナリースは当座の資金を手に入れホクホクで平民街へと消えた。
「リース!あんたまた配達先でサボったね?」
「えぇー、なんでバレた?」
平民街の裏道に店を構える『ドルマン酒店』にいがぐり頭の男が働き出したのはつい先日の事。
いがぐり頭はリースと名乗り、酒店の二階の一室を貸してくれとやってきた。
いがぐり頭ではあるが、目鼻立ちは実に整っておりなんだかちぐはぐな気がした、と後に女将は語る。
「だって、あそこの飯うまいんだもん」
「だもん、じゃないよったく」
引っ詰め髪を頭の上で結っている女将は、腰に手を当て怒っていたが飄々としたリースに毒気を抜かれ手をするりと下ろした。
リースは頭の裏で腕を組んで、へへへと笑う。
笑う顔は屈託がなく、輝いていた。
「もういいよ。夕飯の買い出しに行っておくれ」
「肉買っていい?」
「あんたはそればっかりだねぇ」
女将は笑ってリースに金を渡した。
リースは平民街をプラプラと歩きながら、肉屋へ向かう。
背後を誰かつけている気がしたが、気にせず歩いた。
途中、八百屋の親父に芋と人参の取り置きを頼んでまた歩く。
「兄様!ルナ兄様!!」
リースの歩調は緩まない。
口笛でも吹きそうな気軽さでとっとと歩いて肉屋にたどり着いた。
「親父、骨付きのチキンをくれよ。そうだな5本」
「ルナ兄様!」
「リース、おめえ弟がいたのか?」
「何言ってんだ。俺は生まれてからこの方ずっと一人だよ」
「ルナ兄様!!」
「んじゃ、おめえ誰から生まれたってんだ」
「木の股じゃねえかな」
肉屋の親父は陽気に笑い、リースも合わせて声をたてて笑った。
骨付きチキン5本を受け取りリースは元来た道を引き返していく。
「兄様・・・どうして無視するんですか」
グズグズと泣き声が背後から聞こえたがリースは気にせず歩いて、ちょうど通りかかった憲兵に声をかけた。
「迷子じゃねえかな」
そう言ってリースはその場を後にした。
リースがルナリースであった頃、物心ついた時から自分の意思はなかった。
思うように体は動かず、心とは真逆の言葉ばかりが口をついて出た。
年子の弟を可愛がりたくとも出来なかった。
にいさま、と舌足らずに呼ばれた時は嬉しくてたまらなかったのにそのあどけない頬を張った。
カトラリーを落とした使用人の足を踏みつけた時もそんなことはしたくなかった。
違う、違うと何度も何度も言おうとするがその度に喉に詰め物があるように言葉には出来なかった。
抗えない何かに操られ、10歳を超えた頃にはもう諦めた。
継承争いがないようにと第二王子の婚約者になった。
心底どうでもよかった。
このまま人形のように生きるのだ、と思っていたのだ。
「ルナ兄様ー!!」
涙ながらの声が聞こえるがそれを振り切るようにリースは足を早めた。
地獄に戻るなんてまっぴらだ。
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