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ムラムラするの?
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どれくらいそうしていただろうか、武尊同様に周平も武尊の匂いを胸に取り込んでいた。
いい加減友倉弁護士も呆れてしまっているのかもしれない。
そう思い、胸から顔を上げると既に友倉弁護士はいなかった。
こたつの上には一通のメモが置いてあり、『なにかあれば連絡を』と書いてあった。
四通の封筒はそのままに、カップのコーヒーは空になっている。
「ただいまぁ。あれ、武さんおかえり」
「やまち、どこ行ってたの?デート?」
「違うよ、ヤザワヤに糸とか生地とか見に行ってた」
掲げた大きな紙袋は二つもあり、にっこりと笑う顔を見れば収穫は上々のようだ。
何もなかったように武尊の胡座に収まっている周平を見て、しっくりくるなぁと大和は思った。
「あっくんは?」
「それがさぁ」
大和が言うには昼食のオムライスは一緒に食べた。
その時、お昼の情報番組で『街かどアンケート』のコーナーを見たという。
お題は『恋人の好きな仕草、嫌いな仕草』
それを見ていた侑が、突然叫んだ。
「これだーーっ!!」
そう叫んで大和の着ていたカーディガンを奪いとり、昼食の片付けもせず飛び出していった。
「なんで、やまちの服?」
多分だけど、と複雑な顔をした大和が語った予想は竹田家から離れた場所で的中していた。
和明の通う高校の校門前に侑はいた、なにか約束があったわけではない、完全な押し掛けだ。
ぶりっ子はしなくていいと言われたが、可愛らしい格好をするのは喜ぶのではないか。
思い返せば夏の間はTシャツにハーフパンツで、寒さを感じるようになった今は半袖が長袖に変わっただけのTシャツだ。
周平も大和もデートをしたことがある。
自分だけないのはなんだか悔しい、その一心で侑は高校までやってきた。
きっとこの格好を見れば、いっちょデートするかという気持ちになるかもしれない。
「あれ、お兄さん?」
ムフフと袖口で口元を抑えて笑っていると声をかけられた。
ん?と振り仰ぐと見たことあるような、ないような・・・
「和明を待ってるの?」
「誰だっけ?」
「和明との写真撮ったんだけど」
「あ、あぁ、えっと、ムラだ!」
そうそうとムラこと上村は笑って、和明ならもうすぐ来るよと言った。
「一緒に待っててあげようか?」
「なんで?」
「だって、注目浴びてるし」
見れば校舎からぞろぞろと大勢の人が出てきていた。
通りすがりにみんなが一度は侑に目を止める。
制服の中に私服がいれば目立つだろうし、それに侑はもう二十歳なのだ。
「俺が大人なのにこんなとこいるからか・・・」
「んんっ?」
「違うのか?」
「いや、可愛いからだと思う」
「あぁ、これ?可愛い?和明もそう思う?」
思うんじゃない?と上村は思ったが言えなかった、物理的に。
いつの間にか和明に背後をとられ、首に腕を回されたからである。
「なにしてんの?」
「和明!」
「何しにきたの?」
頭の先からつま先まで視線を巡らせた和明は上村を放り出して、侑の手を引いてその場を離れた。
ずんずんと制服を着た集団を追い越していく、好奇の目は和明に注がれていてやっぱりモテるんだなぁと侑は思った。
そのまま歩いて脇道に逸れていく。
「おい、駅はあっちだぞ」
その声を無視してまっすぐ歩くと小さな児童公園に着いた。
小学生らしき子達がベンチに座ってゲームをしている。
「なんで来たの?」
くるりと振り返った和明の眉間には皺が寄っていた。
なんでってほら、と侑は両手をぷらぷらと揺らしながら鼻を啜った。
「萌え袖ってやつだ。可愛いだろ?」
「それで?それを見せに来たわけじゃないんでしょ?」
「いや、これを見せに来た」
「馬鹿なの?」
「馬鹿じゃねぇよ!」
そう憤る侑だが鼻が垂れた鼻声では全く迫力がなかった。
はぁ、と大きく嘆息した和明が侑をベンチに座らせた。
「僕、受験終わるまで待っててって言ったよね?」
「でもさ、和明から付き合ってって言ったのにおかしくない?それに、今までは頻繁に家に来てたじゃん」
「・・・そうだけど、そうなんだけど。自分でもこんなになると思わなかったんだよ」
「なにが?」
ムラムラすんだよ、と和明は絞り出すような声音で言う。
やったーと向かいのベンチで子どもが騒ぐ。
「俺の発情期まだ先だけど」
「は?」
「だから、そうじゃないとムラムラしないだろ?」
「するけど」
「なんで?」
ずびっと鼻を啜って目を丸くする様は本当にわかっていないように見えた。
「侑さんが好きだからだよ」
「好きだとムラムラすんの?」
「するでしょ」
侑にはよくわからない、性衝動が原因で家族と別れたから。
オメガだから発情期がくれば発散するが、それ以外で自分にそういう魅力があるとは思えない。
マッスルバーも性的興奮を求めて行っていたわけではない。
単純に楽しいし、筋肉には包容力があると思う。
ただそれだけだから、やっぱり侑は首を傾げた。
※あっくん回、二話に分けます
まとめられなくてすみません
いい加減友倉弁護士も呆れてしまっているのかもしれない。
そう思い、胸から顔を上げると既に友倉弁護士はいなかった。
こたつの上には一通のメモが置いてあり、『なにかあれば連絡を』と書いてあった。
四通の封筒はそのままに、カップのコーヒーは空になっている。
「ただいまぁ。あれ、武さんおかえり」
「やまち、どこ行ってたの?デート?」
「違うよ、ヤザワヤに糸とか生地とか見に行ってた」
掲げた大きな紙袋は二つもあり、にっこりと笑う顔を見れば収穫は上々のようだ。
何もなかったように武尊の胡座に収まっている周平を見て、しっくりくるなぁと大和は思った。
「あっくんは?」
「それがさぁ」
大和が言うには昼食のオムライスは一緒に食べた。
その時、お昼の情報番組で『街かどアンケート』のコーナーを見たという。
お題は『恋人の好きな仕草、嫌いな仕草』
それを見ていた侑が、突然叫んだ。
「これだーーっ!!」
そう叫んで大和の着ていたカーディガンを奪いとり、昼食の片付けもせず飛び出していった。
「なんで、やまちの服?」
多分だけど、と複雑な顔をした大和が語った予想は竹田家から離れた場所で的中していた。
和明の通う高校の校門前に侑はいた、なにか約束があったわけではない、完全な押し掛けだ。
ぶりっ子はしなくていいと言われたが、可愛らしい格好をするのは喜ぶのではないか。
思い返せば夏の間はTシャツにハーフパンツで、寒さを感じるようになった今は半袖が長袖に変わっただけのTシャツだ。
周平も大和もデートをしたことがある。
自分だけないのはなんだか悔しい、その一心で侑は高校までやってきた。
きっとこの格好を見れば、いっちょデートするかという気持ちになるかもしれない。
「あれ、お兄さん?」
ムフフと袖口で口元を抑えて笑っていると声をかけられた。
ん?と振り仰ぐと見たことあるような、ないような・・・
「和明を待ってるの?」
「誰だっけ?」
「和明との写真撮ったんだけど」
「あ、あぁ、えっと、ムラだ!」
そうそうとムラこと上村は笑って、和明ならもうすぐ来るよと言った。
「一緒に待っててあげようか?」
「なんで?」
「だって、注目浴びてるし」
見れば校舎からぞろぞろと大勢の人が出てきていた。
通りすがりにみんなが一度は侑に目を止める。
制服の中に私服がいれば目立つだろうし、それに侑はもう二十歳なのだ。
「俺が大人なのにこんなとこいるからか・・・」
「んんっ?」
「違うのか?」
「いや、可愛いからだと思う」
「あぁ、これ?可愛い?和明もそう思う?」
思うんじゃない?と上村は思ったが言えなかった、物理的に。
いつの間にか和明に背後をとられ、首に腕を回されたからである。
「なにしてんの?」
「和明!」
「何しにきたの?」
頭の先からつま先まで視線を巡らせた和明は上村を放り出して、侑の手を引いてその場を離れた。
ずんずんと制服を着た集団を追い越していく、好奇の目は和明に注がれていてやっぱりモテるんだなぁと侑は思った。
そのまま歩いて脇道に逸れていく。
「おい、駅はあっちだぞ」
その声を無視してまっすぐ歩くと小さな児童公園に着いた。
小学生らしき子達がベンチに座ってゲームをしている。
「なんで来たの?」
くるりと振り返った和明の眉間には皺が寄っていた。
なんでってほら、と侑は両手をぷらぷらと揺らしながら鼻を啜った。
「萌え袖ってやつだ。可愛いだろ?」
「それで?それを見せに来たわけじゃないんでしょ?」
「いや、これを見せに来た」
「馬鹿なの?」
「馬鹿じゃねぇよ!」
そう憤る侑だが鼻が垂れた鼻声では全く迫力がなかった。
はぁ、と大きく嘆息した和明が侑をベンチに座らせた。
「僕、受験終わるまで待っててって言ったよね?」
「でもさ、和明から付き合ってって言ったのにおかしくない?それに、今までは頻繁に家に来てたじゃん」
「・・・そうだけど、そうなんだけど。自分でもこんなになると思わなかったんだよ」
「なにが?」
ムラムラすんだよ、と和明は絞り出すような声音で言う。
やったーと向かいのベンチで子どもが騒ぐ。
「俺の発情期まだ先だけど」
「は?」
「だから、そうじゃないとムラムラしないだろ?」
「するけど」
「なんで?」
ずびっと鼻を啜って目を丸くする様は本当にわかっていないように見えた。
「侑さんが好きだからだよ」
「好きだとムラムラすんの?」
「するでしょ」
侑にはよくわからない、性衝動が原因で家族と別れたから。
オメガだから発情期がくれば発散するが、それ以外で自分にそういう魅力があるとは思えない。
マッスルバーも性的興奮を求めて行っていたわけではない。
単純に楽しいし、筋肉には包容力があると思う。
ただそれだけだから、やっぱり侑は首を傾げた。
※あっくん回、二話に分けます
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