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おにぎりパーティ 三度
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サラサラと風に靡く金髪は背中の中ほどまでの長さで、蜂蜜色の瞳を細めて微笑む姿は全てを魅了するようだった。
その姿を見てほぅと感嘆の溜息をこぼすのは言わずもがな松竹梅の三人である。
「これに男オメガが出演するの初めてだね」
「めっちゃ美人」
「神回になりそうな予感」
上から大和、侑、周平である。
竹田家の居間ではお決まりの恋愛リアリティショーがテレビ画面に映し出され、豚汁(さつまいも)の匂いが充満していた。
こたつの中央にはお櫃が置かれ、おにぎりのための具材が並んでいる。
松竹梅の三人だけならそれでお終いの食卓に今は他のおかずも所狭しと並べられていた。
きゅうりとささみのピリ辛サラダは酒を飲む武尊と卯花のツマミとしてあるし、若い和明のためには唐揚げと分厚いハムカツも用意されている。
そして、今はおにぎりフリフリタイムだった。
「はい、卯花さんどうぞ」
「ほら、和明できたぞ」
「武さん、おかかで良かったっけ?」
皿に乗せられた丸いおにぎり、三人がそれぞれ手ずから海苔を巻いて置いていく。
画面の向こうのオメガより今この目の前の自分のオメガが可愛いと三人のアルファは一様に思っていた。
そして、画面には今回の参加者が発表される。
キター!と三人はワクワクしながら、フリフリもせずに画面に釘付けだ。
「ケン・オオツカ?」
「日本人?」
「マジか」
画面には黒髪をサイドに流してピカリと白い歯を光らせたアルファがタキシード姿で流暢な英語を話していた。
はわぁと画面を見つめる松竹梅、三人のアルファは内心面白くないと思いながらおにぎりを頬張った。
けれど三人は文句を言うことはできない、なぜながら文句ひとつで追い出すと最初に宣言されてしまったから。
「これはね、僕らの共通の趣味なの」
「だからさ、俺の方が可愛いとかそういう意見はいらん」
「どっちがかっこいい?とかそういう焼きもちもいらない」
「「「 文句言ったら追い出すから 」」」
ぐぬぬと拳を握りしめ、追い出されたくない三人はこの提案にのったと言うわけである。
「シュウ、具は何がいい?僕がフリフリする」
「焼きたらこ」
「侑さんは?」
「ツナマヨ」
「大和は?」
「高菜明太子がいい」
画面に次々と映し出される見目麗しい男たち、アルファたちは内心悪態をつきながら一心不乱にフリフリした。
ヒュッヒュッと空を切る音が心做しか怖い。
仕上がったおにぎりは手ずからそれぞれ口元に持っていく、ぱかりと開いた口が可愛い。
「決めた。セバスチャンを応援する」
「んじゃ俺はデューク。ペー助は?」
「んー、オーランかな」
番組も終盤、松竹梅はそれぞれ推しを見つけ画面にはエンディングが流れていた。
テレビを消したその後は六人で和気藹々と食事、とはならなかった。
アルファ達はなんとか松竹梅の気を引こうと一生懸命に話し、口におかずを入れる。
松竹梅の三人が話すのもままならず、視線を自分たちから逸らさせない。
焼きもちで独占欲で、だけれど当の松竹梅はというと今日めっちゃ喋るなくらいしか思っていなかった。
「んじゃ、帰るね」
「うん、気をつけてね」
「いや、すぐそこだし」
わははと笑って手を繋ぐ侑と和明に周平と大和も笑顔で手を振った。
向かう先はほんの3メートル先の柳楽家、大学進学を機に和明はここに越してきた。
ついでに和明の手によって侑も引越しさせられた。
ビールケースに乗って壁を乗り越えたりはもうしない、ちゃんと玄関の引き戸を開けて声をかける。
「ただいまぁ」
「・・・おかえり」
嗄れた声は平坦でそれでも返事を返してくれる、それが嬉しくて二人は顔を合わせてにんまりと笑い、そして声を揃えてもう一度言うのだ。
「「 ただいまー! 」」
侑と和明が辞した竹田家のキッチンでは武尊と卯花が食器を洗っていた。
その後ろ姿を見ながら周平はコーヒーを淹れ、大和は天板を拭く。
「卯花さん、また泊まるの?」
「んー、飲んでたからね。そうかも」
「代行は?」
「言うとしょげるから」
子どもみたいだよね、と笑う大和はほんのりと頬を染めた。
侑が隣家に越してから二階はほぼ大和だけが使っている、周平は仏間で武尊と一緒のことが多いから。
そうすると卯花の泊まりが増えた、大体が飲んでしまって車の運転ができないからと毎回同じことを言う。
東雲荘の跡地には卯花邸が絶賛施行中だ、設計図を何枚も見せられた大和はちんぷんかんぷんで、それでも『家事のしやすい動線』だけを卯花に伝えた。
来年の今頃には大和も新居へ越しているだろう。
寂しくなるな、と周平はマグカップにたっぷりの砂糖とミルクを入れた。
「なんの話?」
「武さん」
後ろから抱え込まれて周平はそのままいつもの体勢に収まった。
「なんでもない」
そう言って周平は砂糖もミルクも入っていないコーヒーを武尊に渡す。
大和と卯花の分はすでに盆に乗せられ、早く二階へ行こうと卯花が大和を急かしていた。
「やまち、お風呂は?」
「あとでいただきます」
卯花には聞いてないんだが?と周平が突っ込む前に、卯花は大和の背中を押して二階へと向かった。
去年の今頃はこんなことになってるなんて思ってもみなかったなぁと甘いコーヒーを飲んでふぅと周平は息を吐く。
背中にはすっかり馴染んだ体温があって、とくりとくりと規則正しい音に身を委ねた。
「・・・はぁ、幸せ」
「ん?」
「ん?」
するりと出てきた言葉、それに周平も驚いて、ん?と武尊と顔を見合わせて同時に笑う。
時の流れはいつでも変わらないと思っていた、けれどこの一年はどの一年より密度が濃くあっという間に流れていった。
ただ出会っただけなのに、ただ恋をしただけなのに、人生とはこんなにも豊かになるということを知った。
「シュウ、結婚しようね」
「うん」
開け放たれた縁側の掃き出し窓から春の心地よい風がさわさわと吹き込んでくる。
空には星が瞬き、丸い月も優しく地上を照らして、ブロロロと車が通り過ぎ、遠くではやっぱりワオーンと犬が吠えている。
松竹梅は今日も元気で、そして幸せです。
※読んでいただきありがとうございました!
今後は本編で触れられなかったことなど補完的に、あとは松竹梅のその後のお話などを番外編としてちょこちょこあげていきたいと思います。
その姿を見てほぅと感嘆の溜息をこぼすのは言わずもがな松竹梅の三人である。
「これに男オメガが出演するの初めてだね」
「めっちゃ美人」
「神回になりそうな予感」
上から大和、侑、周平である。
竹田家の居間ではお決まりの恋愛リアリティショーがテレビ画面に映し出され、豚汁(さつまいも)の匂いが充満していた。
こたつの中央にはお櫃が置かれ、おにぎりのための具材が並んでいる。
松竹梅の三人だけならそれでお終いの食卓に今は他のおかずも所狭しと並べられていた。
きゅうりとささみのピリ辛サラダは酒を飲む武尊と卯花のツマミとしてあるし、若い和明のためには唐揚げと分厚いハムカツも用意されている。
そして、今はおにぎりフリフリタイムだった。
「はい、卯花さんどうぞ」
「ほら、和明できたぞ」
「武さん、おかかで良かったっけ?」
皿に乗せられた丸いおにぎり、三人がそれぞれ手ずから海苔を巻いて置いていく。
画面の向こうのオメガより今この目の前の自分のオメガが可愛いと三人のアルファは一様に思っていた。
そして、画面には今回の参加者が発表される。
キター!と三人はワクワクしながら、フリフリもせずに画面に釘付けだ。
「ケン・オオツカ?」
「日本人?」
「マジか」
画面には黒髪をサイドに流してピカリと白い歯を光らせたアルファがタキシード姿で流暢な英語を話していた。
はわぁと画面を見つめる松竹梅、三人のアルファは内心面白くないと思いながらおにぎりを頬張った。
けれど三人は文句を言うことはできない、なぜながら文句ひとつで追い出すと最初に宣言されてしまったから。
「これはね、僕らの共通の趣味なの」
「だからさ、俺の方が可愛いとかそういう意見はいらん」
「どっちがかっこいい?とかそういう焼きもちもいらない」
「「「 文句言ったら追い出すから 」」」
ぐぬぬと拳を握りしめ、追い出されたくない三人はこの提案にのったと言うわけである。
「シュウ、具は何がいい?僕がフリフリする」
「焼きたらこ」
「侑さんは?」
「ツナマヨ」
「大和は?」
「高菜明太子がいい」
画面に次々と映し出される見目麗しい男たち、アルファたちは内心悪態をつきながら一心不乱にフリフリした。
ヒュッヒュッと空を切る音が心做しか怖い。
仕上がったおにぎりは手ずからそれぞれ口元に持っていく、ぱかりと開いた口が可愛い。
「決めた。セバスチャンを応援する」
「んじゃ俺はデューク。ペー助は?」
「んー、オーランかな」
番組も終盤、松竹梅はそれぞれ推しを見つけ画面にはエンディングが流れていた。
テレビを消したその後は六人で和気藹々と食事、とはならなかった。
アルファ達はなんとか松竹梅の気を引こうと一生懸命に話し、口におかずを入れる。
松竹梅の三人が話すのもままならず、視線を自分たちから逸らさせない。
焼きもちで独占欲で、だけれど当の松竹梅はというと今日めっちゃ喋るなくらいしか思っていなかった。
「んじゃ、帰るね」
「うん、気をつけてね」
「いや、すぐそこだし」
わははと笑って手を繋ぐ侑と和明に周平と大和も笑顔で手を振った。
向かう先はほんの3メートル先の柳楽家、大学進学を機に和明はここに越してきた。
ついでに和明の手によって侑も引越しさせられた。
ビールケースに乗って壁を乗り越えたりはもうしない、ちゃんと玄関の引き戸を開けて声をかける。
「ただいまぁ」
「・・・おかえり」
嗄れた声は平坦でそれでも返事を返してくれる、それが嬉しくて二人は顔を合わせてにんまりと笑い、そして声を揃えてもう一度言うのだ。
「「 ただいまー! 」」
侑と和明が辞した竹田家のキッチンでは武尊と卯花が食器を洗っていた。
その後ろ姿を見ながら周平はコーヒーを淹れ、大和は天板を拭く。
「卯花さん、また泊まるの?」
「んー、飲んでたからね。そうかも」
「代行は?」
「言うとしょげるから」
子どもみたいだよね、と笑う大和はほんのりと頬を染めた。
侑が隣家に越してから二階はほぼ大和だけが使っている、周平は仏間で武尊と一緒のことが多いから。
そうすると卯花の泊まりが増えた、大体が飲んでしまって車の運転ができないからと毎回同じことを言う。
東雲荘の跡地には卯花邸が絶賛施行中だ、設計図を何枚も見せられた大和はちんぷんかんぷんで、それでも『家事のしやすい動線』だけを卯花に伝えた。
来年の今頃には大和も新居へ越しているだろう。
寂しくなるな、と周平はマグカップにたっぷりの砂糖とミルクを入れた。
「なんの話?」
「武さん」
後ろから抱え込まれて周平はそのままいつもの体勢に収まった。
「なんでもない」
そう言って周平は砂糖もミルクも入っていないコーヒーを武尊に渡す。
大和と卯花の分はすでに盆に乗せられ、早く二階へ行こうと卯花が大和を急かしていた。
「やまち、お風呂は?」
「あとでいただきます」
卯花には聞いてないんだが?と周平が突っ込む前に、卯花は大和の背中を押して二階へと向かった。
去年の今頃はこんなことになってるなんて思ってもみなかったなぁと甘いコーヒーを飲んでふぅと周平は息を吐く。
背中にはすっかり馴染んだ体温があって、とくりとくりと規則正しい音に身を委ねた。
「・・・はぁ、幸せ」
「ん?」
「ん?」
するりと出てきた言葉、それに周平も驚いて、ん?と武尊と顔を見合わせて同時に笑う。
時の流れはいつでも変わらないと思っていた、けれどこの一年はどの一年より密度が濃くあっという間に流れていった。
ただ出会っただけなのに、ただ恋をしただけなのに、人生とはこんなにも豊かになるということを知った。
「シュウ、結婚しようね」
「うん」
開け放たれた縁側の掃き出し窓から春の心地よい風がさわさわと吹き込んでくる。
空には星が瞬き、丸い月も優しく地上を照らして、ブロロロと車が通り過ぎ、遠くではやっぱりワオーンと犬が吠えている。
松竹梅は今日も元気で、そして幸せです。
※読んでいただきありがとうございました!
今後は本編で触れられなかったことなど補完的に、あとは松竹梅のその後のお話などを番外編としてちょこちょこあげていきたいと思います。
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