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巣ごもりプラン A

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ある日の寒い朝、大和がリビングへと向かうとキッチンに周平が立っていた。

「あれ?」
「おはよう、やまち」
「おはよ、マナベは?」
「休んだ」

そっか、とケトルで湯を沸かしマグカップにティーバックを入れて大和はあっと思い当たった。

「ペー助、もうすぐ発情期ヒートか」
「そうそう」
「で、朝からなにしてんの?」
「ご飯作ってる」

こたつでばかり食事をとる竹田家だが、一応ダイニングテーブルがある。
その上には大小のタッパーが並び、ジップロックにはタレ漬けの肉や衣付きのカツレツが入っていた。

「なんのご飯なの?これ」
「やまち、スマホでさ巣ごもりプランって検索してみ?」

ちょうどケトルの湯が湧いてマグカップに湯を注ぎ、こたつで大和はスマホを開いた。
メッセージアプリには卯花からのメッセージが届いており、先にそれを確認する。
おはようの挨拶と共に一日のスケジュールが送られており、今日は企画会議と予算会議が主な予定で昼食は社食を食べるらしい。
マメな人だなぁ、と思いながら大和はおはようと頑張ってとオカメインコが言っているスタンプを送信した。
昼にはきっと社食の写真が送られてくるのだろう。
なので大和も昼飯の写真を送る、うどんとか時にはお茶漬けの日もある至って普通の手抜きご飯だ。
このやりとりに何の意味があるのか大和にはさっぱりわからないが、なぜか卯花が喜ぶのでそうしている。
ついでに社食はその日の夕食のヒントになるので助かってもいる。

「・・・えっと、巣ごもりプラン──」

うわぁ、と思わず声を上げた大和の肩口にぬっと周平が顔を出した。
すげぇだろ?と言うのにこくこくと大和は頷いた。

巣ごもりプランとは発情期ヒートのオメガとそのパートナーのアルファのためのプランだった。
いろんなホテルがこのプランを打ち出している。
サービスに差異はあるが、どのプランでも変わらないのが食事からリネンの取り替えから一切合切をホテルの世話になるというものだった。
そして、金額が高い。
客室のクラスにもよるが一番安いプランでも一泊五万円からで、発情期期間は個人差はあるが三日から七日が通常と言われているなかで一泊五万円。
七日として三十五万!?と大和は顎が外れるほど驚いた。

「ペー助、これ、まさか・・・」
「うん、武さんがどのホテルがいいって」
「やっぱり・・・」
「どのホテルもこのホテルもやだよ、俺は」
「だから、作り置きなんだ」
「武さんの家事レベル赤ちゃん並だからね」

よいしょ、と周平は立ち上がりまたキッチンへと向かっていった。
その背中を見送ってから、大和は襖の閉ざされた仏間を見やった。
これは周平のためにやるしかあるまい、と決意を込めて侑の部屋へ向かうのであった。


「あのさぁ、どうやって今まで生きてきたの?」
「コンビニとか、クリーニングとかあるし・・・」

仁王立ちの侑の前で正座をする武尊の歯切れは悪い。
視線は床に落とされ、指先はもじもじと遊んでいた。

「そんなんで発情期乗り越えられると思ってんの!?」
「だから、ホテルを予約しようと」
「自分で全部お世話するって気概はないの?」
「だって・・・家事できないし」
「できない、で思考停止してんじゃねぇ!」

バチコン!ととても良い音を鳴らして侑が頭垂れる武尊の頭を張った。
おろおろする周平は大和がガッチリと抑えていた。

「ペー助、ここで踏ん張ってあの人を少しはまともにしておかないとこの先苦労するよ?」
「でも、家事なら俺の方が得意だし・・・」
「結婚して子どもできても同じこと言える?」

そうだそうだ、と侑は腕を組んで睨みをきかせて武尊を見下ろした。
そして絶句した。

「・・・子ども」

ほわわわぁと花が零れるような笑みを浮かべて脂下がる武尊は正直気持ち悪かった。
可愛いだろうなぁ、とえへらえへらと笑う武尊の脳天にドスッと手刀を落とした侑は叫んだ。

「特訓だぁぁあああああぁぁ!!」


そんなわけで武尊は松竹梅から家事の徹底指南を受けていた。
元々やる気がなかったからやらなかっただけで、武尊はアルファなのだ。
物覚えもいいし基本的なことは押さえられるようになるのにそう大した時間はかからなかった。

「あのね、武さん。ペー助のあの作り置きは武さんのためなんだよ?」
「ん?」
「僕らはさ、その・・・そういう時は、なんていうか疲れちゃってあんまり食べたりできないからさ。ゼリーとか果物とかさ・・・」

真っ赤な顔の大和に釣られて、あぁと武尊の顔も赤くなっていく。
発情期中は性衝動が一番にきてしまう、それに支配されてしまうのだ。
食事なんかは二の次になってしまう、命を削るようなそれのおかげでオメガの腹からはアルファが産まれやすいのだ。
種の防衛本能とでもいうのだろうか、次代に優秀な種を残すという原始の本能なのかもしれない。

「武さんに食べさせたかったんだと思うよ。ペー助は動けないから。愛されてるね」
「ありがとう、大和くん」

そう言って武尊はパンパンと皺を伸ばしながら洗濯物を干していく。
どういたしまして、と大和はその姿を眺めながら思う。
卯花は元恋人と発情期を過ごしたことがあるんだろうなぁ、と。
なんのかのと理由をつけていたが、あの上等な果物やジュースは的確だった。
チクチクと痛む胸の内はどこへ向かえばいいんだろう。


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