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長男

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コラソン王国最西端にその男爵領はあった。
貴族階級常に最下位の男爵──トルーマン家である。

方々を山に囲まれ、その山から流れ出てくる清流により領内には到るところに小川がありその恩恵を受けて農業が盛んである。
盛んではあるのだが、麦も野菜もイマイチ育たない土地なのである。
原因は山から降りてくる風ではないか?と言われているが本当のところはよくわからない。
なので、収穫物は全て領民のお腹に入る。
地産地消とは聞こえがいいが、ようは他領に何も卸せないのである。
これでは外貨が稼げない、稼げない故に貧乏なのであった。

そんなトルーマン男爵家には四人の息子がいた。
長男のファミーユは凡庸なΩであった。
Ωらしいところといえば、小柄で華奢そして色白というところ。
特に見目麗しいわけではない、さりとて醜男という訳でもない。
やや幼い顔の及第点のΩであった。

さて、コラソン王国では基本的に長子相続制がとられている。
それは、ここトルーマン男爵家でも同じこと。
跡取りはファミーユであった。
いくら貧乏男爵といえど、嫡男に学がないのはまずい。
しかし、王都の貴族学院の学費はべらぼうに高額である。
‪それに対してα‬の父はあっけらかんと言い放つ。

「なんとかする」

こうしてファミーユは15歳で貴族学院の門を叩くことなる。
王都への旅立ちの朝ファミーユは弟たち、そして母(Ωの男である)にこう宣言した。

「とびきりの‪α‬捕まえてくるっっ!!」

拳を天高く掲げ、ニタリと笑った。
どこからどう見ても凡庸な長男ファミーユだが、腹の内はどす黒い野心の塊であった。
ファミーユ曰く

「王都のお坊ちゃん連中は綺麗どころなんか腐るほど見てきてるだろ?そこで僕だ」

両手の親指を自分に指してふふんと笑う。

「田舎からでてきた純情純朴な僕を王都のお坊ちゃん達は物珍しく思うだろ?チャンスはそこしかない」

言いながらスチャっと大きな丸眼鏡をかける。

「ただでさえ平凡なんだ。だからこそこの眼鏡が生きるんだよ。眼鏡を外したら可愛いと錯覚させるんだ」

どこからその自信が溢れてくるのかさっぱりわからないが家族全員でファミーユを応援した。

「僕は絶対にここの領民たちをもっと豊かにしてみせる!冬でも腹いっぱい食べられるようにしてみせる!」

決意に満ちた瞳で笑うファミーユは思いの外綺麗でなんだかいけそうな気がした。


そして、父とファミーユは馬に少ない荷物を括りつけ王都に向けて駆けて行った。
馬車などない。


それから四日後、帰ってきた父の額は薄ら赤くどうしたのだ?とみんなで聞くと、これまたあっけらかんと父は答えた。

「学費を半年待ってくれ、と土下座したんだ。αで曲がりなりにも貴族が土下座したから事務局の奴らびっくりしてたわ」

カラカラと笑う父。
プライドで飯が食えるか、父がいつも言う言葉である。
寮費はどうしたのだ?ともう一度聞く。

「そっちは一ヶ月分だけ払ってきた。ほら、ファミーユが乗っていった馬。あれを売った」

なるほど、と皆一様に頷いた。
父の言うとは土下座であった。
どれだけ床に額を擦り付けたのだろう、未だ赤みが引かない父の額を代わる代わる皆で撫でた。

「しかし、寮費が一ヶ月分では・・・」
「大丈夫だ。ファミーユが一ヶ月で人の良さそうな同期を見つけてそこに転がり込むと言っていた」

兄上ェ、と弟たちはニタリと笑うファミーユの顔を思い浮かべた。


それからきっかり半年後、ファミーユから文が届いた。
そこには簡潔に『とびきりのαを捕まえた。絶対に食らいついて離さない。学費のことは気にするな。領民たちの笑う顔が目に浮かぶようだ』と書いてあった。


いいとこの子爵でも捕まえたのだろうか、と皆で喜んだ。
そして、そこからまたきっかり半年後に仰々しい一行がトルーマン男爵領を訪れた。
すわ何事か!と身構えたトルーマン一家であったが、詳細を聞いて皆腰を抜かした。

ファミーユが捕まえたとびきりαはなんとこの国の王太子であった。

有言実行、ファミーユは宣言通りこの上ないαを掴んだのである。
兄上ェ、と弟たちが心に思い浮かべたファミーユは親指をたてて微笑んでいた。

しかし、ここで問題が浮上する。
ファミーユはこれより公爵家に養子にはいり、そこから王家に嫁ぐのだ。
となれば、トルーマン家を継ぐのは誰かということになる。

「ランジュだろ」

父の一言で跡継ぎはβの次男ランジュに決まった。

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