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三男

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トルーマン家の庭で一人の精悍な男が木剣で素振りをしている。
草が生い茂るそこを庭と呼んでいいものか議論の余地があるが、トルーマン家では皆そこを庭と呼ぶ。
どこから種が飛んできたものか、たまにトマトが生ったりもする。
緑の中の赤い宝石を見つけると家族全員で喜び神に感謝していた。
肥料も世話も何もかけずに育った野生のトマトの味は実に力強かった。
そこで、日課の素振りをするのはこの度繰り上がり当選した三男ニコラスである。

ニコラスには兄が二人弟が一人。
長男は野心家で次男はのほほんとしており、三男は気苦労が絶えなかった。
いくらαといえど、後継は長子と決まっていたのでニコラスは幼い頃から自身の身の振り方を模索していた。
そしてたどり着いたのが剣の道である。
騎士になろう!そう決意したのが齢六つの頃。
『コラソンのえいゆう』という絵本の影響だ。
コラソンの英雄は恐ろしく強くかっこよかった。
なにせ、ドラゴンを一騎駆けで倒したのだから。
ドラゴンが実在するのか?というのはここでは些細な問題だ。
重要なのは、英雄が最後国から報奨を貰うというところである。
己が騎士になり出世すればいずれ、報奨が貰えるかもしれない。
それはこの領地、領民の為になる。
それに騎士になれば毎月決まった額の給金が貰える。
騎士とはなんと魅力的なんだろう、齢六つの小さな脳みそは未来を思い描いて奮起した。

それからニコラスは毎日鍛錬している。
しかし、如何せんここは王国随一の貧乏男爵家。
剣の師匠など雇えるはずもなく、ニコラスは独学で騎士の道を突き進んでいた。

「父上、騎士に必要なものはなんですか?」
「体力かなぁ。なんだ、ニコラスは騎士になりたいのか?」

父は畑を耕す手を止め額に浮かぶ汗を拭って、幼いニコラスを抱き上げた。

「はい。どうすればいいですか?」
「体力つけるなら走るんだ。地面は無料タダだ。好きなだけ走れ」

ニコラスは父の言いつけ通り領内を毎日駆け回った。
そうなれば領民たちは、どうしたのだ?とニコラスに聞く。
ニコラスは己の壮大な計画を話した。
領民たちはそれを聞き、いたく感動したものである。
ある者は木っ端で木剣もどきを作り、ある者はニコラスに剣術指南をした。

「いいかい?ニコラス坊ちゃん、下が砂や土であればまず先にそれを相手の目にぶつけるんでさァ。そうすっと相手の目が潰れる。後はわかるな?」

それが剣術ではなく、喧嘩殺法だと知るのはニコラスがもう少し大きくなってからだ。

こうしてニコラスは騎士になる為、毎日鍛錬を怠らなかった。
素振りをしながらニコラスは考える。
そして、あるひとつの可能性を思いついた。
まだ弟がいる、と。
己が騎士になり仕送りして、弟には領主代理として領内経営を行ってもらえばいい。
これ以上ない名案だと思うと、素振りにも力が入る。


そしてニコラス15歳の時、辺境伯領内騎士団の試験を受けることとなる。
なぜ、王立ではないのか?
王立は圧倒的に貴族階級が多いのだ。
貴族といえど、平民と紙一重の己ではそこでやっていける自信がない。
故にニコラスは、『荒くれ者大募集!』と銘打った辺境伯領へ行くことを決意した。
ちなみに計画を聞かされた父はあっけらかんと答えた。

「いいんじゃない?」

そう言ってトルーマン家に残る馬の最後の一頭をニコラスに預けた。

こうして馬を駆けやってきた辺境伯領。
試験は体力、知力、剣術で行われるらしい。
父上、知力が必要だとは聞いてません、とニコラスは脱力した。
しかし、ここで諦めてなるものか。
ニコラスはぐっと拳を握りしめ顔を上げた。
上げた先、壇上には筋骨隆々の男がいた。
そこから目が離せない、その男も己を見ている。
ニコラスは列から飛び出し、その筋骨隆々な雄っぱいに抱きついて匂いを嗅いだ。

運命の出会いであった。

筋骨隆々は辺境伯ラッシュ家長男でΩだった。
名をミクルという。
幼い頃より辺境伯指導の元次男と一緒に鍛錬を続けておりバースが確定した時には立派な体躯で誰もがΩだとは思わなかった。
それ故に、ミクルはΩとしての自分を諦めていた。
しかし、奇跡が起きたのだ。 
騎士団の試験に運命のαがいた。
自身の雄っぱいに顔を埋める精悍な顔のα。
ミクルのΩが開花した。

辺境伯は息子に運命が訪れたことを大層喜んだ。
こうして、家格の違いなどものともせずニコラスは辺境伯家に婿入りする。
義父になった辺境伯は男爵家の援助、支援を申し出た。

当初、婿入りに難色を示したトルーマン家現当主の父だったが、援助に支援の一言であっけなく陥落した。
手首はもはや軟体動物の様相だ。

「じゃ、後継は四男のリュミエスで」

まさかの四男が後継になる珍事が訪れた瞬間である。
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