75 / 82
不安な気持ち
しおりを挟む丸見えだぞ!と侑が言った風呂は温水を出すと湯気があがり、中が見えづらくなった。
ジュースを飲んでタルトを食べて、まずは風呂だなと侑は至極あっさりと言いのけ一人でスタスタと歩いていってしまった。
和明とて初っ端から一緒の風呂に入れるとは思ってなかったので別にいい、後で一緒に入ろう。
それはいいが侑から恥じらいのようなものが感じられない。
まさかと思うがここまで来て普通に寝るだけだと思っているのだろうか。
そういえば勃たないと言っていたな、と和明は思考の沼にずぶずぶと沈みこんだ。
その頃、侑は広く丸い浴槽に身を沈めてブクブクと考えていた。
自分は上手くできただろうか、今日はこの間のぺたぺた以上のことをするのだ。
なにをどうするか位はよくわかっている。
今日出会ったときの和明はカチコチだった、眉間に薄らと皺を寄せて怖い顔をしていた。
なにか思うところがあるとすぐにあの眉間には皺が刻まれるのだ、侑はそれをよく知っている。
「あっくん、リラックスだよ。変に突っ走ったりせずに自然体でね?あと、同じモノだと思っちゃいけないよ?」
「あっくんの方が歳上だからってリードしてやろうとか絶対考えたら駄目だぞ?想いあっていれば素直にそういう雰囲気になるから。あと、同じモノじゃないかんな?」
前者は大和で後者は周平だ、一体なんだと思われてるんだ。
リラックスだの自然体だのとそんなもんは和明が一番できてなかったじゃないか。
ここはやっぱり歳上の自分がリラックスさせてやらねば、と侑はここまでやってきた。
幸い和明の笑顔も見れるようになった、勝負パンツも持ってきた。
ナニをなにしてどうするか、勃たなくても後ろさえ使えれば問題はない。
そもそもそういうことをする場所なんだから、和明が性的嫌悪を示すこともない・・・多分。
温かい湯に浸かっているのに思わず体がぶるりと震えた。
蔑んだような視線、気持ち悪いと落ちた冷ややかな言葉、部屋中に噎せ返る性の匂い。
ぶんぶんと頭を振ってそれらをやり過ごす、和明は違う。
ぺたぺたと触るだけだったあの手は優しかった、他人の体温があんなにも心地良いものだとは思わなかった。
幸せにする手だと言ってくれた、だったらその手を掴んで離さないようにしよう。
もし、もしも今日が駄目でも自分にはまだ発情期がある。
それさえあれば和明を誘うことができる、まだ道はある。
本音を言えば全てをさらけ出すのはとんでもなく恥ずかしい。
だけどその恥ずかしいのを和明になら見せてもいいかな、とも思うのだ。
大丈夫!とパンパンと両手で頬を叩いて、頑張るぞーと湯船から立ち上がって侑は拳を突き上げるのだった。
風呂から出ると和明は入る前と同じくソファに腰かけ天を仰いでいた。
「和明、寝た?」
「寝てない」
良かったとホッとしたのも束の間、目をかっぴらいた和明がズンズンと近づいてくる、ちょっと怖い。
身構えていると首から下げたタオルでわしゃわしゃと髪をふかれて、バスローブの腰紐をキュッと結ばれた。
「ちゃんと着て」
「これから脱ぐのに?」
「その前に、話し合おう」
この期に及んで一体なにを話し合うのか、侑は首を捻った。
背中を押されてソファに座らされまた桃のジュースを飲まされた。
ほこほこと温まった体に冷たいジュースが染み渡る、ぷはぁと飲み干して侑はぐいとその口を拭った。
「話って?」
「今からなにするか本当にわかってる?」
「セックス」
侑は左手の指で輪を作り右手の人差し指でその輪を突き刺した。
それはやめろ、とすぐに手を包まれてしまったが。
「侑さんは勃たないんだよね?」
「ん?うん」
「その・・・そういうことするの怖かったりする?」
じっと至近距離で見つめられて手は宥めるように撫でられながら、和明の言うことを侑は真剣に考えた。
セックスが怖いわけではない、割り切ってやれば平気だと思う。
ただその後を考えると不安になるかもしれない。
大丈夫だという自信もある反面、もしも和明に顔を背けられたら自分はきっと立ち直れない。
「怖くないよ、歳上だし」
「今は歳関係ないから」
「・・・嫌われたくない」
キョトンと首を傾げる和明に合わせて侑も同じように首を傾げた。
おかしなこと言っただろうか?
「なんで嫌われるの?」
「えーと、いやらしいから?」
「それのなにがダメ?」
「なにが、ダメなんだろ?」
今度は逆方向に二人してまた首を傾げた。
「嫌いになんてならないよ?」
「うん、俺もそう思う」
なにそれ、とふはっと和明は笑って話しながら少しずつ近いていた距離はコツンと額がぶつかった。
手はいつの間にか指を絡めて手のひらを合わせた。
「だって、この手をもう覚えてる」
「うん」
鼻先がちょんと当たって、吐息もぶつかり合って、視線も絡んで、唇が合わさる。
「ドキドキするな」
切なそうに瞳を揺らした侑の赤くなった鼻先、僕もだよと和明は自身の鼻を擦り寄せた。
※遅くなりました。誠に申し訳ありません。
66
お気に入りに追加
432
あなたにおすすめの小説
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
嘘の日の言葉を信じてはいけない
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
嘘の日--それは一年に一度だけユイさんに会える日。ユイさんは毎年僕を選んでくれるけど、毎回首筋を噛んでもらえずに施設に返される。それでも去り際に彼が「来年も選ぶから」と言ってくれるからその言葉を信じてまた一年待ち続ける。待ったところで選ばれる保証はどこにもない。オメガは相手を選べない。アルファに選んでもらうしかない。今年もモニター越しにユイさんの姿を見つけ、選んで欲しい気持ちでアピールをするけれど……。
オメガの復讐
riiko
BL
幸せな結婚式、二人のこれからを祝福するかのように参列者からは祝いの声。
しかしこの結婚式にはとてつもない野望が隠されていた。
とっても短いお話ですが、物語お楽しみいただけたら幸いです☆
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
それでも僕は君がいい
Q.➽
BL
底辺屑Dom×高スペ王子様系Sub
低スペックで暗くて底意地の悪いDomに何故か惚れきってる高スペック美形Sub男子の、とっても短い話。
王子様系Subにちょっかいかけてる高位Domもいます。
※前中後編の予定でしたが、後編が長くなったので4話に変更しました。
◇大野 悠蘭(ゆらん) 19/大学生 Sub
王子様系美形男子、178cm
秋穂の声に惹かれて目で追う内にすっかり沼。LOVELOVEあいしてる。
◇林田 秋穂(あきほ)19/大学生 Dom
陰キャ系三白眼地味男子 170cm
いじめられっ子だった過去を持つ。
その為、性格がねじ曲がってしまっている。何故かDomとして覚醒したものの、悠蘭が自分のような底辺Domを選んだ事に未だ疑心暗鬼。
◇水城 颯馬(そうま)19/大学生 Dom
王様系ハイスペ御曹司 188cm
どっからどう見ても高位Dom
一目惚れした悠蘭が秋穂に虐げられているように見えて不愉快。どうにか俺のSubになってくれないだろうか。
※連休明けのリハビリに書いておりますのですぐ終わります。
※ダイナミクスの割合いはさじ加減です。
※DomSubユニバース初心者なので暖かい目で見守っていただければ…。
激しいエロスはございませんので電車の中でもご安心。
【クズ攻寡黙受】なにひとつ残らない
りつ
BL
恋人にもっとあからさまに求めてほしくて浮気を繰り返すクズ攻めと上手に想いを返せなかった受けの薄暗い小話です。「#別れ終わり最後最期バイバイさよならを使わずに別れを表現する」タグで書いたお話でした。少しだけ喘いでいるのでご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる