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四男
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トルーマン家の四男は『真昼の月』と呼ばれている。
なんとも美しい通り名だが、実際は違う。
真昼間に月など見えてもなんの役にもたたない。
月は夜空に輝いてこそ夜道を照らし、輝きを見上げた人の心を震わせるのだ。
そこからもわかるようにトルーマン家四男リュミエスは、箸にも棒にもかからないαであった。
日がな領地をぷらぷら歩き回り、小川に足をつけ子供たちと本気でかくれんぼや鬼ごっこに興じている。
そんな次期当主リュミエスに転機が訪れる。
王都の公爵家よりリュミエスに縁談がきたのだ。
なんの罠だ?と父母は戦慄した。
次男のランジュはのほほんとしており、当の本人のリュミエスは何処吹く風であった。
それから数日後、トルーマン領を四頭立ての馬車とそれに連なる荷車が通り抜ける。
領民たちは、またファミーユ坊ちゃんが何かやらかしたか?と思っていた。
あながちそれが間違いではないのに気づくのは遠くない未来の話である。
四頭立ての馬車はトルーマン家の玄関と思わしき場所にピタリとつける。
馬車から降りてきた人物は輝かんばかりの銀髪を肩で揺らした美しきΩであった。
玄関先に出てきたトルーマン一家、父母は顎が落ちそうなほどに驚き、次男のランジュはあまりの美しさに目を見張っていた。
リュミエスだけが微笑み、美しきΩをエスコートし屋敷に招きいれた。
美しきΩの名はサイラス・バレンス。
名門バレンス公爵家の末子で王太子の元婚約者であった。
父ならず母も土下座しかけたその時、サイラスは微笑んでその白魚のような手で二人を制した。
「私はファミーユに感謝しているのです」
サイラスが語った内容は到底信じられぬものであったが、当の本人がその名に恥じぬ太陽の微笑みを浮かべているものだから父母は黙りこくった。
父母の脳裏には、してやったりという顔の長男が浮かんでいる。
サイラスは幼少より名門に恥じぬ教養と礼儀をそれはそれは厳しく叩き込まれた。
しかし、性判定でΩとわかるやいなや、当時は第一王子であったその人の婚約者になってしまった。
それまでの教育はどこへいったのか、Ωらしくαに可愛がられるようにと言い含められるようになった。
しかし、サイラスは大変優秀であった。
知識欲がありグングン吸収していたものが、突然可愛げがないという理由で取り上げられたのだ。
そして、第一王子も大変優秀であった。
優秀な者二人が添えばこの国は安泰だ、と思われていた。
だが、実情はそうではない。
お互いに優秀故に衝突する方が多かった。
似たもの同士故に、反りが合わないというやつである。
そこへ、田舎からでてきた凡庸なファミーユが現れた。
礼儀も教養も中途半端だが、素直で純粋純朴なファミーユ。
幼子のような愛くるしい仕草に、つと眼鏡がずれた時の可愛らしい顔。
第一王子はすぐさま心を奪われた。
サイラスとしてはどうでも良かったが、面目上ファミーユと話をせねばならない。
場を設け、対峙した時ファミーユはこう言った。
「あの王子は僕が引き受けます。甘えて褒めたたえればきっと良き王になるでしょう。サイラス様はどなたかの補佐で収まる方ではございません。ご自身で道を切り開きたい、そういう性分ではございませんか?」
サイラスは方向性こそ違うがファミーユの野心を嗅ぎとった。
これをきっかけにサイラスとファミーユは手を組むこととなる。
ファミーユは第一王子を手のひらでコロコロ転がし、立太子させた。
婚約解消は実になめらかに行われ、バレンス公爵家と王家で禍根が残ることもなかった。
そして、ファミーユは言うのだ。
「やりがいのある仕事があるのです。一から領地を建て直してみませんか?」
こうしてサイラスはトルーマン男爵領にやって来たのである。
表向きはリュミエスの婚約者として、実際は領地建て直しというやりがいのある仕事として。
しかし、人生とは何が起こるかわからないものである。
事情を全て聞き、父母が納得したところでサイラスの部屋を用意した。
公爵子息にはとんだウサギ小屋のような屋敷だが、サイラスは文句ひとつ言わなかった。
そして、すっかり置いてけぼりになったかと思われたリュミエスだったが、その夜サイラスの部屋を訪れた。
年上の、公爵子息の、王太子の元婚約者の、と問題山積のようであるがリュミエスは『可愛い』の一言でそれらを吹っ飛ばしサイラスを抱いた。
サイラスはサイラスで、気高く美しく教養もあるので可愛げがないと元婚約者に言われてきていたのだ。
年下の、家格が低いの、友人の弟の、とこちらも問題山積であったがサイラスは絆された。
「サリー可愛い。僕だけに可愛いサリーを見せて?サリー、僕の太陽」
甘く囁かれてサイラスはリュミエスに心を奪われた。
その後、サイラスは自身の手腕を遺憾なく発揮し領地改革に務めた。
トルーマン家の真昼の月は極上の太陽を手に入れた。
そして、月は夜こそ本領発揮する。
サイラスという太陽を可愛い可愛いと甘やかし、またサイラスもリュミエスにこれでもかと甘えた。
トルーマンの四兄弟はそれぞれに幸せを掴み、末永く幸せに暮らした。
めでたしめでたし。
☽︎︎.*·̩͙ おしまい ☀︎*.。
読んでいただきありがとうございました。
本編はこちらで終了です(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎)
なんとも美しい通り名だが、実際は違う。
真昼間に月など見えてもなんの役にもたたない。
月は夜空に輝いてこそ夜道を照らし、輝きを見上げた人の心を震わせるのだ。
そこからもわかるようにトルーマン家四男リュミエスは、箸にも棒にもかからないαであった。
日がな領地をぷらぷら歩き回り、小川に足をつけ子供たちと本気でかくれんぼや鬼ごっこに興じている。
そんな次期当主リュミエスに転機が訪れる。
王都の公爵家よりリュミエスに縁談がきたのだ。
なんの罠だ?と父母は戦慄した。
次男のランジュはのほほんとしており、当の本人のリュミエスは何処吹く風であった。
それから数日後、トルーマン領を四頭立ての馬車とそれに連なる荷車が通り抜ける。
領民たちは、またファミーユ坊ちゃんが何かやらかしたか?と思っていた。
あながちそれが間違いではないのに気づくのは遠くない未来の話である。
四頭立ての馬車はトルーマン家の玄関と思わしき場所にピタリとつける。
馬車から降りてきた人物は輝かんばかりの銀髪を肩で揺らした美しきΩであった。
玄関先に出てきたトルーマン一家、父母は顎が落ちそうなほどに驚き、次男のランジュはあまりの美しさに目を見張っていた。
リュミエスだけが微笑み、美しきΩをエスコートし屋敷に招きいれた。
美しきΩの名はサイラス・バレンス。
名門バレンス公爵家の末子で王太子の元婚約者であった。
父ならず母も土下座しかけたその時、サイラスは微笑んでその白魚のような手で二人を制した。
「私はファミーユに感謝しているのです」
サイラスが語った内容は到底信じられぬものであったが、当の本人がその名に恥じぬ太陽の微笑みを浮かべているものだから父母は黙りこくった。
父母の脳裏には、してやったりという顔の長男が浮かんでいる。
サイラスは幼少より名門に恥じぬ教養と礼儀をそれはそれは厳しく叩き込まれた。
しかし、性判定でΩとわかるやいなや、当時は第一王子であったその人の婚約者になってしまった。
それまでの教育はどこへいったのか、Ωらしくαに可愛がられるようにと言い含められるようになった。
しかし、サイラスは大変優秀であった。
知識欲がありグングン吸収していたものが、突然可愛げがないという理由で取り上げられたのだ。
そして、第一王子も大変優秀であった。
優秀な者二人が添えばこの国は安泰だ、と思われていた。
だが、実情はそうではない。
お互いに優秀故に衝突する方が多かった。
似たもの同士故に、反りが合わないというやつである。
そこへ、田舎からでてきた凡庸なファミーユが現れた。
礼儀も教養も中途半端だが、素直で純粋純朴なファミーユ。
幼子のような愛くるしい仕草に、つと眼鏡がずれた時の可愛らしい顔。
第一王子はすぐさま心を奪われた。
サイラスとしてはどうでも良かったが、面目上ファミーユと話をせねばならない。
場を設け、対峙した時ファミーユはこう言った。
「あの王子は僕が引き受けます。甘えて褒めたたえればきっと良き王になるでしょう。サイラス様はどなたかの補佐で収まる方ではございません。ご自身で道を切り開きたい、そういう性分ではございませんか?」
サイラスは方向性こそ違うがファミーユの野心を嗅ぎとった。
これをきっかけにサイラスとファミーユは手を組むこととなる。
ファミーユは第一王子を手のひらでコロコロ転がし、立太子させた。
婚約解消は実になめらかに行われ、バレンス公爵家と王家で禍根が残ることもなかった。
そして、ファミーユは言うのだ。
「やりがいのある仕事があるのです。一から領地を建て直してみませんか?」
こうしてサイラスはトルーマン男爵領にやって来たのである。
表向きはリュミエスの婚約者として、実際は領地建て直しというやりがいのある仕事として。
しかし、人生とは何が起こるかわからないものである。
事情を全て聞き、父母が納得したところでサイラスの部屋を用意した。
公爵子息にはとんだウサギ小屋のような屋敷だが、サイラスは文句ひとつ言わなかった。
そして、すっかり置いてけぼりになったかと思われたリュミエスだったが、その夜サイラスの部屋を訪れた。
年上の、公爵子息の、王太子の元婚約者の、と問題山積のようであるがリュミエスは『可愛い』の一言でそれらを吹っ飛ばしサイラスを抱いた。
サイラスはサイラスで、気高く美しく教養もあるので可愛げがないと元婚約者に言われてきていたのだ。
年下の、家格が低いの、友人の弟の、とこちらも問題山積であったがサイラスは絆された。
「サリー可愛い。僕だけに可愛いサリーを見せて?サリー、僕の太陽」
甘く囁かれてサイラスはリュミエスに心を奪われた。
その後、サイラスは自身の手腕を遺憾なく発揮し領地改革に務めた。
トルーマン家の真昼の月は極上の太陽を手に入れた。
そして、月は夜こそ本領発揮する。
サイラスという太陽を可愛い可愛いと甘やかし、またサイラスもリュミエスにこれでもかと甘えた。
トルーマンの四兄弟はそれぞれに幸せを掴み、末永く幸せに暮らした。
めでたしめでたし。
☽︎︎.*·̩͙ おしまい ☀︎*.。
読んでいただきありがとうございました。
本編はこちらで終了です(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎)
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